折り紙みたいなキミは誰?
「頼むよぉ〜。りく〜。マジで、この通り!」
「暑っついのにヤダよ〜」
さっきから、同じやり取りを何度となく繰り返している。
今朝は遅刻ギリギリで学校に着いた。これも全部アリンコのせいだ。
「あ、あぶなかった・・。」
普段は、ヘルメットをしっかり被ってスピードも出さず、安全運転を自負しているボクなのに、今日だけは立ち漕ぎまでしてしまった。どうしよう、道路交通法違反かもしれない。お巡りさんごめんなさい!
自転車置き場についた途端に予鈴がなっちゃったから、大慌てで教室に向かう。
走りながら、腕にナメクジとハエトリグモがいるのを見て、思わず溜息をついた。
「はぁ〜。これじゃあ「ボクと愉快な仲間たち」だよ。これからどうなっちゃうんだろう。」
ボクの気持ちなんて、能天気なコイツらは露ほども考えてないんだよな。
オロンオロン、オロローン。
キュピ!キュッピー!
片方は騒々しくチョロチョロぴょんぴょん、片方はうねうねノロノロと、2匹とも楽しそうにボクの腕を動き回っている。幽霊だから感触はないんだけど、こそばゆい気がするし気持ちが悪い。
昔だったら、間違いなく振り払っていただろうな。
でもボクは、一瞬でもコイツらになって、コイツらと過ごして、コイツらと話したから、振り払おうとは思わない。というか、思えない。
「太陽が出てるぞ!ここに入っておいた方がいいよ!」
胸ポケットを広げながらそう言うと、2匹は慌てて中に収まった。といっても、ナメクジが強烈に遅くって(本人、もとい、本ナメクジにとっては爆速のつもり)、業を煮やしたハエトリグモが押したり引いたりしながら、やっと入れたんだけどね。
アリンコは、他の人には見えないって言ってたけど、霊感があったら見えるかもしれないし(見えたって「何コレ?」程度だろうけど)、なにより気になってしょうがない。ポケットに入ってくれたから、これでひとまず安心できる。
本当は、もう死んじゃってるから、太陽から慌てて隠れる必要はないんだけどね。単細胞で助かった。
はぁ〜〜〜
再び長い長ーい溜息をついてから、教室に入った。
やっと1時間目が終わった。次は数学かぁ。今日は朝からいろいろあって、なんだか疲れちゃったなぁ。
机に突っ伏していると、ソエジンが寄ってきた。
「放課後、畑の草むしり手伝ってくんない?」
ソエジンは園芸部で、畑というのは、園芸部が管理している校内にある畑のことだ。
「いやさ〜、このまえジャガイモの収穫したじゃん。収穫した後、そのまま放っておいたら雑草がエグいことになっちゃって。」
ソエジンが手を擦り合わせながら言っている。ハエじゃないんだから、やめなさいって!
可愛い先輩がいたっていう邪な気持ちで入部した割に、不思議とソエジンには合っていたらしく、たまにサボりはするものの、概ねちゃんと参加している。
野菜の花も意外とキレイなんだそうで、「花が見られて実も楽しめる」ということで、部員一同(5人しかいないけど)意見が一致したそうで、せっせと野菜を育てている。
「このままだと、夏野菜の苗が植えられないんだよぉ。そんなに広くないし、すぐに終わるから手伝ってよ。頼むよぉ〜。りくもジャガイモ食べただろ〜。」
そうだった。部員が少ないからボクも収穫を手伝って、少し分けてもらった。
皮ごとスライスしたジャガイモを、少し多めの油で焼いた後、熱いうちにアキシマンをかけるだけ!めちゃくちゃ美味しくなるんだよな〜。ママにも大好評だった。
思い出してニヤけていると、
「お!その顔は手伝ってくれるってことだよね。」
「ヤダよ。そりゃジャガイモ食べたけどさ、芋掘り手伝ったじゃん。」
と、ここから冒頭につながるんだ。
明日の活動日に草むしりをして、来週は苗植えをする予定だったらしい。ところが、来週届くはずだった野菜の苗が昨日届いちゃったから、明日は急遽予定を変更して苗植えにしたいそうだ。
苗が届いたのが昨日の放課後で、部員達は今朝になって知らされたもんだから、来ることができない部員が多くて、ボクがスカウトされたってわけ。
「やだよ。他のヤツに頼んでよ。」
「そんなこと言うなよ〜。苗の葉っぱが萎れちゃうんだよ〜。コバエも湧いちゃうかもしれないし〜。」
「葉っぱ」「コバエ」というキーワードを聞いて、突然ポケットの2匹が騒ぎ出した。
「葉っぱ!葉っぱ食べたいのー!オロロン。」
「コバエ!コバエ食べたいっピ!」
何だよオマエ達!死んでるのに食べれるわけないじゃん!
2匹の「はったけ!はったけ!」コールに負けて、結局放課後に草むしりを手伝うことになった。
はぁ〜〜〜〜〜 前途多難。
ジャージに着替えて畑にいくと、確かに「作物は雑草」状態になっていた。
「うへぇ〜〜。これ全部抜くのか〜〜。」
愉快な仲間達は、しっかり制服からジャージのポケットに移動していて、草むらにダイビングする気マンマンで半分顔を出している。
コイツら、いつまでいるんだろう。
「ほら!軍手」
ソエジンから軍手を受け取ると、しゃがんで雑草を抜き始めた。同時に仲間達も雑草畑に飛び降りて、楽しげに遊んでいる。
お気楽なヤツら。
雑草の合間に青い尻尾がチョロチョロしている。
あ、ニホントカゲの子どもだ。キレイだな〜。
ニホントカゲは、子どもの頃だけ尻尾がメタリックブルーだ。日本にもこんなに可愛いトカゲがいるんだよな。さっきはカナヘビもいたし、なんか自然が近くていいなぁ。
最初は暑くてブツブツ文句を言ってたけど、いつのまにか草むしりに夢中になっていた。
ビョーーーン
ん?バッタかな?
ビョン ビヨヨーーーーン
ヨッと!
手で優しく捕まえた。手の平がモゾモゾしてくすぐったい。捕まえたモノを、そうっと指で摘んで見てみると、なにやら折り紙みたいな虫だった。




