まさかの再会
ガムシとの別れ(?)で、泣き腫らした目をしたボクを心配して、ママが極甘のカフェオレを作ってくれた。いや、この甘さは極甘を通り越している。地獄級の獄甘だ。こんなに甘いの飲んでたら、朝ごはんなんて食べられないよ。アリンコは大喜びだけどね。
ママがコーヒーを持って向かい側に座った。
「どうしたの?最近、イヤな夢を見ることが多いわね。何かあった?」
ママが優しく聞いてくれる。今日は特に強烈な悪夢を見たんだと思っているんだ。
いえいえ、ゲンゴロウになった夢ですよ、とは言えないなぁ。
「大丈夫だよ。覚えてないけど、すごく怖い夢だったんだ。」
そぉ?と言いながら探るような目で見ている。なんだか落ち着かない。
「今日は目玉焼き食べたいな!作っていい?」
「あら、いつもはいらないって言うのに、珍しい。食欲があるなら安心ね。ママが作るから先食べてなさい。」
と言って、ママは台所にいった。
朝はいつも、ママはコーヒーだけ、ボクはトーストと牛乳(時々カフェオレ)とフルーツだ。フルーツも、バナナやみかんのように、自分で好きなように食べられるモノが多い。おやつにもなるしね。
「心配するでない。」
アリンコがいつの間にか現れて、ボクの指先から獄甘カフェオレをもらいながら言った。
「ん?なにが?」
「ガムシはゲンゴロウを忘れないようにと、草像を作って拝んでおったわ。」
「草像?」
「草で作ったゲンゴロウを模したものよ。なんと呼べばよいのかわからぬでな、我が草像と名付けた。キチンと供物を捧げておったゾ。」
「供物?」
「腐肉よ」
「えぇー!?」
思わず大声を出しちゃったから、ママが台所からとんできた。
「ちょっとちょっと、どーしたの?何かあった?」
「う、ううん。カフェオレこぼしそうになっただけ。」
そう取り繕うと、ママはびっくりした〜と言いながら、戻って行った。
ガ・ム・シーーー!腐肉はやめてよぉ!
・・・・・
まあ、仕方がない。
ゲンゴロウはスカベンジャーだから、ガムシが腐肉を好物だと思ってても・・・・
腐肉を思い浮かべて頭を振った。
いや、考えるのはやめよう。
ママが、ウインナーも焼こうかと言ってくれたけど、いまのボクに動物性タンパク質は食べられないよ。目玉焼きが精一杯だ。ぎゃふん。
食事を終えると、洗い物はボクがする。といっても、自分が使ったお皿とマグカップくらいだけど。
ママはお化粧があるから、朝は忙しいんだ。
ボクも、そろそろ支度しなくちゃ。
ノロノロと制服に着替える。
そうだ。支度したらゲームしよ!
いまやってるのは、8人グループ2組でバトルするゲームなんだけど、スマホを使ってるから、オンラインで友達とも友達以外とも闘うことができる。
さっさと支度を済ませ、座ってゲームを始めると、玄関から声がした。
「りくー!行ってくるねー!カギ閉めるの忘れないでよ!ハンカチちゃんと持ってね!」
ママの出勤時間だ。ボクよりちょっとだけ早く家を出る。
「はいはい、わかってるよ。いってらっしゃーい。」
「りくー!大好きー!」
「なにバカなこと言ってんの!遅れるよ!」
まったく。ママはボクをいくつだと思ってるんだ。思春期には恥ずかしいんだゾ!
ゲーム音に混じって、微かに何か聞こえる。
耳を澄ますと
・・オロロ・・ン・・ピッ・・ピッ・・
ん?聞いたことがあるぞ?
気のせいだろう。ゲームに集中しなくっちゃ。
すると、またもやゲーム音に混じって何か聞こえてきたので、ゲームを中断した。ボクのせいで負けちゃうかもしれないな。ごめんなさい。
何の音かわからず首を傾げていると、ボクの肩先にアリンコが現れた。
「オマエに会わせたいヤツらがいる。」
そう言うと、トトトトッと腕まで降りてくる。
手をトントンと叩くので、手のひらを上に向けると、何かがフワリと現れた。
「オロー?この人ダレー?オロロン。」
「キュピッ。人間だっピ。」
「え!?えぇーー!?ナメクジとハエトリグモじゃん!
うわー!久しぶり!オマエらこんなに小さかったんだな。なんでここにいるの?」
そこでハッと気がついた。
「・・もしかして、コイツら死んじゃったの?」
そう訊いたボクに、アリンコは
「そうさ。我らの寿命は短いからのぅ。」
と言った。
確かに、向こう側がなんとなく透けて見える。
「そっかー。死んじゃったのかぁ。」
「ちょうど時を同じくして、次の輪廻に入るところだったので、チョイと連れてきたのだ。」
「なんだよ、オマエたち。なんで死んじゃったの?オマエはビールトラップに入っちゃったの?」
とナメクジに訊いた。
すると、ナメクジは体を大きく揺らしながら、
「塩かけられたのー。身体中の水が出て、苦しかったー。そしたらココにいたー。オロロン。」
と言った。
そーか、塩かけられたのか。
ナメクジになってから調べてみたけど、ナメクジは身体の90%くらいが水分だから、塩とか砂糖をかけると、身体の表面の薄い膜を通して、水分が塩とか砂糖に移っちゃうらしい。
「でもさ、少しくらい縮んでも、また水がかかれば復活できるらしいじゃん。」
「ずっと晴れー。お日様カンカンだったのー。オロー。」
「そっか、そのまま乾いちゃったんだな。オマエは?メスに食べられちゃったの?」
今度はハエトリグモに訊いた。
「オスに食われたっピ」
あちゃー。本懐を遂げることなくヤラレちゃったのね。
「そっか。残念だったな。」
ピッ!と言って、両手をあげた。相変わらず可愛い。
「それでな、コヤツラをしばらくココに置こうと思っておるのだ。」
突然アリンコがそんな事を言い出した。
「えー!?なんで!?」
「おもしろいから。」
アリンコはハッキリと言った。
「ダメダメダメダメ!ママに見つかっちゃうよ!」
「心配はいらぬ。コヤツらは幽霊なので、オマエ以外には見えぬ。」
「え?じゃあやっぱり、アリンコもボク以外には見えないってコトなんだね。」
「愚か者!」
「イタタタタ!」
アリンコが指に噛み付いた。
「ワタシは幽霊ではないと言ったであろう!」
そう言って、お尻をぶんぶん振り回してながら怒っている。
「ワタシは精神体だと言っておろう!修行を積んだワタシとコヤツらと一緒にするでないわ。」
フン!と鼻を鳴らした(鼻があったら、だけど)あと、続けた。
「どちらにしても、オマエが話しかけたことで、オマエは幽霊であるコイツらを認知し、受け入れたことになっておる。だから、幽霊のコイツらと話しができるようになったのだ。」
「え!?だって、声が聞こえてきたんだもん。それに、会わせたいヤツらがいる、って言ったのはアリンコじゃないか!」
そこでようやく気づいた。
全部アリンコに仕組まれたんだ。話しかけないうちにコイツらの声が聞こえてきたし、アリンコが会わせたいヤツらがいる、とか言ってきた。それもこれも、全部アリンコが仕組んだことなんだ!
「キッタネー!!」
そう叫んだとき、テレビ番組がご丁寧に時間を告げた。
「ヤバっ!遅刻しちゃう!」
慌ててカバンを引っ掴むと、この話は後にして!と言って家を出た。




