5.反撃
黒いハイエースがマンションの駐車場に侵入し、大きな音を立てて停まった。
運転席から入れ墨の男が金属バットを持って飛び出し、棒立ちになった彩希の父親に向かってバットを横殴りに振った。
無造作な動きだった。
ドゴッ…
嫌な音がして、彩希の父親は崩れ落ちた。
同時にハイエースの後部ドアが開き、男が二人飛び出し、彩希を狙った。
綺道は、「逃げろ!」と叫ぶと金属バットの男に向かって、手製の目潰しを噴射した。
園芸用の蓄圧式噴霧器に、水で溶いたタバスコをたっぷり仕込んだ。いずれも、最初に見回りした際、ドラッグストアで買ったものだ。
タバスコ液は、三メートル先の男の顔を直撃した。綺道は特殊警棒を振り伸ばすと、襲いかかった。
腰を低くしたまま、タックル気味に掴みかかると、金属バットをかい潜り、男の膝に特殊警棒を叩きつけた。
堅い木に釘を打ち込む要領で、
バン!バン!バン!
と正確に振り下ろし、膝関節を破壊した。
綺道は警棒を捨て、のた打ち回る相手から金属バットを奪うと、彩希を拉致しようとする二人組に突進した。
男の一人が美鈴の顔を張り飛ばす光景が目に入る。
綺道は男の頭を狙い、全力で金属バットを振った。ガードした男の前腕が折れて骨が飛び出し、バットの先端がアゴに突き刺さった。
残った一人に突きを見舞ったが、ヘッドスリップで躱された。
綺道はそのままの勢いで飛びかかり、男の脳天に金属バットを振り下ろした。
これも頭部は避けられたが、渾身の一撃は、鎖骨をへし折り胸骨にめり込んだ。
美鈴に暴力を振るった男のところに急いで駆け戻り、とどめを刺そうと金属バットを両手で振りかぶる。
だが、美鈴の声で我に返った。
「ああ、すまん。
…やりすぎか…」
綺道は力を抜いた。
美鈴の顔を両手で包み、街灯の明かりで注意深く観察した。頬が赤くなっているが、大丈夫そうだ。
「すぐ部屋に戻って冷やすんだ。じゃないと青あざになる。警察への電話も頼む。俺は救急車を呼ばなきゃならん」
「頼んだぞ。必ず、ちゃんと冷やすんだ」綺道は姪っ子の背中を押すと、彩希の父親の救護に走った。