アリから恨みを買ったワケ
「へ〜、でっかい穴だなぁ」
授業が終わってから生徒指導室に呼ばれ、担任の富田先生にしこたま説教されている間に、みんな下校してしまった。・・おもしろくない。
地理の授業中、こっそり恵太と消しゴムをちぎって投げ合っていたら、ボクだけ見つかっちゃったんだよな。・・まったくおもしろくない。
恵太に向けて振りかぶったところで、女子の誰かが板書をしていた井上先生に話しかけた。
やべっ!とは思ったけど、井上先生は優しいから、見つかっても謝っとけばいいや・・ってそのまま投げた。命中してポコンと跳ねた消しゴムはどこかへ消えた。ナイスコントロール!思わずニヤリ。
「細貝!授業中何してる!」
あれ?井上先生の声じゃない。後方から聞こえてきたのは紛う事なき富田先生の声だ。ちょっとダミ声でめちゃくちゃ独裁的。見た目も凶悪な怪獣みたいだから、生徒は陰で「トミゴン」と呼んでいる。
おそるおそる声の方を見ると、富田先生が赤い顔で立っている。まさに怪獣トミゴンだ。
「お前という奴は。いつもいつも」
鬼のような顔で近づいてくる。え?火を吹くの?火炎放射?そこまで怒る?
「富田先生すみません、お客様がいらっしゃるのに。」
客?しまった!授業が始まる時に井上先生が、途中でお客様が来るけど気にしないように、って言ってたっけ。
富田先生の後ろには、スーツ姿のおじさん(おじいさん?)と若めのおじさん、副担の本橋先生と同じくらいの若い人がいた。若い人は斜め下を向いて声を出さずに笑っている。昔を思い出しているのかもしれない。
「放課後、生徒指導室に来い!」
あー・・やっちまった。
トミゴンは体面を気にする。普段ならここまで怒らないけど、外部の人がいるとなると別だ。
恵太を見ると、ニヤニヤしながら手を振っている。
くっそーーー!
トミゴンの説教はいつもより長かった。お客さんは偉い人だったらしい。担任の自分も井上先生も面目丸潰れ、ぶつかって怪我をする人がいたらどうする、普段から授業態度が悪い、などなど。
恵太だって投げたのに!と言ったけど、そもそも始めたのがボクだったから分が悪い。
「ちぇっ」
くさくさしながら校門に向かって歩いていると、自転車置き場の横にアリの巣を見つけた。
でっかい穴がポカっと空いている。靴で周りから土を寄せて塞ぐ。なかなか塞がらない。かなりの土を落としているはずなのに。
この!この!
靴でグリグリすると、ようやく穴が塞がった。
アリの巣にはいくつも出口があるらしい。周りを見回すと穴があった。こっちもグリグリ潰してみる。
もうないかな?とキョロキョロすると、もう一つ見つけた。こっちには、近くにあった枝を突き刺してみる。
「ふう」
こんなの単なる八つ当たりだけど、ちょっとだけスッキリした。
「痛っ!?」
ズボンの裾をまくると、黒いアリが足に噛み付いている。コイツいつの間に!
手で乱暴に振り落とすと、思いっきり踏んづけた。
踏んでも死なずにこっちに向かってくる。
ムカついたから靴底でグリグリと踏んでやった。
「あれ?」
もういいかと靴をどかしてみたけどアリがいない。靴底も見てみたけどいない。確かに踏んづけたんだけど。
・・まあいいや。
トミゴンに怒られたことも、どうでも良くなっていた。
お腹減ったな〜昨日は焼売だったから、今夜は餃子だ。ボクはそんな事を考えながら家路に着いた。