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2:この国の婚約事情は

 翌朝、お父様にこの婚約と結婚に纏わる政略の内容をお尋ねしました。

 政略なのは確かなのです。

 何故ならわたくしがそれを望んだから。

 我が国では近年政略で結ばれる婚約そしてその先の結婚ではなく、恋愛で結ばれる婚約そしてその先の結婚が主流になっています。

 その理由は時流、の一言に尽きます。

 その切っ掛けとなったのは……あまり大きくない我が国ですが国境を接する他国が三つ。二つは国土としては我が国の方が大きく、でも国力は同程度。三つめの国は国土も国力も彼方の方が上です。

 その格上の国の更に向こうの国では王国ではなく共和国が二つ樹立しました。

 これはその二つの国が前後して王族が“やらかした”ことによります。

 示し合わせたわけでも何でもなく、その二国の……どちらも元・王子が幼い頃からの婚約者である令嬢に婚約破棄を突き付け、何の瑕疵もない令嬢に瑕疵がある、と嘯いた事によります。

 謂わば冤罪を被せたのです。

 もちろん冤罪だと判明している以上、どちらの国でも婚約者だった令嬢に悪い所は有りませんでした。

 片方の国では、国王陛下が直々に調査人を認定し、罪と言われたことの調査をすれば冤罪だと判明したわけです。

 ですが、婚約破棄を突き付けたのは大規模なパーティーの出来事。大勢の貴族達の目の前でした。結果的に元・王子と婚約者との縁は切れ、王子は平民へと身分が移行し、市井で暮らすことになっていました。

 そう……なっていました、です。

 実際は王家からかなりのお金を持たされて家も仕事先も支援を受けて、の市井暮らし。

 こんな事が許されるわけがありません。

 しかも、その元・王子は己の“やらかし”が悪いとは全く思っていなかったのでしょう。

 王家から斡旋された仕事を粗雑に面倒そうにしながら行った事で被害を受ける方が増えたのです。その被害があっという間に膨れ上がり市井の方達が元・王子とは知らずにその人を辞めさせるよう、暴動を起こしました。

 そう、暴動です。

 この暴動を切っ掛けに元・王子の“やらかし”を処分したはずの王家に不満が噴出しました。

 それは、元・王子を平民へ身分を移行させ、自力で生活をさせる事により、婚約者だったご令嬢のご実家の怒りの矛先を納めてもらうはずだったのにも関わらず、王家が裏で手助けをしていたことが発覚したからです。当然と言えば当然の不満ですが。

 王家が裏で、元・王子を甘やかしていたことが発覚したことにより、貴族達までも暴動に手を貸す事態に……。

 まぁ貴族を馬鹿にしたような行為ですからね、手助けをするなど……。何しろ、婚約とは家同士の契約だという事を貴族は理解しています。

 その契約を破棄したのが、貴族の手本となるべき王子だったのですから、王家はどんな教育を施していたのだ、と怒りが凄まじかったので、王子を平民の身分に移行し、自力で生活させる、という事を罰にしたはずなのに、結果はこれでした。

 ですから貴族が市井の人達が発端の暴動に手を貸すのも仕方ないことでした。

 王族を守る近衛騎士達ですら心情的には暴動側の味方という事で、積極的に市井の方達や貴族を抑え込むことをせず。

 ここまで来てしまっては……と収拾を付けるために国王陛下の懐刀とも言える宰相が国王陛下に強く退位を勧め、王太子殿下に譲位も許されず、事実上王国は瓦解。

 王家は一応残っているものの、宰相・大臣・近衛騎士団長に平民達を守る騎士団長等錚々たる顔触れが平民達と話し合い、共和国として樹立したそうです。

 この一国の話がもう一つの“やらかした”元・王子が居た国にも飛び火して、暴動こそ起きなかったものの、自国の元・王子と同じことをやらかした王族が居たあの国は事実上の瓦解に追い込まれ、共和国を樹立している。

 我が国は民が暴動を起こす前に何らかの対策をするべきでは……とその国の宰相が国王陛下に詰め寄り(どうやらその時点で他の大臣達に根回しは済んでいたようで)先に共和国を樹立した“やらかし”王族が居た国のように、もう片方のその国も共和国を樹立したそうです。

 この二国が王国から共和国へ移行(無事とは言えませんが)した余波が我が国より国力が上の国境を接する三つめの国に影響しました。

 この国では王族も含め恋愛結婚若しくは、政略結婚で既に婚約者が居ても互いの相性を見るためにきちんとした婚約ではなく、仮の期間での婚約をしよう、ということに落ち着いたのです。それはそのまま周辺国……つまり我が国にもその影響が広まりまして。

