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第19話 アルの全力

 「覚悟しろ」


 スラムの安全を確保したアルは、四大精霊全てを顕現(けんげん)させる。

 文字通り“全力”の態勢だ。


 しかし、風・水・火・土と、四大精霊はアルに問う。


『良いんだね、アル』

『体は持って数分よ』

『死ぬ覚悟はあんのか』

『後でどうなるか分からんぞい』


 四大精霊の顕現は、一体だけでも普通の人間なら数秒と持たない。

 四体同時ともなれば、体力の消費は計り知れない。

 規格外の力ではあるが、生命力すら削っているのだ。


 それでも、アルは一切の(ちゅう)(ちょ)なく首を縦に振る。


「みんな、力を貸してほしい」

『『『わかった』』』


 主が言うのなら、四大精霊も文句はない。

 彼らも全力を以てアルを支援する。

 すると、アルは四色の神秘的な光に包まれた。


「待たせたね」

「「……ッ!」」


 その全てを圧倒する威圧感には、レグナスとティアも目を見開く。


「これは……!」

「アル様……!」


 その姿は、まさに“(あら)(ひと)(がみ)”。

 精霊の神である四大精霊そのものにすら思える、神々しき様だ。


 しかし、それは邪霊を顕現させるレグナスも同じ。

 共に多大な体力を消費し続けている。

 つまり、ここからは制限時間付きのデスマッチだ。


「いくぞ、レグナス」

「面白い……!」


 互いに視線を交わした直後、二人の中央から轟音(ごうおん)が響き渡る。

 瞬間移動にも思える速度から、両者がぶつかり合ったのだ。

 その激しさは、周囲に衝撃波をも生み出す。


「きゃあっ!」


 それには、十分な距離を取るティアも吹き飛ばされそうになる。

 ティアはさらに退避すると、息を呑んで戦場を見上げた。


「こ、これは……」


 二人の戦場は、まさに“天変地異”だ。


「くらえ! ──【暴風(ぼうふう)(りゅう)(けん)】」

()(ざか)しい! ──【邪風(じゃふう)(りゅう)(けん)】」


 互いに宙に浮き、大地を創り、優位な環境を形成し合う。

 アルの四属性に対して、レグナスは邪霊の魔法を駆使する。

 神話を思い起こさせる人智を超えた戦いだ。


 他の介入を許さぬ二人の戦いは、激しさを増していく。


「うおおおおおお!」

「その程度か、スラムの英雄!」


 また、この戦いは二つの意味を合わせ持つ。

 一つは、当然アルとレグナスの戦いだ。


「レグナス……!」

「平民風情があ!」


 もう一つは、四大精霊と邪霊の戦いである。


『先代! どうして邪霊なんかに!』

四大精霊(お前たち)に言う事はないよ!』

 

 どちらも精霊の神と神による対決だ。

 両者はアルとレグナスに介し、代理戦争をしているとも言えるだろう。

 ならば、ここの力はほとんど同等。


 両陣営に差があるとすれば、一つ。

 使役する人間の器量である。


「ハァ、ハァ……」

「……!」


 激しい攻防の中、レグナスの息が切れ始めた。

 第一皇子とはいえ、アルと同じ体力を消費し続けられるはずがない。

 だが、レグナスはまだ倒れない。


「クソが……」


 もはや執念にも思える(きょう)(じん)な精神力だ。

 体力は底をついているが、ギリギリ持ちこたえている。


「クソがああ!」

「レグナス……」


 対してアルは、逆に冷静さを取り戻していた。

 戦いの中で気づくことがあったのだ。


レグナスと邪霊(お前たち)は、味方同士ではない)


 邪霊とレグナスは、決して協力関係にない。

 互いの目的のため、利用し合っているに過ぎないと。


 反対に、アルと四大精霊は力を合わせている。

 深めた絆を信じ、互いに力を高め合うように。


(お互いに高め合ってこそ、仲間だ……!)


