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掃除なんてキライ

「あーあ。今日はプール掃除かー。」

日差しが痛い。日本の梅雨はどこへ行ったんだろう。


榮中祭が終わると、そろそろプールの準備だ。

意外かもしれないけど、ボクはそこそこ泳げる。

小学校にあがる前から、地元では厳しいことで有名なスイミングスクールに通ってたからだ。

ただ、生来の鈍臭さが為せる業なのか、足がしっかりつかないと泳げない。つまり、プールじゃないと泳げないんだ。海で泳ぐとか、ましてや遠泳なんてもっての外。

泳げる?と訊かれたら泳げるよ!と答えるけど、じゃあ海行こう!と言われたら、泳げないと答えるしかない。

なんとも面倒臭い。

というわけで、プールの授業は好き(体育の中で唯一楽しめる)なんだけど・・プール掃除がイヤなんだ。

一年のうちの、ほんの2ヶ月くらいしか使わないプールには、ずっと水が張ってある。

これには理由があって、水を張っておかないとプールの塗装が劣化しちゃうのと、消防水利っていって、火事の時に消火に使われる防火水槽の役目をするってことが、消防法で決まっているそうだ。他にも、非常時の生活用水とかいろいろあるみたいだけどね。

一年中水が張ってあるってことは、つまりプール開きの前が、一番水が汚いってことなんだ。

緑色でヌルヌル・・あぁ、気持ち悪い。

こちとら鈍臭いんだ!滑って転んだらどうするんだよ!

はぁぁ〜。

深い深〜い溜息をつきながら、自転車をこいでいった。


プール掃除は2年生がすることになっている。とはいえ、学年全員で掃除したらプールはギュウギュウになっちゃうから、4つの係に分かれて作業する。プールから生き物(主にトンボの幼虫であるヤゴ)を救出する係、デッキブラシやタワシでプールの中を掃除する係、プールサイドの掃除係、ビート板などのプール用具の清掃係だ。救出係が一番人気になりそうだけど、実は用具清掃が一番人気なんだ。

たぶん小学生だったら、間違いなく救出係が一番人気になるんだろうな。でもこの歳になると、汚い水に入らなくちゃいけないし、ヤゴを捕まえなきゃいけない。面倒臭い度が高いのだ。そしてボクは、ジャンケンに負けてしまった・・トホホ。


「りくー。こっちの網でいい?」

ハルキが持参した2本のタモ網のうち、まん丸の方を貸してくれた。もう1本は三角だ。ハルキの解説によると、水面や水中のゴミを拾うんだったら丸い網でいいけど、ヤゴを取るんだったら、上が真っ直ぐになった形の方が底から一網打尽にできてグッドなんだそーだ。

「どっちでもいーよ。ありがとう。」

そう言って受け取ると、

「オマエ、ほんと嫌そうだな。」

と言われた。

ハルキは絶対やりたい!と自分から志願した。学校の網では数が足りないから、持ってる人は家から持ってくることになっていて、ボクが持っていないと言ったら、喜んで持ってきてくれた。嬉しいけど嬉しくない。もし網が足りないってことになったら、やらずに済んだかもしれないと思うと複雑だ。

「だって、水汚いじゃん。」

少し不貞腐れてそう言ったボクに、バカだなぁと言って続けた。

「ヤゴとか住んでんだよ。アイツらだって、汚い水だったら生きられないだろ?生き物が住んでない水の方が、よっぽど汚いか薬とかが入ってるってことだよ。」

なるほど。確かに、テレビ番組でヘドロだらけの臭い川?池?海?をアイドルが掃除してるとき、生き物が何もいないって言ってたな。

「ガス川ってさ、父さんが子どもの頃は排水を垂れ流しにしてたから洗剤の泡とかがすごくって、魚なんて全然いなかったんだって。もちろん汚くて絶対に川になんか入れなかったって言ってた。考えられないだろ。」

ガス川は、みんなでよくザリガニ釣りに行く川だ。浅くて水の流れもゆっくりした小川で、そこに小魚やザリガニが住んでいて、夏には子どもがよく水遊びしている。

「確かに、ちゃんと生態系があるってことは、健全なのかもね。それに川とか池と違って石もないし、よっぽど安全だよな。」

「そーだよ。行くぞ!」


プールの水は30cmくらいになっていた。

「え!?こんなに水抜いちゃったらヤゴなんていないんじゃない?」

「心配ない。ちゃんといるぞ。」

振り返ると大曽根先生がいた。

「あれ?なんで先生いるの?」

と訊くと、体育教師だからなと言った。

「一気に抜くと生き物も流れちゃうし、水圧で死ぬこともあるからな。だから、じっくり抜いたんだよ。」

「金魚は?」

ハルキと先生2人して「?」という顔をしている。

「オマエなに言ってんの?ネイチャーに金魚はいねぇだろ。」

とハルキが言うと、先生も

「まぁ、水鳥に魚の卵がついていて、プールで魚が孵化したってことはあったがな。金魚はないなぁ。」

と言った。

「小学校の時もプール掃除したけど、先生が放した金魚が大量発生してて、掃除どころじゃなかったんだ。避けようがなくて踏んじゃったりして、可哀想だし、すごく気持ち悪かった。」

それを聞いたハルキが、

「だからオマエそんなに嫌がってるのか。」

と納得していた。

「そーか。金魚を放した先生も、そんなことになるとは思いもしなかったんだろうよ。ここには金魚どころか魚もいないから安心しろ。」

金魚だったら雑食だし、どんどん成魚になって卵を産むから大量発生もするんだろうな〜と言いながら、先生は向こうへ行ってしまった。

「う〜っ!ワクワクする!!」

ハルキは嬉しそうにハシゴを降りていく。

下にヤゴがいると踏んじゃうから、と言って一度タモ網で探ってからプールに降り立った。

「おい!ここには何もいないから、降りてもヘーキだぞ。」

やっぱハルキはいいヤツだ。

そうしてハシゴを使って降りたボクは、盛大に転んだのだった。

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