スピード狂!?
転ぶ、転ぶぅぅーーーっ!
ビッターーン
アゴから突っ込んだ。
・・何をしておる。定められたモノとなり、あるがままに過ごすのだ・・
痛って〜〜。ん?アリンコ?
遡ること数時間前。
・・なんだ?真っ暗。でも大丈夫。みんながいる。
ギュウギュウと狭いけど、仲間がそばにいる安心感。
捕食するからわかる捕食される怖さ。起きていれば逃げられるけど、寝ていたらひとたまりもない。だからこそ、一緒にいることで落ち着いて寒い冬を越せるんだ。
ずっとこのままここにいたいな・・・
でも目が覚めてしまった。ボクの、いやボク達の本能が、外に出ろといっている。お腹も減ってきた。
1匹が動き出すのを皮切りに、みんなで細い足(脚?)をもがくように動かす。
ゲシッ ゲシゲシッ
痛ッ 踏むなよ オイオイ 重い重い やめろって!
ボロッ・・ボロロッ・・
眩しい光が目に刺さる。やっと地表に出てきた。
おおっ。せ、狭かった。
よいしょ、よいしょ、と這い出ると、開けた明るい世界だった。
うわぁ!外に出たんだ!!
嬉しくなって思いっきり空気を吸い込む。
ビュオォォォーー!
うぉぉぉぉぉーー!?
四方八方から空気が身体に入り込んでくる。
慌てて手(脚?)を見ると、細くてスラリと長く、毛もたくさん生えている。おまけにバネがすごい。
あ、やっぱムシだ。てことは、鼻じゃなくて気門を使ってるんだな。そーだそーだ。理科で習った。だから、あちこちから空気が入ってくるのか〜。
それにしてもメタリックで虹色で、本当にキレイだなぁ。今回は何のムシだろう?
「おい。脚を伸ばしたほうがいいゾ。」
振り向くと、グィーン、グィーンと屈伸しているキレイなムシがいた。真っ暗で大きな目、頭部は青と緑に輝き、濃紺の背中は、まるで赤い十字架が星とともに夜空で輝いているようだ。鋭い顎があって、今回もまた顔が恐ろしい。でも、怖い顔にも、不思議とだいぶ見慣れてきたようだ。
「あれ?もしかして一緒の穴に入ってた?」
「入ってたゾ。右真ん中!左後ろ!。」
そう言いながら、その部位の脚を伸ばしている。
「ねえ、ボク達は何ていうムシなの?」
「?なに言ってるゾ?」
いや、ちょっと忘れちゃって、と言いながらポリポリと頭(頭部?)を掻いてみせた。
「ハンミョウだゾ。区別するためにナミハンミョウって呼ばれることもあるゾ。右前、右後ろ、左真ん中。」
ハンミョウね、ふむふむ。
わらわらと何匹も仲間たち(ボクはニンゲンだけどね)が屈伸しては歩き出す。最初はぎこちないけど、すぐに慣れてヒョイヒョイと歩いている。他のハンミョウ達と同じ方向に向かって歩くと、乾いた土の上にでた。
おおっ!格段に歩きやすい。
「エサだッ!」
という叫び声がして、みんな一斉に走り出した!
え!?え!?
つられて走り出したはいいけど・・は、速すぎる。
えええー!?
長い脚が鬼のようなスピードで動いている。
あんなにハッキリと見えていた視界が途絶え、目の前が砂嵐のようになってしまった。
うわ、うわわわ・・
ここで冒頭に繋がるわけだ。
転ぶ、転ぶぅぅーーーっ!
ビッターーン
アゴから突っ込んだ。
・・何をしておる。定められたモノとなり、あるがままに過ごすのだ・・
痛って〜〜。ん?アリンコ?
「どこにいるんだよ!こんなスピードついてけるわけないじゃん」
・・オマエはいま、ハンミョウではないか。ニンゲンだからという気持ちが、スピードへの恐怖となり、走ることにブレーキをかけているだけだ・・・
「何してる?」
最初に話しかけてきたハンミョウ(だろう、たぶん)だ。
「いや〜なんか足(脚?)がもつれちゃって。」
「だから、脚を伸ばした方がいいって言ったんだゾ。」
イクゾッ!と言うと
「右後ろ!左真ん中!右前!左後ろ!」
と突然号令をかけ始めた。
「え?え?」
「何をしている?早くするゾ!右真ん中!左前!左後ろ!」
えええ???と思いながら、言われるまま脚を動かし続けた。
「よし!ここまで!」
や、やっと終わった・・ホッとする間もなく
「では行くゾ!」
ハンミョウはくるりと踵を返すと歩き出した。
「ど、どこへ?」
「エサを取るんだゾ。ほら!行くゾ!」
エサってなんだろう?と思っていたらどこからともなく
・・殺生はするな。それから・・
というアリンコの声がする。ん?それから?
・・夢の中で死んだら、そのまま死ぬからな・・
えー!?聞いてないよー!!
「行くゾ!」
ハンミョウに強引に連れ出された。
チョロロロロロ・・
うぉぉぉーーー!?
アリンコに言われた通り、何も考えず身体が動くままハンミョウについていくと、脚が恐るべき速さで勝手に動く。スピードが増すごとに視界がきかなくなった。
うぉぉぉーー・・お!?
ピタッ!
「危なっっ」
前方を疾走しているハンミョウが急に止まった。危うくぶつかりそうになり、何とか止まった。セーフ!
「何ゾ?」
「いや、何で突然止まるのかな〜と思って。」
「目で確認できたところまで走っているだけだゾ」
振り返ってそれだけ言うと、また走り出した。
チョロロロ・・ピタッ・・チョロロロ・・ピタッ
かなりのスピードで進んだと思うと突然止まる。全くペースが乱される走り方だ。
なるほど。速すぎて何も見えなくなっちゃうから、安全が確保できている距離(範囲?)またはエサまでの距離を計って、とりあえずそこまで走ってから、また立ち止まって確認する、っていうのを繰り返してるってコトなのかな?
「それにしても何でこんなに速く走れるの?」
なんとかついていきながら、訊いてみる。
ピタッ
ハンミョウは、立ち止まると
「すごく速いスピードで脚を動かしているからだゾ!」と言った。
「え!それだけ?速く動かすだけなの?・・え!?」
ビュッ・・ン
立ち止まったはずなのに、また猛スピードで行ってしまった。
もしかして・・・スピード狂?




