折り紙の正体
なんだろう?このカクカクした虫?
生き物感がなくて、折り紙を使った紙細工みたいだ。
「ねぇソエジン。この虫ってなにー?」
「それはショウリョウバッタだよ。知らない人もいるんだね。」
振り向くと、そこにソエジンじゃなくて箕輪がいた。
ゲッ。コイツも手伝ってんの?
昆虫のことになるとマウント取ってくるし、いちいち言い方がムカつくんだよね。
「オマエも来たの?」
「私はオマエじゃない。ちゃんと「箕輪咲」っていう名前があるんだけど。」
カチン!
「ソエジーン、ねぇ、コレ見てよ。」
ムカついたから、無視してソエジンの方に行った。
「ちょっと!オマエって言ったの謝ってくんない?」
「す、み、ま、せ、ん。箕輪さんも失礼な言い方はやめた方がいいですよ!」
「ちょっと!私のどこが・・」
「あ〜あ。めっちゃ疲れた。」
着替えるのも面倒臭かったから、制服をジャージ入れに突っ込んで、土のついたジャージのまま家に帰ってきた。こういう時、自転車通学だと楽チンだ。
畑に置いてきたはずの愉快な仲間達も、いつのまにかちゃんとジャージのポケットに収まっていた。
2匹とも畑でしばらく遊んで満足したようだ。
「オロンオロン、ピッピッ」
と楽しそうな声が聞こえてくる。
家に着いて真っ先にお風呂に入ると、身体を洗うついでに、ジャージの土を軽くこすって洗い流してから、洗濯機に放り込んだ。2匹とも消えているけど、オロピッピ聞こえるから、どこかにはいるんだろう。
せっかくソエジンがお礼にジュースを奢ってくれるって言ってたのに、箕輪のことがムカついてて、さっさと帰ってきてしまった。
疲れちゃったし、全然宿題をする気にならない。
そうだ!ご飯の用意をしよう。
そうと決まれば、早くお風呂から出よう!
ふと気づくと、愉快な仲間たちは湯船に浮かんで、楽しそうにグルグル回っていた。
今日は味噌定食の日だから、炊飯器のスイッチを入れたら、豚肉を冷蔵庫から出しておく。豚肉は常温にしておいてから焼くと、火が通りやすくなって柔らかく仕上がるってパパが言ってた。
ボクはまだ肉料理は作らせてもらえないんだ。ちゃんと火を通しているか、周りに菌を撒き散らすようなことをしていないか、テキトー人間のボクは、イマイチ信用されていない。例えば、今日使う豚肉の場合だと、食中毒の危険、その中でも特にE型肝炎ウィルスと寄生虫の危険があるから、生食厳禁なんだ。生肉を触った手で、うっかり他の料理を触っちゃったらアウトだ。
だから、またサラダを作ることにした。
今日はたまごサラダを作ろう!
電子レンジに使える、少し深さのある耐熱皿にたまごを2個・・いや、あまったら明日の朝、パンにのせて食べられるように3個にしよう。3個割入れて、それぞれのキミにフォークを2回ずつ、しっかりと刺す。ついでに、ブリンッとした白身をフォークの背で潰す。白身のゼリー状の部分を切っておかないと、電子レンジを使った時に、キミだけじゃなくて、この部分も爆発しちゃうんだって。これを、白身のコシを「切る」とか「折る」とかいうらしい。
そうしたら、そのままフワッとラップをして、電子レンジで様子を見ながら2〜3分くらい。半熟でも、そのまま少し置いておけば余熱で火が通るし。(ボクは半熟が好きだ。)そこに、マヨネーズと好みでちょっぴりの砂糖を入れて、フォークでぐちゃぐちゃ混ぜるだけ。チョ〜簡単!
