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フードパラダイス!

何ここ!食べ放題やん!

ショウジョウバエに連れてこられたのは、パラダイスだった。

・・・いやいやいや。違う違う。

頭を人間モードに切り替えて、ブーンと上昇すると、少し上から見てみる。

うわ!コレって生ゴミだ!

三角コーナーには卵の殻や野菜の切れ端が入っている。あれは、さつまいもの端っこと、ほうれん草の根っこに近いところだ。根っこと赤い茎の部分が残っているから、ほうれん草だってわかる。パパがスーパーで、ほうれん草と小松菜の見分け方を教えてくれた。並べると、全然違う植物だったから、わかりやすかった。

ほうれん草にも、根っこに近い部分が赤くない物もあるけど、ボクはこの赤いところが甘くて好きなんだ。パパは、根っこをギリギリで切って、赤い部分を残してくれる。ここの家は、ほうれん草の下の方は切って捨てちゃうんだな。ここが美味しいのに。

すぐ近くにはゴミ箱があって、嬉しいことに・・(いやいや人間モード人間モード、落ち着けボク)残念なことに、蓋が開きっぱなしになっていて、美味しそうな・・(いやいや人間モードだってば!)バナナの皮と、半分腐ったバナナが捨てられている。その下には、食べ残しだろう、ご飯と煮物?のカスみたいなのも見える。遠くに酸っぱい臭いがして・・・ふわあ・・堪らない・・ヨ、ヨダレが・・・

いやいやいや。だから落ち着けって、ボク!!

「なにしてるの。美味しいから食べるヨシ」

ショウジョウバエが下から声をかけてきた。

「・・今はお腹空いてないからもう少し周りの様子を見てからにするよ。」

ショウジョウバエになっているボクにとっては、どれも絶対美味しいに違いない。だって、めちゃくちゃヨダレが出てくるもん。でもさ、ゴミなんだよなぁ。アブラムシのお尻から出る蜜を食べた時とはちょっと違う。不思議だけど、切り落として三角コーナーとかゴミ箱に入れた瞬間から「ゴミ」という認識になっちゃう。食べ残しはともかく、さつまいもの端っこやほうれん草の切り落としは、さっきまで繋がっていた食材の一部なのにね。


ビューン!

へ?

ビュー・・ビュビューン!

へ?

「オラオラどけどけーー!」

な、なんなの?

チキッ!ロックオーン!!

ショウジョウバエは動体視力がいいんだ。

ボクたちと同じくらいの大きさで、もう少し丸っこいハエ?が飛んでいる。

なんか脚の力が強そうだ。飛ぶスピードも、ショウジョウバエよりずっと速い。

「ねえ、キミはショウジョウバエじゃないよね?何ていうムシなのー?」

「オレかー?オレはノミバエだー。」

ん?コバエって、ショウジョウバエだけじゃないんだ。そういえば、家で見たことがあるコバエは、やたら速く飛んでる時があった。アレって、コバエの種類が違ってたってことなのか!なるほど〜。

ボクの周りをビュンビュン飛んでいるノミバエを目で追っていると、目が回ってきた。

ゴミ箱の近くに止まると、ノミバエも側に止まった。ピョンピョンと飛ぶように近づいてくる。

「ここはオレたちにとってのパラダイスだからなー。どんどん食ったほうがいいぞ。」

「ショウジョウバエとノミバエが一緒にいることなんて、あんまりないんじゃないの?」

「ま〜な〜。オレたちとショウジョウバエは生まれが違うからよ。そもそもオレたちは腐った肉とか排水口なんかで育つから、ショウジョウバエよりも人間に嫌われてるんだよ。」

「え!じゃあ、うんちとかにとまったりするの?」

「ああ〜。美味いんだよ。」

ノミバエはウットリとした顔をしている(気がした)。オエーッ!

少しずつノミバエから離れることにした。だって汚いっしょっっ!

「他にもチョウバエっていう大層な名前がついてるヤツもいるんだぜ。アイツらも汚い水とか下水のヌルヌルなんかが大好きなんだよな〜。」

チョウバエって?え?

「ね、ねえ、チョウバエってどんなの?」

「ああ、よくクルクル回ってるヤツだよ。なんか、もっさりしてんだよな〜。」

ええーーっ!?踊る虫のことだ!絶対!!アイツそんなに汚かったの?

