7.超視
綺道が“スーパービジョン”の存在を知ったのは、在日アメリカ空軍の情報機関員との雑談の中でだった。
ドローンが主戦力化するとともに、操縦士やセンサー要員として女性の採用を増やしているという。
その理由の一つが、「スーパービジョン」だった。
関係するタンパク質を製造する遺伝子がX染色体にしかないため、女性のみに起きる突然変異なのだ。
「光に波長があるのは知ってるよね?
ざっくり言うと、波長が長いのは赤、短いのは青。真ん中は緑に見える。可視光線てやつだ。
波長が長すぎると赤外線、短すぎると紫外線。人間には見えない」
美鈴はうなずいた。
「人間は、赤錐体、緑錐体、青錐体という三つのセンサーを目の中、網膜に持ってる。可視光線で波長が長いの、中くらい、短いのにそれぞれ対応してる。
それぞれ分解レベル百の感度がある。三つのセンサーが合わさると、百かけ百かけ百。つまり百万色を見分けられる」
「すごいけど、それが普通なのね?」
「うん。
ところが、“スーパービジョン”は、四種類の視細胞を持ってる。
つまり、百の四乗。一億の分解能で光を識別できる。
キャッチできる波長の範囲も広いみたいだ」
脳の処理能力の問題は別にあるが、光学センサーとしての機能に限って言えば、常人の百倍の情報収集能力がある。
だから、軍事的にも利用価値が高いということだった。
「ちなみに、“スーパービジョン”は遺伝の関係で女性にしか現れない。
だから、半グレの男どもには想定外だったろうね」
警視庁組織犯罪対策部の刑事によれば、今回襲撃してきた半グレ集団は抗争を抱えていた。
何かの手違いで、彩希は組織の裏切り者のオンナだと勘違いされたようだ。
綺道はミルクティーの最後の一口を飲んで顔を上げると、美鈴があくびをするところだった。
綺道も大あくびをした。
「俺も年だ。
引き上げるよ。
スズちゃんは、とりあえず絵麻の部屋を使ってくれ」
「ありがとう。絵麻さんにはママが連絡して、大丈夫ですって。
シャワーも借りるわね」
美鈴は満足気にウインクした。
「よろしくねっ!」
外では、朝のヒバリがせわしなく鳴き始めた。