たぶん今日もママがカットキャベツを買ってくるけど、それは明日コールスローサラダにしよう。パパに作り方を教えてもらわなくちゃ。
ママが帰ってきて、今日の話をした。
「うーん、箕輪さんは、なんでそんな言い方するんだろうね。」
「そーなんだよ!ほとんど話したこともないのにさ。」
「まあでも、仲良くない人に「オマエ」って呼ぶのは良くないかなぁ。」
「え?なんでボクが悪いみたいに言うの?だって、同じクラスだよ?ボクだってオマエって呼ばれてるし。」
「箕輪さんも、りくのこと「オマエ」って呼んでるってコト?」
「・・・あんまり話したことない。」
「だったら同じクラスだからって「オマエ」って呼んじゃダメよ。」
おもしろくない。ママなら、ひどい子ね〜って言ってくれると思ってたのに。
ボクが不貞腐れたのを見て、
「食べ物の好き嫌いって、人によって違うでしょ。それと同じで、合う人と合わない人がいるの。その中から、好きな人、嫌いな人が出てくるんだけどね。同じクラスでいる以上、グループが一緒になったり、席が隣になることがあるから、気にしないとか、関わらないようにする術も身につけて欲しい。「スルー力」っていうのかな。」
「嫌な言い方されたら、ムカつくに決まってるじゃん!気にするななんて言われても、そんなの絶対ムリだよ。じゃあママはさ、ダレに何を言われても気にしないわけ?」
そう言い返すと、ママはアハハと笑って
「できないわよ。そんなに人間できてないもん。でもね、心がけるようにはしてる。」
と言った。
「スルー力を身につけるのが難しいなんて、百も承知よ。でもね、心がけるだけでも違うのよ。」
「自分ができてないくせに、ボクにはやらせようとしないでよ!」
あのね、りく、と言って続けた。
「確かにママは、自分ができてないことを、やりなさいって言ってるけどね、親が子どもに言うことなんて、正論ばっかりなの。アナタはまだ未成年で、経験値も低くて未熟だから、誰かが正論を教えなくちゃいけないのよ。もちろん「正論イコール正解」ってわけじゃないけど、まず「正論」というものを知ってから、どこまで妥協できるか、我慢できるか、許せるかを考えて、経験していくの。最初から、ズルや楽なこと、逃げることを教えてしまったら、何が最良なのか判断できないでしょう。」
下を向いて、じっと考えた。
もしママに「そんな失礼な子、ムシしなさい」って言われたら、そうだよね!って言って、喜んでムシしただろう。だけど、イジメられているわけじゃないのに、嫌な言い方するからとか、嫌いだからなんて理由で、先生に「箕輪とは一緒のグループにしないでください」なんて言えないし、もし言ったらボクの方が嫌なヤツになっちゃう。それはイヤだ。
箕輪のことは、考えないようにしてみよう。
そうすれば、もうイライラする事もないだろうし。
すっごく難しいけど、楽しいことを考えてみようかな。
愉快な仲間達は、バカっぽいけどいつも楽しそうだ。
アイツらのこと考えてみようかな。
ボクの顔から険しさがなくなったんだろう。ママが穏やかに、でもハッキリと
「でももし、嫌がらせされたり、わざわざ意地悪を言われたりしたら、すぐにママに言うのよ。絶対にね。」
と言った。それを聞いたら、なんだかくすぐったいような気持ちになって、不思議と箕輪のコトなんかどーでもよくなった。
気がつくと、愉快な仲間達がテーブルの上をノロノロぴょんぴょん楽しそうに歩き回っている。
コイツらに気づかないほど、気持ちがトゲトゲしてたんだな。そうだ、コイツらに名前をつけてやろう。
思わず微笑んだボクに、ママが昼間捕まえたバッタの話しを始めた。
「ショウリョウバッタって、あのイケメンバッタでしょ?」
はて?イケメンバッタ?
食事中だけど、画像をググってママに見せた。
「ショウリョウバッタって、コレだよ?」
「そう!これこれ。イケメンバッタ。」
ママの基準って、よくわかんないな。ボクには折り紙にしか見えない。
「なんで「ショウリョウ」って言うんだろうね。」
「えーっと、お盆の精霊祭の頃によく見つかるからとか、精霊流しの船に似てるからとか、って書いてあるよ。」
へぇ、知らなかったね、と2人で話しながら食事を終える頃には、あんなにムカついていた箕輪のコトは、すっかり忘れていた。