 そして両者の在り方は、皮肉にもティアとレグナスの違いを示していた。


 ティアは手を取り合い、高め合おうとしている。

 レグナスは優遇を進め、互いに裏切り合う関係を助長させようとしている。

 

 どちらが正しいかは、この戦いが決定づける。


「終わりにしよう、レグナス」

「……ッ! ぐううっ!?」


 高次元の戦いにおいて、少しの(ほころ)びは敗北につながる。

 レグナスの限界が見えた途端、アルが押し始めたのだ。

 一度劣勢に回れば、簡単にはひっくり返らない。


「これが僕たちの力だ……!」

「ぐうううううあああ……!」


 アルの魔法が、レグナスの魔法を全て上回る。

 もはや勝負は見えているようなものだ。

 それでも、レグナスは最後に持ちこたえてみせた。


「負けぬ」

「……!」

「俺は負けぬぞおおおおおおおお!」

「……!?」


 だが、今までとは様子が違う。

 口は悪くとも、どこか皇族の気品を感じる様はすっかり消え失せた。

 これにはアルも違和感を抱く。


(なんだこの、暴走する感じは……!)


 しかし、これこそが邪霊の狙いであった。

 

『──()ったぞ』

「……ッ!!」


 レグナスから邪悪な声が聞こえてくる。

 まるで邪霊がレグナスを支配したように。


『ハッハッハ! この体は俺のものだあ!』

「まさか邪霊は、最初からこれを……!」


 ずっと前から、邪霊はレグナスに力を貸していた。

 それと同時に、精神に干渉(・・・・・)し続けていたのだ。

 より人間を憎むように。

 

 その長年の干渉と、レグナスの選民思想が合わさり、暴走。

 結果的に、究極的な選民思想を持つレグナスが生まれてしまった。

 つまり、全ての元凶は邪霊だったのだ。


 邪霊はレグナスを介して、四大精霊に問う。


四大精霊(お前たち)は、人間を恨んでないのか?」

『『『……!』』』

「知らないとは言わせない。精霊と人間の歴史を!」


 その昔、四大精霊以外にも、目に見える大きさの精霊はそこら中にいた。

 だが、人間が精霊を酷使したばかりに、ほとんどが消えてしまったのだ。

 結果、残った強い精霊は山奥に(こも)り、ひっそりと暮らした。


 その名残が、今の四大精霊である。


「み、みんな……?」

『『『『……』』』』

 

 四大精霊は口を閉ざす。

 これが人間を信頼していなかった理由だ。

 だが、やがて彼らは首を横に振る。


『ぼくたちも人間が好きじゃなかった』

『でも変わったのよ』

『アル、そして──』

『ティア殿がいたからのう』


 今の四大精霊は考えが変わったようだ。


『悪い人間ばかりじゃないって知ったんだ』

「シルフ、みんな……!」


 対して、それを知らない邪霊は顔をしかめる。


「……は?」


 今さら信じられないのだろう。

 そもそも先代の四大精霊が邪霊化したのは、また(・・)人の(みにく)さを知ったからである。

 ならばと、当初の計画を実行する。

 

「まあいい。どうせお前たちごと消える」

「「「……!」」」


 上空に昇った邪霊が浮かばせたのは、巨大なドス黒い炎の球。

 どんどんと(ふく)れ上がるそれは、アステリアを消し飛ばすほどの威力に見える。

 乗っ取ったレグナスの寿命(・・)を、全て魔法に変えているのだ。


()しき人間社会は消えろ」


 これを放てば、レグナスもろとも邪霊の存在も消えるだろう。

 だが、それすらも覚悟の上だ。

 邪霊はアステリア皇国の滅亡を望んでいる。

 

 対して、アルは一言つぶやいた。


「みんな、あれをやるしかない」

『『『『……!』』』』


 だが、四大精霊はすぐさま声を上げた。


『アル正気なの!?』

『あんた死ぬわよ!?』

『本気なのか』

『簡単には容認できぬぞ』


 相手は、レグナスの寿命を全消費するほどの魔法だ。

 それを止めるには、同等以上の魔法で跳ね返すしかない。

 ならば、アルが代償にするのも寿命である。

 

 それでも、アルは笑顔でうなずいた。


「大丈夫。死ぬつもりはないよ」

『『『『……わかった』』』』


 主がそう言うのであれば、四大精霊は従う。

 しかし、遠くからティアが声を上げた。


「アル様、一体何を!?」

「ティアは安心して見てて」

「……!」


 何も言わせぬ顔だ。

 ならばと、ティアは両手を包んで祈る。


 そして、アルは唱えた。

 邪霊に対抗しうる最大の魔法を──。


「【創世精霊光(ジェネシス・ノヴァ)】」

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