ぴょんぴょんぴょん
「キュピ。起きるっピ。」
顔をゲシゲシはたかれた。
・・うぅ〜ん、まだ寝かせてよぉ。
「キュピ?また寝た!起きるっピ。」
またゲシゲシはたかれた。
・・痛いなぁ〜。なんでぶつの〜。
薄目を開けるとキレイな丸が並んでいる。
・・なにこの丸?メタリックですごくキレイだ。
・・・
・・・はっ!!
頭がハッキリすると同時に、目の前の丸がムシの目だと気づいた。
「うわぁーっっ!?」
ぴょんっ 飛びすさった。
またムシか〜〜〜と頭を抱えた。
ええと、確かマンガを読んでたらボーッとしてきて、暴言を吐くアリがドアップになって、怖くなって部屋を飛び出して、ママに助けを求めたけどママは既にベロベロで、パパにママの介抱を頼まれて、ママが切らないからずっと繋がってたテレビ電話を切って、ママをやっとこさ寝室に運んで、そしたら疲れてアリのこと忘れちゃって、部屋に戻って寝た。
あぁぁ〜。何やってんだボク〜〜とまた頭を抱えた。
それにしても、なんだこいつ。
「キュピ?」
ムシにもだいぶ慣れてきた、かも。
今回はボクより少し小さいからか、怖さもあまり感じないし、よく観察できる。
メタリックでまん丸の目が大小4つ並んでいる・・いや、横にも粒っちい目?みたいなのと、正面より小さい目があるから、合わせて8つの目があるのか。
脚も8本ある。羽はない。細かい毛がたくさん生えている。これって蜘蛛なのでは?
「ねーねー、キミはなんていうムシ?もしかして蜘蛛?」
と訊いてみた。すると、
「ボクはアダンソンハエトリっていう、ハエトリグモの仲間だっピ。昆虫じゃないっピ。」
と言った。
「やっぱ蜘蛛なんだね。」
「ボクはムシだっピ。昆虫じゃないっピ。」
ん〜〜〜?
「さっきボクに羽があるかどうか見てたっピ。ボクは昆虫じゃないっピ。」
なんかやたらと昆虫にこだわってるな。
そーいえば、昆虫の定義について授業でやったよな。本橋先生はなんて言ってたっけ?
ひょろりとした本橋先生を思い浮かべる。
「いーかー。「虫」は昆虫だけを指す言葉じゃない。哺乳類、鳥類、魚類なんかは「虫」じゃないけど、両生類や爬虫類の一部は「虫」ということもある。漢字だとわかりやすいぞ。蛇も蛙も蛸も、部首は「虫」がつくだろう。昔は、うごめくと感じたモノはみんな「虫」と呼んだんだ。つまり「虫」とは曖昧なものである。これに対して、昆虫は定義がハッキリしているから覚えとけよー。これテストに出すぞー。」
そーそー。それで本当にテストに出たんだった。
昆虫の定義は・・・思い出せ!ボク!・・
そうだ!3つの定義があって、ボクはカブトムシを想像しながら3・3・4って覚えたんだ。
3・3・4
・・はて?3・3・4ってなんだったっけ?
ここまできて首を捻る。
あれー?なんだっけ?
肝心の3・3・4がなんのことか思い出せないぞ?
確かテストに出たんだけどなー?
ハエトリグモは、こっちを見つめながらぴょんぴょん跳ねている。
・・よし!コイツに訊いてみよう。
他力本願なボクの得意とするところだ。
「ねーねー。昆虫の定義ってなんだっけ。」
「キュピ?定義ってナニ?」
つぶらな(というか、つぶらない)瞳(複眼?いや違うな。メタリックな単眼だ)で首を傾げる。なかなか可愛いじゃないか。
「えっとね、こういうのが昆虫だ、っていう決まりだよ。どんなふうだったら昆虫っていう?」
「キュピ!体!脚!羽!ボクはどれも違う!」
ハエトリグモは、ぴょんぴょん跳ねながら答えた。
そーだ!
一つ目は、体が頭、胸、腹の3つに分かれている。
二つ目は、胸に1対ずつ3対、合計6本の脚がある。
三つ目は、羽が4枚だ。
体が3部、脚が3対、羽が4枚で、3・3・4と覚えたんだ。羽には例外があって、それがテストの引っ掛け問題だった。「昆虫を選べ」という選択肢の一つに「ハエ」があった。ボクは羽が4枚ないから昆虫じゃないと思ったんだけど、2枚の羽が変化してるだけで、昆虫だった。本橋先生は、授業中にそのことをちゃんと説明してたらしいんだけど、なぜかボクは全く覚えていなかった。
とりあえず、ここにきてわかったことがある。
ボクが夢の中でなれるモノは、昆虫じゃなくてムシなんだ。アリもナメクジも昆虫だと思ってたけど、それはボクの間違いだ。ナメクジは明らかに昆虫じゃない。
え?待って?じゃあヘビにもなっちゃうかもしれないってこと?
やだやだ!ネズミとかウサギ丸呑みなんて絶っっ対、ムリムリムリ!!
頭をぶんぶん振っていると、ハエトリグモはまた首を傾げた。なかなか可愛い。フォルムがカニに似てるかも。
ハエトリグモって、近くで見ると可愛いんだな〜。
それにしても、ぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねていて落ち着かない。じっとしていられないのかと訊いたら,
「んー・・・」
と動きを止めた。できんじゃん!と思ってたら、プルプルし始めた。そして「・・キュピッ」と言うと、また跳ね始めた。
「自分も跳んでるっピ。」
なに言ってんの?という自分の視界が上下に揺れていることに、そこで初めて気がついた。
「うわ!ホントだ。ボクも跳ねてるじゃん。」
無意識にぴょんぴょんしていたようだ。やっぱりボクもハエトリグモになってるんだな。
「ここは危ないっピ。早く向こうへ行くっピ。」
だから起こしたんだと言われ、慌ててついて行くことにした。
2匹で連れ立って跳ねながら、いろいろと訊いてみる。
「なんで昆虫じゃないって何度も言ってたの?昆虫って言われるの嫌なの?」
「あいつらはボクをバカにするっピ。チビとか、飛べないくせに、とか。昆虫なんか嫌いだっピ。」
「ハエトリグモってことは、ハエが餌になるんでしょ?だったら食べちゃえばいいじゃん。」
「キュピ!?」
ハエトリグモは、かなり驚いたようだ。
「あんなに大きいモノ捕まえられるわけないっピ。」
「だって、名前にハエトリって付いてるじゃん。」
「ハエはハエでもコバエくらいっピ。あとは、ダニとかゴキブリの子どもとか。」
オェェーッ そんなの絶対食べたくない。
「ボ、ボクお腹減ってないんだけど・・」
恐る恐る言ってみた。すると、
「ボクも減ってないっピ。小さい頃は毎日食べたけど、今はもう何日かに1回で十分だっピ」
と言い、ボクはそれを聞いてめちゃくちゃ安心した。
セーーーフ!やりました。今回は食事なし!
思わずガッツポーズをした。(つもり)
「ところで、なんで危ないの?」
「あの辺にはメスがいるっピ。」




