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17:これからのことは・2

「ああ……そう、だったの。それはアニー、嫌な思いをしたわね」


 ロゼーヌ様はわたくしに寄り添うように言葉を落として、わたくしの手を握って下さいました。


「ロゼーヌ様……」


「あの子、ビンスはね。自分の母から相手との付き合いによって言わなくてもいい時もあるけれど、その相手ときちんと向き合って大切にしたい時は正直な気持ちを話して謝る時は謝り、感謝する時は感謝するように教育されたの。だからビンスを許して、と言いたいわけではないのよ? そういう教育を受けたということを話しただけ。亡くなった母からの教えを守ったのでしょうね。でも、一方的な気持ちと謝罪は、時に相手を傷つけることをビンスは知らないのね」


 ロゼーヌ様は困った子だこと、と呟きながら旦那様が打ち明けたことについての背景を教えて下さいました。成る程、前公爵夫人の教育が根底にあるのなら、旦那様が黙っていられずに打ち明けてきたことを、理解出来ずとも納得致しました。

 ーー納得だけ、ですが。


「ロゼーヌ様……わたくしは、どうしたらよいのでしょう」


 ポツリと溢した言葉は、わたくし自身も驚く程に弱く、そしてこれが自分の本音なのだと気づきます。

 許さなくていい、と言われても許した方がいいのではないか。旦那様を立てる妻の立場ならそうするべきでは、と思いながらも一方で勝手なことを言われて謝られた行き場のない思いをどうすればいいのか、と苦しい。

 ……ああ、そうね、わたくしは苦しいのです。


「どうもしなくていいわ」


 苦しんでいたわたくしにロゼーヌ様があっさりと仰いますが……どうもしなくていい?


「許さなくてはいけないことなんてないの。ビンスとアニーの間のことで、他者は知らないこと。だからあなたが男を、旦那様を立てなくてはいけないのではないか、と悩む必要もないの。そうしたければそうしていい。でもビンスの話を聞いたあなたが傷ついているのなら、傷を無理に塞ぐ必要もない。それをビンスに打ち明けていいのよ。二人の間のことだから。許せないならその気持ちが続く間は許さなくていい。許せる時が来たら許せばいい。死ぬまで無理ならその時まで許さなくていい。アニーが傷ついた気持ちは、ビンスに伝えなくては分からないけれど、アニー自身が癒えるのを待つしかないもの。それがいつまでなのか、わたくしにもアニーにも分からない。だったらそれまで何もしなくていいのよ。ビンスに伝えたくないなら伝えなくてもいいし」


 ロゼーヌ様の言葉に、わたくしは目を瞬かせました。

 旦那様なのに? 公爵様なのに? 男性、なのに?

 旦那様を立てなくて良い、と、死ぬまで許さなくて良い、と、そう仰っていらっしゃいますか……。


「このことは、死ぬまで許さなくてもいいけれど。それでもアニーがビンスの妻として、公爵夫人として、立ち続けるのならば、このことと、他のことは区別する必要は有るわ。もちろんこのことは、アニーの中で簡単に終わらせられないと思いますけれどね。でもビンスの隣に居ることを続けるのであれば、それはそれ。と割り切らなくては、ビンスもアニーも辛くなる。このことが時折胸を痛ませることもあるでしょう。でも、ビンスの隣に立ち続けるのであれば、他のことと区別しなくてはならない。それが出来るかどうか、ね」


 わたくしが旦那様のお話に傷ついたことに、ロゼーヌ様は寄り添って下さいながら、それでも旦那様の隣に、妻として立つことを選ぶのなら……その立場を、契約結婚を続けるのであるのなら……旦那様のケジメとして旦那様が話されたことと、他のことの区別はつける必要がある、と強い口調でお話下さいました。

 とても難しいですが、ロゼーヌ様の仰ることは理解出来ます。

 旦那様の妻であることを続けるのであれば、わたくしは先の先まで、このことで旦那様を責め続けてはいけない、ということでしょう。

 もしこのこと……旦那様のお気持ちを聞いて傷ついたわたくしの心のことを言うのであれば、今、を置いて他にはない。そういうことなのだと思います。

 後からこのことについて、旦那様にアレコレ言うのは、今度は旦那様を傷つけるし、そうしてわたくしも再び傷つくかもしれない。

 それより“今”伝えて、わたくしの気持ちを知っておいてもらうこと、伝えないのならずっと伝えないままでいること、なのでしょう。

 旦那様と父との政略的なこと。

 旦那様とわたくしとの契約のこと。

 だからこのまま結婚する。

 わたくしに、それが出来るのか。先ずはそこから考えなくてはならないのでしょう。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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