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「転生〜未来への約束」  作者: 蒼い月光
第1章:闇の中の絆
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第2話「空気」

面談が終わり、健人は自転車に乗って訪問活動に出かけた。

今日は空が晴れ渡っており、雲ひとつ無い良い天気だ。

木々は赤や黄に色付いており、少し前までの暑さも和らいできた。

この町は都会でも田舎でも無い。山や川などの自然も豊かだが、周囲には住宅街やマンション、団地、大学、スーパーや教会などもある珍しい土地である。健人は一軒の木造の一戸建てに到着した。

この地域はたくさんの新しい一軒家が並ぶ新興住宅街である。その中でもこの家は浮いている。木造で築年数はかなり経っており、庭に草木が生い茂っている。入り口付近にはたくさんのゴミ袋や空き缶が散乱しており、ポストには郵便物が溜まっている。

健人は郵便物をポストから取り、入口の引き戸を開けた。

「西島さーん??」

健人はズカズカと家の中に入っていく。

「おーい!どこにいますかー?」

健人が居間にたどり着いたとき、こたつ付近で横になっている男性を見つけた。テーブルには酒の空き缶が並び、床にもいくつか転がっている。

「おいおいおい!西島さん、また飲んでるんですか!ほどほどにしろって言ったでしょ!」

健人は横になっている西島を支え、起こした。

「ああ……成瀬さん……、これはこれは。」

西島は半開きになった目を擦った。

「もう……ダメですよ、ほんとに。またゴミが散らかってるとか酒の匂いがするとか……ご近所さんから苦情が来てますよ!それに肝臓悪いんでしょ?体壊しますよ!」

健人は大きな声で言った。

「すまんすまん、気をつける……気をつけますから!」

西島はヘラヘラと笑いながら答える。

「郵便で来てた手紙も中に入れといたから!読んどいてくださいね!また前みたいに警察に厄介にならないように過ごしてくださいよ!」

健人は吐き捨てるように言って部屋を出た。

西島敏雄、72歳。一人暮らし。古い一軒家を借家として借りて住んでいる。昔から大雑把で豪快な性格で、地域でも有名ないわゆる「不審なおじさん」だった。結婚は何度かしたもののいい加減な性格からすぐ離婚し、加えて万引きやアルコールでの問題行動も多いことから妻も子も兄弟もみんな絶縁関係になっている。最近は酒の摂取量が多く、身の回りのことも怠惰になって来ているため、地域住民からの苦情が多くなっている。

健人がこの仕事をして相手に必要な態度を選択し、空気を合わせて接する大切さを学んだ。西島には指導的な立場が重要であるため、健人もある程度強気に接している。


訪問後、事務所に帰るまでの道で健人は公園の横を通った。  

「あっ!石田さん、こんにちは!!」

健人はブレーキを握り、声をかけた。

公園には少しの遊具と噴水があり、その近くのベンチ付近にに老夫婦がおり、車椅子を押している男性がニコッと会釈した。車椅子には女性が座っており、うつろな表情である。

「成瀬さん、お久しぶりです。ちょっと、散歩に来てたんです。未季江も太陽の光を浴びた方が健康にいいですから。」

彼の名前は石田幸志。奥さんの未季江さんと団地で二人暮らしだ。未季江さんは20年前に仲良くしていた妹が自殺してしまってからというもの重い精神疾患を患ってしまった。そんな未季江さんを幸志さんは献身的に支えて来た。未季江さんが3年前に自立して歩行することが難しくなったあたりから健人が相談に乗るようになった。現在、未季江さんは車椅子に乗るようになっており、日常生活については幸志さんも足腰が良く無いため介護ヘルパーのサービスを受けている。

「ヘルパーさんのおかげで何とか2人で暮らせてます。私だけでは無理だったので相談してよかったです。大体の補助は私がしてますが、調子が悪い時は難しいので。」

幸志はずり落ちたメガネを直しながら言った。


「あっ……」

健人は当たりの音が急に鎮まり、小さな耳鳴りが聞こえるのを感じた。健人は静かに目を閉じた。

「雨が降りますよ。早めに帰った方がいいです。」

健人はやわらかな笑顔で呟いた。

「えっ?こんなに晴れてるのに……天気予報も晴れでしたよ!?」

幸志は驚いた顔で答えた。

「……まあ、秋口ですしだんだんと寒くなりますから……早めに家に帰ってゆっくりしてくださいね。」

そう答えて、健人はまた自転車を漕ぎ出した。

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