表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

第2話 都から来た少女

<三人称視点>


「きゃあっ!」


 一人の少女が声を上げた。

 すると、少女の周りをすぐに護衛が囲う。


「ティア様、大丈夫ですか!」

「え、ええ……!」


 少女の名はティア。

 

 綺麗なピンク色の長い髪。

 見目(みめ)(うるわ)しい様相。

 装備ごしにも感じられる高貴な雰囲気は、高い位を持つ者の証だ。


「ここはお任せください、ティア様!」

「は、はい……!」


 護衛たちも重装備で固めているが、ティアを含めて一行は()(へい)していた。

 目の前に、大きな(おおかみ)の魔物がいるからだ。


「ギャオオオオオオォォォ!」

「「「ぐううっ……!」」」


 その大きな咆哮(ほうこう)に一行は(おび)える。

 歯をかみしめながら、ティアは声を上げた。


「これが、“魔境山脈”の魔物……!」


 人間からは、この山は“魔境山脈”と呼ばれている。


 名前からすでに物騒である。

 それもそのはず、ここは立ち入りが禁止されている魔境。

 危険度SSSランクの超危険地帯だ。


「まだ序盤だと言うのに……!」


 だが、ここはまだ山の(ふもと)

 山は奥に行くほど魔物が強くなると言われている。

 ならば、護衛達も自然と考えてしまう。


「じゃあワイバーンはどれだけ強いんだ……」

「バジリスクも恐ろしい……」

「サラマンダーなんか考えたくねえ……」


 彼らが口にするのは、伝承にある危険な魔物たち。

 “会えば死ぬ”と言われるその強さは、想像すらできない。

 それでも、ティア達にはやらなければならないことがある。


「あそこにさえ行けば……!」


 真っ直ぐ目を向けるのは、山頂にある一際大きな巨樹。

 人里では“世界樹”と呼ばれる樹だ。


「世界樹に眠る“四大精霊”様さえいれば……!」


 世界樹には、四大精霊と呼ばれる精霊の神(・・・・)がいるという。

 四体の内、一体でも使役すれば千人力。

 四大精霊から授かる魔法は、規格外の力を持つと言う。


「腐った我が皇国(おうこく)を変えるために!」


 強い想いから、ティアにはその力が必要なのだ。

 しかし、やはり“魔物山脈”の魔物は強い。


「ギャオオ!」

「ぐわあっ!」


 ティアの目の前で、また護衛がやられてしまう。

 まだ息はあるが、立ち上がれる状態ではない。


「くっ……」


 護衛たちは膝をつき、現状を打破する手段はない。

 かなりの確率でこうなるのは分かっていた。

 だが、ティアの願いを叶えるにはこうするしかなかったのだ。


 両手を握ったまま、最後にティアはその願いを口にする。


「わたしは誰もが平等になれる国を作りたかった……」

「ギャオオオ!」

「……っ!」

 

 恐怖からティアは目を(つむ)る。

 だが、いつまで経っても痛みはやってこない。


「……え?」

 

 ゆっくりと開いた目の先には──人が立っていた。

 

「う、うそ……!」


 現れたのは、黒髪の少年だ。

 年はほとんど変わらないように見える。


 だが、少年は軽々しく狼の魔物を止めていた。

 自身の何倍もの体長を持つ魔物を、片手一本で。


「僕はアルです。大丈夫でしたか?」

「……! は、はい!」

「ではちょっと待っててください」


 助けに入ったのは──アルだった。

 すると、ティアに笑顔を向けた後、また魔物に振り返る。

 何をするかと思えば、すっと手を差し出した。

 

お手(・・)

「ギャオオ!」


 言う事を聞かない魔物に、二度目は雰囲気を変えて再度指示する。


「──お手」

「……ッ!」


 その瞬間、ティアを含めて周囲は感じさせられた。

 アルの中に眠る圧倒的な強者感を。


(この方は一体……!?)


 その圧には、魔物も素直に従うしかない。

 もう一度逆らえば命はないと感じたのだろう。


「ギャ、ギャウ」

「いい子だ。じゃあ向こうに行ってな」

「ギャウゥ……」


 そうして、戦わずに場を収めてしまった。

 一部始終を見ていたティアは、ぺたんと尻もちをつく。


(なんて力なんでしょうか……)


 驚き、安堵、困惑、色々な感情が混ざったのだ。

 そのまま畏怖と敬意を込めた目で、ティアはアルを眺める。

 だが、やがてハッとすると、すぐさま立ち上がった。


「お、お助けいただき、ありがとうございました!」

「いえ、たまたま騒ぎを聞いただけですから。それとこの方達は?」

「……私の護衛です」


 ティアは悔し気に答えた。

 まだ息はあるが、傷があまりに深すぎる。

 アルが到着するまで、自分も戦闘に参加できていればと後悔しているのだ。


 しかし、アルはにっと笑った。


「お仲間さんでしたか。これぐらいなら大丈夫ですよ」

「え?」

「僕のお水を分けますね」


 アルは木の(つつ)を取り出す。

 そこにはキラキラと光る水が入っていた。

 その水を雑にぶっかけると、護衛の傷は()えていく。

 

「なんだなんだ!?」

「腕が再生してる!?」

「川の向こうのばあちゃんが消えた!?」


 瀕死状態だった護衛たちは、すぐに息を吹き返したのだ。

 本人たちもだが、一部始終を見ていたティアは目を疑う。


「い、一体何をかけられたのですか!?」

「あの大きな樹から取れる水です。僕は“おいしい水”って呼んでるんですが」

「あの樹からって、まさか……」


 アルが指したのは、人間で言う“世界樹”。

 アルの家でもある世界樹について、人間にはとある伝承が残っている。

 どんな傷も癒す『世界樹の聖水』が取れると。


「アル様をそれを普段から飲まれているのですか?」

「あ、はい、おいしいので。あとはお風呂とかにも使います」

「……!?」


 また、『世界樹の聖水』には、力を増幅させる効果があるという。

 身体・魔法など、人のあらゆる力においてだ。

 それを生活用水扱いしているアルの力は、もはや計り知れない。


 すると、ティアは確信する。


(この方が、山の“頂点”……!)


 世界樹は山の頂上に立っている。

 それを牛耳る存在ならば、アルが魔境山脈の頂点に君臨するということだ。

 

 加えて、精霊に敏感(びんかん)なティアは、アルの中にぼんやりと四つの存在(・・・・・)を感じていた。


(まさか……)


 それらを(かんが)みて、ティアは意を決してたずねる。


「アル様、折り入ってご相談がございます」

「え、はい」

「わたしの近衛(このえ)騎士(きし)になってくださいませんか」

次回は18過ぎに更新です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