ナメクジ怖い
何とか土をこぼさずに家に着くと、玄関の明かりがついている。
今日はママより遅くなっちゃったな。
自転車を降りると鉢植えを見てニンマリした。あの花を見た時の、ママのリアクションを見たくてウズウズする。でも咲くまで我慢だ。それとも今日撮った写真を見せちゃおうかなぁ・・
いろいろ考えを巡らせながら鉢植えを掴んで持ち上げると、葉の重なったところチカリと光るものが見えた。
ん〜?なんだろう?
上ほうの葉をピラッとめくると、ナメクジがいた。
「ゲッ!気持ち悪っ。」
光ったのは、ナメクジの這った跡だった。気づかなかったのが不思議なくらい、そこそこのサイズ感があるヤツだ。葉っぱをゆすって振り落とそうとしたけど、全然落ちない。仕方なく、その辺の葉っぱをちぎると、それでナメクジを掴んだ。ムニュンとした手触りが葉っぱを通して伝わってきた。
「うぇぇ。気持ち悪いなぁ。」
植木の方にポイっと投げると、そのまま鉢植えを持って家の中に入った。
「ただいま。」
「おかえり〜。遅かったね。」
ママはマカロニを茹でている。今週はシチューの週だから、水曜日の今日はグラタンだ。
「友達んチ寄ってきたんだ。」
「自転車は?」
「取ってきたよ。修理代1,000円だったから、後でちょうだい。」
はいはい、というママにジャジャーン!といって鉢植えを見せる。
「あら。紫陽花じゃない。どうしたの?」
さすがママ!正解。
「タッチーのお母さんにもらった!これ咲いたら絶対ビックリするよ。すごくキレイなんだ。」
「えー!じゃあお礼言わなきゃ。タッチーって誰?」
「館林だよ。でも、どうせタッチーにお母さんの連絡先訊いたって、お礼なんかいいって言って教えてくれないよ。もしボクでもそう言うもん。」
ママは、そうか、と言って、次の懇談会でお礼を言うと言った。
マカロニが茹で上がったところで、ベーコンを足した(ミニウインナーがそのまま入ってることもある。ボクはそれも好きだ)シチューの残骸に混ぜてチーズをかける。今日はシチュー(だったもの)が少し足りなかったみたいで、レトルトのホワイトルーを適当に混ぜていた。
グラタンが焼けるまでの間、テーブルにチラシを広げて鉢植えを見せる。お披露目会だ。
「へー。こんなに小さいのにちゃんと咲くのね。」
ブロッコリーみたいなツボミを見て、ママもニコニコしている。見たんでしょ、どんな花なの?と訊かれたので、ナイショ!と言った。
「あれ!?これってナメクジの跡じゃない!」
「そうなんだ。でももう取って捨てたよ。」
「えっ!?触ったの?手洗った!?」
ママがすごく焦っている。なんで?
「えー・・洗ったけど。」
「洗ったのね?ちゃんと洗ったのね?」
コクコクと頷くと、あからさまにホッとした様子で
「よかった〜〜。」
と言った。そんなにナメクジ嫌いだったのかな?
「ナメクジとカタツムリにはね、寄生虫がいることがあるのよ。」
「寄生虫?」
「そう。広東住血線虫っていって、すごく怖いのよ。」そう言うと、姿勢を正して説明の体制に入った。
ママは寄生虫が好きだ。目黒寄生虫館に行ってカルタを買いたいと言ってるくらいだけど、残念ながら、いつもパパに却下されている。
「寄生虫が寄生する生き物のことを宿主っていうんだけど、宿主を変えながら成長する種類がいて、広東住血線虫もその一つなの。成虫になるまでにカタツムリとかナメクジを宿主にすることが多くて、這った跡にさえ幼虫がいることがあるから、触ったら、とにかく手を洗わないとダメなのよ。もし幼虫が人間に入り込むと脳の方にいっちゃって、麻痺が残ったり失明したり、最悪死んじゃうこともあるの。どうする?頭に小さい虫がウゾウゾわいたら。」
「えーっ!?コワッ!どうしよう、触っちゃった。」
ママは、ちゃんと手を洗ったんでしょ、と言ってにっこりした。
「手を洗ってれば大丈夫。怖がる必要はないのよ。」
よかった〜。今度はボクがホッとした。
「そういえば、さっき言ってたナメクジは、どこに捨てたの?」
今夜はグラタンと食パン。それからいつものカットキャベツ。ママだけの時は、直接ドレッシングをかけて袋のまま食べている。ボクもそれでいいのに(面白そうだし)、ちゃんとお皿に移してくれる。
玉ねぎドレッシングをかけたキャベツをシャクシャク食べながら、
「植木の方にポイッと投げといた。」
と言ったら、ママは口をあんぐり開けて
「えーーーっ!信じらんない!」
と言い、ボクはそこからお説教を受ける羽目になってしまった。
「はぁ〜疲れた。」
ナメクジは植物を食い荒らすらしく、おまけに1匹いるだけでどんどん増えるらしい。そこから始まって日々のボクの適当さまで、ナメクジのおかげでせっかくのグラタンも冷めてしまった。
でもさ。そもそも、食事中に寄生虫やらナメクジやらの話しは勘弁してほしい!ママはへっちゃらだけど、パパがいたら絶対に食事中はやめて!って言っている。
「・・このまま寝たい。」
明日は、課題本を読んでの感想文の締め切りだ。
「恵太とハルキはもう提出したって言ってたな〜。ソエジンは絶対まだ提出してないはずだ。」
ボクだけ未提出っていう事態は避けたい。
そもそもまだ読み終わってないんだよな〜。
全然面白くないし、内容が重過ぎる。
課題本が発表されるたびに、なんで子どもにこんな重い話を読ませるんだよ!と思う。話も、終わり方が尻切れトンボというか中途半端だったり、主人公の気持ちがはっきりしてなかったり、そんな本ばっかりだ。ママは、考えさせるのが文学なのよ〜と言っていた。よくわからん。
でも!ボクにはパソコンがある。作品のあらすじも調べればすぐわかるし、レビューとか感想が溢れてるから、それを適当に合体させればそれらしく書ける。だったらサッサとやればいいんだけど、面倒臭くて先延ばしにしてるだけなんだよな〜。
感想文を書き終えて、ぐったりしながら歯磨きをした。
他人の感想を、まるで自分のものかのように、それらしく合体させるのも、なかなか大変だ。分厚い本じゃないから、読んだ方が簡単なのかもしれない。
おやすみを言いにリビングにいくと、ママは125mlではなく350ml缶のビールを飲んでいた。
今日は嫌なことでもあったのかな?
そう思いながら、自分の部屋に戻ってベットに入った。




