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メスは最強にして最恐!

「へ?メス?」

ハテ?なんでメスが危ないんだ?こんな可愛いヤツのメスだったら、そりゃ可愛い可憐ちゃんでしょ?

そうか!ジャンプしながら聞いてるから、聞き間違えちゃったんだな。もう一回訊いてみよう。

「ごめん、よく聞こえなかった!ナニが危ないの?」

「だから、メスだっピ。」

メス?メスが怖い?

・・はは〜ん。さてはメスに免疫がないんだな。

「意外と奥手なんだね〜、」

「キュピ?」

「そんなんじゃ子どもが産まれないよ。」

クフフッ。この恥ずかしがり屋さんめ!

ハエトリグモは急に立ち止まる(跳ね止まる?)と、首を傾げた。

「なに言ってる?メスは怖いっピよ。」

段差を跳び渡りながら、ずらりと本が並ぶところまで来た時、ちょいちょいとハエトリグモに呼ばれて狭い隙間に押し込まれた。

ハエトリグモは下を覗いてみるように言ってくるけど、怖くて見ることができない。ボクは高いところが苦手なんだ。

嫌だ嫌だ、行け行けと押し問答をしていると、視界の隅に動くモノが見えた。

頭をバチコーンと勢いよくはたかれて思わず振り返ると、茶色いクモがぴょんぴょん跳ねている。

「アレがメスだっピ。」

「へー。見た目が全然ちがうんだね。」

目の前のコイツ(オス)は真っ黒で目立つ白い帯がある。メスの方は、チョコっとだけ大きくて、全体が茶色くて丸っこい。白い帯はあるにはあるけど目立たない。でもクリクリ目は一緒だ。改めて比較すると、オスは可愛カッコいい。メスは純粋に可愛い。って感じだ。

この色と形が、アダン何とかっていうハエトリグモの特徴なのだろう。

「可愛いじゃん!何がコワイのさ。」

「・・メスはボク達を食べるんだっピ。」

「へ?」

食べるって、共食いするってこと?

「なんで?だってオスがいなかったら卵産めないでしょ?」

「そうだっピ。そうなんだけど、メスにとっては、食べられるモノだったら、オスも含めた全部が「食べ物」なんだっピ。」

え!?

・・・それはせつない・・・

下を向いたボクに、ハエトリグモは続けた。

「あのメスはこの辺のダニを食べ尽くしてるっピ。この前は、ゴキブリの子どもを捕まえて食べてた肉食女子だっピ。」

あんなに可愛いのに、ゴキブリの子ども食べちゃうのか。オェェ。

「あ!アイツやられるっピ!」

見てろと言われて覗いていると、照準を定めたスナイパーは、一撃でそこそこサイズのあるコバエを仕留めてもしゃもしゃ食べ始めた。

オェェ・・可愛さのカケラが消えてなくなった。

「しょーがないっピ。メスは卵を産むために、何でも食べて栄養をつけないといけないっピ。ボク達は目がいいから、食べられるかどうか、サイズを見極めたりしてるっピ。ボクなんか小さいから、迂闊に近づくと食べられちゃうんだっピ。」

「でも、でも、目が良いんだったら、仲間のオスだってわかってくれるんじゃないの?」

ハエトリグモはプルプルと頭を振った。

「ボク達にとっては、卵を産んでくれる大事なメスだけど、メスにとっては、その他大勢のオスの1匹にすぎないっピ。だから、踊りを踊って立派なオスだよーとか、餌じゃないよーとかアピールをしたり、目眩しをして近づいて、受け入れてもらえたらチョーラッキー!交尾が終わると急いで逃げるんだっピ。」

・・・せ、せつない・・・

「ボクも子どものメスだったら食べちゃうっピよ。」

えっ!!


それにしても、ダニもゴキブリ(子どものゴキブリだけどね)も害虫だ。こういう昆虫を食べてくれるから、クモは益虫って言われてるんだなー。

ぶつぶつ言ってると、それを聞いたハエトリグモが

「だからイジワル言われるんだっピ。」

と言った。

「ゴキブリもハエも、子どもの頃は餌にしてるけど、大きくなったら勝てないっピ。おまけに、自分たちは害虫って呼ばれて人間に駆除されるけど、ボク達は益虫って呼ばれて守られるから、ボク達を恨んでるっピ。」

昆虫がいじめるって言ってたもんな。

「そもそも、ボク達は好きなように生きているだけで、害虫も益虫もないっピ。ぷんぷん!っピ。」

そっか。益虫って呼ぶのも、害虫って呼ぶのも、人間の都合なんだよな。

「発酵」と「腐敗」も、微生物による分解っていう点では全く同じなんだぞ、と本橋先生が言ってたっけ。


ハエトリグモが、こっちを見てキュピ!キュピ!言いながらジャンプしている。いつにないハイジャンプ。

「あのメスとの交尾にチャレンジするっピ?」

「え?なに興奮してんの?」

冗談じゃない!食べられちゃうかもしれないのに。行くわけないじゃん!ボクは人間だし。

「ボク行きたいっピ!キミが行かないんなら行きたいっピ!キュピッ!キュピッ!」

「えーーー!?だって食べられちゃうかもしれないんだよ!?」

必死に止める。だって、あのメスより小さいし、絶対食べられちゃうに決まってる。

ボクの手(脚)に手(脚)を置いて、心配ないっピと言った。

「小さいからこそ小回りがきくし、強いメスと交尾すれば、強い子が産まれるっピ。」

ああ、遺伝子に強く組み込まれてるんだ。

メスがより強いオスを求めるのも、強い子孫を残すためだ。そうして長い年月をかけて、種を残してるんだよなぁ。もうコイツを止めることなんてできない。

なんだか悲しくなってきた。

「キュピ?やっぱりキミもチャレンジしたいの?」

悲しんでいるボクの気持ちを勘違いしている。

「ううん。ボクはコワイから行かない。」

よかったー!よかったー!とハイジャンプしながら、

「じゃあ行ってくるっピ!ちゃんと戻ってくるっピ。」

そう言って、ハエトリグモはぴょんぴょん跳ねながら行ってしまった。


「りく。ほら起きて。なに泣いてるの。」

泣きながらママに起こされると、しがみついて泣いてしまった。

「な〜に?怖い夢でも見たの?」

ほらほらと言って、背中を優しくさすってくれた.

「仲良くなったヤツが死んじゃう夢を見たんだよ。」

・・いや、死んでないし・・

へ?どこかから声が聞こえた。

「ママ、なんか言った?」

と訊くと、首を横に振って何も言ってないと言った。

空耳?泣き止んでキョロキョロしていると、ママが頭を撫でてくれた。

「悲しかったわね。知ってる人?知らない人?」

「ううん。蜘蛛。」

「・・クモ?・・複雑な夢だったのね。」

昨日はありがとうねと言って、甘いカフェオレを作ってくれたママは、シジミ汁を飲んでいた。二日酔いかな?

「あら蜘蛛だわ。外に逃さなきゃ。」

と立ち上がったママに、蜘蛛はダニとか食べてくれるんだよ、と言った。

見ると、丸い毛蟹のようなハエトリグモのメスがぴょんぴょん跳ねている。そばには食べかけのコバエ(オェェ)はいたものの、オスの姿(というか残骸?)は無かった。

「ああ、ハエトリグモのメスだね。」

と言うボクに、ママは

「あら詳しいのね。虫好きだったっけ?」

と言った。

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