過去編:堺翔吾4話「詩織の過去」
清楚な詩織の小さな口から溢れ出たのは、彼女があんなゲス男の太郎と仕方無く付き合っている事すら頷けてくる、衝撃の事実だった。
それはまだ詩織が中学校に入学した直後の事。
詩織は友達から、度々太郎についての酷い噂は聞いていた。
太郎は兄である北里翔馬と同じ2学年の男子で、世間一般では「不良」と呼ばれる存在だった彼。友達の真実の知り合いの女子は、彼に性的暴力を振るわれ、不登校になったらしい。
その時の詩織は、そんな男とは付き合いたくないなと思っていた。だから、極力太郎と関わる女子とは深い関係を築かず、太郎本人の事も避けるようにした。
─────
しかし、暫くしたとある日の帰りの事。
それはクラスで体育祭の打ち上げをしようと、焼肉屋に行った時だった。
詩織は男友達の利人と一緒に帰っていた。
実は詩織、利人の事が好きだったのだ。ボクシングをやっている利人が格好良く見え、好意を持ったのだ。
「あははっ、そうだね!」
「でしょ〜?」
詩織と利人は2人で楽しく帰っていた。そこで詩織は、意を決して利人に質問をした。
「ねぇ、利人君ってさ、彼女とかいるの?」
「ん、いないよ?」
詩織はこの言葉を聞いた瞬間、告白するしかないと思った。
何故かは分からない。が、根拠もなく利人に自分の思いを伝えようという一心で。
「ねぇ、利人君。あのね……私、ずっと前から、利人君の事が……す、好きだったの──ッ!」
あぁ、言っちゃった!!
詩織は自分の心臓の音が大きくなったのを感じた。
「──えっ、本当に!?」
「……うん」
「実はね……俺も、詩織ちゃんの事が好きだったんだ」
この利人の一言で、詩織は幸福で包まれた。
全てが満ち足りた感情に駆られ、ただ、利人の事を想っていた。
「──えっ!?」
詩織は驚きの余り、口を右手で抑える。利人はその手をそっと避けて、詩織に口付けをした。詩織と利人はお互いに抱き合う。
「……詩織、ホテルに行かない?」
「……うん、良いよ。私はもう、利人君の物……」
詩織は利人への愛情で盲目的になっていた。
自分が読んだ本にこう書かれていた。
「男女が付き合ってすぐホテルには行かない」と。
かなりの確率で、男が女側を道具としてしか見ていない、ヤリチンの可能性が高いからだ。
◇
詩織は利人と手を繋ぎながら、ホテルに行く。
親に「ちょっと友達の家で泊まってくるね」とLIMEで連絡しておく。
詩織はこんな事が初めてで、とても緊張していた。その余り、彼女の警戒心も薄れていた。
──利人がホテルの受付もしないで、部屋に入ったのに気づかずに。
部屋に入ると、利人に「シャワー浴びててよ」と言われ、荷物を置いてシャワーを浴びた。
私、中学生なのに、大人の階段を登るんだと、変な事を考えながらシャワーを浴びる。
詩織はシャワーの音で、扉が開いて誰かが入ってきたのに気づかない。
詩織はシャワーを浴び終え、バスローブに着替える。
そして、利人が待っている部屋に入った。
「利人君、お待たせ──」
「やぁ、やっぱり利人から聞いた通り可愛いねぇ!!」
利人が居ると思っていた部屋には、何故か花本太郎の姿が。
……何でこの男がここに!?──いや、それよりもここから逃げなきゃ!!真実から聞いた話が本当なら、今から私は……!!
詩織がドアノブに手を掛けようとしたその時。
「やぁ、詩織ちゃん。ちょっと驚いたかな?」
「え……利人君…?」
「どうしたんだい?そんなに怖がって?」
「あ、あそこに──」
「あぁ、太郎さん?」
「そう、そうなの!!何であの人がここに──」
「俺が呼んだんだよ。3Pなんて、中々体験出来ないだろう?」
この瞬間、詩織の恋は終わったんだと自覚したのと同時に、詩織は身の危険を感じる。
ホテルという1つの密室の中に、女1人の状態で獣の様な目をした男2人に囲まれているのだから。
利人と太郎が歪んだ笑みを浮かべながら、詩織に近づいて来る。
詩織はベッドに押し倒され、太郎が置いたスマホにその姿を映されながら、犯され続けたのだった。