 恋愛結婚を推奨されつつある風潮に。

 それがわたくしの祖父母世代のこと。ですからつい最近のことです。祖父母世代での恋愛結婚は、二割程度。わたくしの親世代は四割程度まで広がりました。

 同時に貴族と平民で結婚出来るのか。

 王族も恋愛結婚出来るのか。或いは貴族ではなく平民と結婚出来るのか。

 恋愛結婚とはいえ婚約しても気軽に解消出来るのか。

 それらの疑問は、時に法律の改定も交えながら論争を呼びまして。

 現在はーー

 平民は元々恋愛結婚ですが、貴族は公爵・侯爵・伯爵家の跡取り以外は平民と恋愛結婚可能。子爵と男爵家は跡取りでも平民と恋愛結婚可能、という法律に変わりました。

 尚、子が出来ない時は、養子を迎える事にし、愛人は不可、という法律も出来ました。今までは暗黙の了解、という形で愛人に関する法律は無かったのです。

 また、同時に跡取りは男女関係なく、という法律に。それまで女児しか生まれなかった家では親戚から養子を迎え入れるか、婿を取って孫に爵位を譲るか、どちらかでした。しかし、婿のお家乗っ取りがあって家が断絶したり、孫に爵位を譲る前にこの世を去ってしまう当主がいたり、と度々話題になっていたのです。

 故にこの機会にその辺の法律も整備されたようでした。

 また、公爵・侯爵・伯爵家の跡取りが平民と結婚出来ないのは単純な話で、平民に貴族の礼儀作法や、貴族特有の迂遠な言い回しを教える時間が足らないから、です。

 その点、子爵と男爵家はそこまで礼儀作法は厳しくないですし、迂遠な言い回しではなく率直でも許されるのです。尤も礼儀作法が厳しくないとはいえ、貴族と結婚し、貴族として生活をする以上は、多少の礼儀作法は覚えてもらわねばならない、という但しが付きますが。

 また、王族に関しても同様で、次期国王の座に着く方以外は、平民との恋愛結婚は可能です。ただ、王族の場合は、王族が平民に身分を移行し王位継承権の放棄が入ります。

 もちろん愛人は不可、ということになりました。

 これは王族の子が彼方此方に生まれて、王位争いを生まないため、だそうです。王位継承権を放棄しても、余計な争いが出ないとも限らないから……だそうです。

 また、公爵・侯爵・伯爵家の跡取りと同じく平民が王族に嫁ぐ若しくは婿入りすることは有りません。理由は同じことです。

 そして、恋愛結婚による婚約をしても、気軽に解消が出来るのか……という問題については、婚約は結婚することが前提の約束である以上、政略でも恋愛でも簡単に破棄または解消が出来るものではない、というのが国の考え方として知らしめられました。

 つまり婚約したのなら余程の理由が無い限りは結婚する、という政略と同じ従来の考え方です。

 ですが、恋愛結婚は愛情の有無に左右されるため、婚約をする前のお付き合い期間というものを設ける事を法律で定められました。

 恋に落ちても婚約してから互いに気持ちが冷めてしまったら……という事です。従来の考えに基づくなら、気持ちが冷めたからといって婚約してしまえば、破棄または解消出来ないのですから。

 それを防ぐためのお付き合い期間、というものです。

 この期間でも、最低でも三ヶ月はお別れせずに互いを知ることとして、三ヶ月以上一年の間に互いの気持ちが変わらなければ一年後に婚約。変わってしまったらその期間であればお付き合い期間終了という事に。

 この期間であれば、例えば二人揃って夜会に出たり、デートしたり、という事があったとして、それが貴族の中で噂になっても、万が一別れることが決まっても醜聞にはならない、という事まで国は法律で定めました。

 それだけ貴族の婚姻とは大切なものなのです。

 気軽に婚約して解消出来るような代物ではない、という国の考えを改めて知らしめています。

 お付き合い期間中のお別れならば醜聞にもならないし、どちらにも傷がついたことになりません。

 今までは婚約が解消されても噂され傷物扱いをされていたわけですから、物凄い進歩ではないでしょうか。婚約を破棄されれば、破棄された方に瑕疵があるという事になって、男性でも女性でも“家の恥”扱いされていたのですから。

 お付き合い期間中ならば、そういった事態にもならない、と国が法律で定めたのです。

 お陰で肩身が狭い思いをしないのです。……仮令(たとえ)内心は傷つき、周りがどう言ったとしても、自身は肩身が狭い思いをしている状況であったとしても。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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