2匹仲良くポカポカと
スイスイ気持ちよく泳いでいると、オタマジャクシがヤゴに捕まっていた。ヤゴは死んでも離すもんか、とばかりにギュムムと食いついていて、可哀想なオタマジャクシはシッポをバタつかせている。
うわっ!
思わず泳ぎ止まってしまった。
トンボの幼虫ってことは、まだ子どものはずだ。だけどヤゴの顔の怖さといったらない。
肉食だもんなぁ。
こっちをジロリと睨んでいる(ように見える)。
獲物を横取りしたりしないよ。安心して。
かたや、オタマジャクシはこの世の終わりのような顔をしている・・気がする。こちらも表情に乏しいからよくわからない。ただ、口だけをパクパクしている。
当然だよね、食べられちゃうんだもん。
でもさ、大きくなってカエルになっちゃえば、立場が逆転してムシの天敵になるんだもんな。ということは、ヤゴは、将来の自分や自分の子どもの敵を食べてるってコトか。自然って不思議だ。
生きるためにはしょうがないんだけど、なんだか可哀想だな。
・・・ジュルッ
へ?なんでヨダレが出たの?
おかしい。食べたいとは思わないのに、よだれだけ出てくる。どうしてだろう。
自分の意思とは関係なくヨダレが出たことに驚いて首を傾げていると、
「ゲンゴロウさーん。」
と呼ぶ声がした。ガムシだ。
ガムシは相変わらず、わちゃわちゃと歩き泳ぎしてくる。表情はわからないけど、心なしか嬉しそうだ。
「いやぁ、ちょうどいい腐り具合の水草があったんで、たらふく食ってきたでやんす。」
ん?水草?・・・聞き間違えた。
「ごめん、よく聞こえなかったんだけど、何ていうムシを食べてきたの?」
「は?ムシなんて食ってないでやんす。水草でやんすよ。」
え?この顔で植物食?そんなわけないでしょ。
「キミって肉食でしょ?オタマジャクシとかヤゴとか食べるんじゃないの?」
チッチッチ、とガムシは指(脚?)を振った。
「子どもの頃は確かに肉食で、たいてい貝を食ってたでやんす。ヒメモノアラガイが美味くてそればっかりだったなぁ。サカマキガイも美味いけど、アイツらは殻が左巻きで食いにくいんでさ。でもいまは、藻とか水草なんかを食ってるでやんす。」
「そーなの?幼虫の頃と食べるものが変わっちゃったってことなんだね。」
「餌が変わるムシなんざ、いくらでもいるでやんす。成虫になるために力を貯めなきゃいけないでやんすから。ゲンゴロウさんだって、子どもの頃はオタマジャクシやらヤゴやら、なんならメダカも食ってたでげしょ。」
・・・え?・・・
「あのー・・。ボクは子どもの頃、肉食だったってコト?」
「何を言ってるでやんすか!ゲンゴロウさんは、今でも立派な肉食でやんすよ。まあ、死んだり死にかけたりしたヤツを食ってらっしゃいますが、それも立派な肉食ですから、安心しておくんなさい。」
・・・
・・・・・ノォーーー!?
ふ、腐肉?スカ、スカ、スカベンジャーってこと?
ガムシじゃなくて、ボクのほうが肉食ってコト?
それも、ただの肉食じゃなくてスカベンジャー!?
ショックのあまり呆然としてしていると、
「そのお顔は、何を今更。当然だろうということでやんすね!自慢もせず、その堂々とした佇まい。さすがゲンゴロウさんでやんす!」
ガムシが勝手なことを言っている。
いや、ボク、当然なんて顔してないし?
おかしいでしょ?おかしいでしょ!
「ささ、ゲンゴロウさん、いい枝を見つけたでやんす。一緒に行きやしょう。」
「え、ちょっ、どこ行くの??」
なになにどこ連れてくの?まさか死骸のトコじゃないよね?
「オイラはゲンゴロウさんにどこまでもついていくでやんす。」
情報が追いついていないボクを追い立てるようにして、ガムシは水面へと浮かんでいった。
・・・ハッ!
気がつくと、水中から突き出た枝に登らされていた。
ボクらからすると両手を広げて余りあるくらいの太さだけど、人間からしたら腕より細いだろう。
細長く生い茂った草と草の間にあって、日は当たるけど、鳥からは見えにくい絶妙な位置にある。
「どーでやんす?ゲンゴロウさん。ココは目立たないし、甲羅干しにはもってこいでげしょ!」
後ろから(下から?)ガムシの声がした。
どうやら、枝の上下に並んでとまっているようだ。
「ゲンゴロウもガムシも甲羅干しするんだねー!」
そういえば、亀も甲羅干ししないと病気になったり、藻が生えたりするんだって聞いたことがある。
ゲンゴロウやガムシも同じなのかな。
「なかなかいい場所がなかったでやんすが、さっきここを見つけたでやんすー!」
「よくみつけたねー!」
ザワザワ、ジャッジャッと草が風に吹かれる音がして、お互いの声が聞こえない。まるで怒鳴りあってるみたいに声を張り上げた。
人間にとってはサワサワというだけなんだろうけど、いまのボクには轟音だ。
遠くからは鳥の声がする。近くからもチチチッという鳴き声が聞こえてビビったけど、ガムシがあの鳥は危なくないと教えてくれた。
羽が乾いていくのがわかる。風がとても気持ちいい。
息継ぎの心配もしなくていいし、しばらくこうしていよう。
下を見るとミズスマシの数が3匹に増えている。クルクルと楽しそうだ。
2匹仲良く甲羅干しをして、冷えた身体を温めた。