学校のトイレでしょっちゅう見かける。またこの虫踊ってんじゃん。なんて、よくみんなで笑ったアイツだ。

ガビーンとショックを受けていると、ショウジョウバエが飛んできた。

「おおっと、彼女の登場か?おじゃま虫は退散するぜ。」

彼女?いやいや、ボクは人間ですし。

「さっきから食事もしないでノミバエとばっかり話しちゃって。ひどいヨシ。」

え?なに?まさかボクにラブってことですか?それはないよね?

「あ、あの、ボクはまだお腹が空いてないので。」

ボクはジリジリと離れていく。確かにこのショウジョウバエには親切にしてもらったけど、さっきからゴミにたかってたと思うと、めちゃんこ気持ちが悪い。本当にごめんなさい。

「みんなプロポーズしてもらってる。ワタシもしてもらいたいヨシ。」

ショウジョウバエは、ボクにジリジリと近づいてくる。それをまたジリジリと避けるボク。

さっきぶん投げられたことを思い出して震え上がった。

「なんなの?プロポーズって。」

泣きそうになりながら訊くと、ショウジョウバエは、ほら!と言って飛び上がった。

ついていくと、オスがメスに向かって羽をヴィンヴィン鳴らしていた。

なんだろう?一定のリズムで刻まれている。音楽?

しばらく見ていると、最初はオスのショウジョウバエから逃げ回っていたメスが、大人しくなっていく。

「ステキな歌よね〜。ワタシも歌って欲しいヨシ。」

「!?」

コレってやばくない??

「いや、ほんとにムリだから!」

「なんで?一緒に助け合ってきたじゃない。」

「いや助け合ってないし。それに、そもそもボクめちゃんこ音痴だし!」

「ココロがこもっていれば、そんなの関係ないわ。」

触られないように避けながら押し問答をしていると、どこからともなく良い匂いがしてきた。

ふわあ〜良い匂いだ〜。

思わず2人・・いや、2匹とも匂いにうっとりしている。

透明の入れ物が2つあって、それぞれに黒っぽい液体と薄黄色い液体が入っている。

だめだ、黒っぽい液体の方にココロが撃ち抜かれてしまった。

ふら〜っと近寄っていくと、小さな穴があった。

ああ・・美味しい匂いだ・・・

ふらふらと穴の縁に手をかけた。

バカもの!目を覚まさんか!

はっ!

アリンコの声がして、突然我に返った。

よく見ると、どちらの容器にもムシが沈んでいる!

うわあ!?薄黄色の液体に沈んでいるのは、さっき話していたノミバエでは??

いや、もちろんノミバエの区別はつかないけども。

「コレは罠だよ!入っちゃダメだー!」


「起きろ!」

「痛っ!」

アリンコに鼻の頭をガブリと噛まれて目が覚めた。

「まったく、すぐに影響を受けおって。人間であるということを忘れては客観的に物事を見ることはできんぞ。」

「だって身体がムシとして反応しちゃうんだもん。」

「ただの言い訳だな。ショウジョウバエなら泣いて喜ぶ腐ったバナナは食べなかったではないか。」

確かに。それどころか、ショウジョウバエやノミバエを不潔だと思って触りたくなかった。

「オマエが見てきたのは害虫と呼ばれるコバエたちだ。人間に仇をなすから害虫と言われているのだろう。どんなに親しくなろうと、オマエが人間である限り駆除しなければならない対象なのだ。それでももし、駆除したくないのであれば、ゴミは片付けて、生活環境を清潔にしておくんだな。さすれば、少なくともその範囲内だけは害虫が発生することもなく、したがって駆除することもなかろう。」

「そうだね。ゴミはちゃんと片付けよう。」


「おはよー。」

「あら!おはよう。今日は自分で起きてきたのね。お腹はもう大丈夫?」

ママがペットボトルで何かをしている。

「なにしてるの?」

よく見ると、ペットボトルにはいくつもの穴が開けられていた。

「これねー、コバエ取り。」

ん?

「もしかして、これに黒っぽい液体と薄黄色っぽい液体を入れるの?」

「よくわかったわね!昨日コバエがいたでしょ。増えちゃうとイヤだから、念の為、作って置いておこうと思って。前に「コバエ取りック」を買ったんだけど、全然取れなかったのよ。その時に、そういえば子どもの頃、醤油差しにコバエがいくつも入ってたことがあったな〜って思い出して、ネットで調べて作ったら、これがテキメンだったのよね。めんつゆか、お酢を入れるの。」

なるほど。これが夢(?)に出てきたトラップの正体か。

「どっちを入れようかな〜。」

というママに、

「ショウジョウバエならめんつゆの方が取れるよ。」

と言ったら、ママの目は真ん丸になった。

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