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12:養子の候補者を選びます・2

「先ず八人の候補者の書類がこれに」


 旦那様から直接渡されてわたくしは書類に目を通します。名前・年齢・誕生日・体型(太っている・標準・痩せている)・髪の色と目の色・両親の名前とウィステリア公爵家との繋がり・本人の性格が八人分。

 わたくしは養子選定に携わるのは当然初めてのことですが、体型って必要でしょうか。性格や公爵家との繋がりは理解出来ますけれど。


「一通り拝見致しました」


 書類をテーブルの上にそっと置いて旦那様を見ます。……やっぱり目が逸らせないです。


「アニーはどう思うか聞かせて欲しい」


 随分と早い段階でわたくしの意見を求められました。ある程度候補を絞っているのかと思ってましたので驚きます。


「そう、ですね……。先ずは体型が記されていることの理由はなんでしょう」


「年齢の割に太っているのは怠惰な証拠だと思うからだな」


 旦那様の答えに、なるほど、と頷きました。

 わたくしも実はお付き合いしていた方と友人だと思っていた方とのあれこれが有るまでは、そのように考えていたので旦那様の発言は理解出来ます。


「旦那様、これから失礼なことを申し上げますね」


「というと?」


「旦那様のそのお考えは、実は正しくないのです」


 旦那様が眉間に皺を寄せています。やっぱり自分の考えを否定されるのは失礼だし気に入らないのでしょうが、旦那様は続けて、と促してくれました。どうやら聞いて下さるようです。

 わたくしも少し前までその考え方だったことを伝えながら。


「わたくしの身に置きました出来事からわたくしは心身に不調が出ました。その不調を改善するために当家のお医者さまの助言の元、薬草茶を作りましたが……その時にお医者さまから聞いた話の一つに、体型についてのものがありました」


 食べられなくなって痩せてしまったわたくしに、食べられるように心が元気にならないと、と励ますお医者さまがついでのように話してくれたことには。


「確かに身体を動かさないで食べ続けることで太ることもあるそうです。その場合は身体を動かして痩せるように、ということなのですが。元々あまり食べてもいないし、適度に身体を動かしていても太りやすい体質というものがあるそうです」


「体質?」


「はい。元々の身体の作りみたいなものだそうで。食べるとすぐに太ってしまう。本人が気をつけていてもそうなってしまうということもあるそうです。最近、医術が発展している他国からこの考えが入ってきたそうで。その体質改善の方法を、その国のお医者さまが考えているそうです」


「そうなのか」


 旦那様は身体を動かさないで食べるだけだから太っている。つまり怠け者だということだけではないことを知って驚いています。


「はい。わたくしも体質というものを全く知らず。だからちょっと食べただけで太る人も世の中にはいることを知って、考え方を改めました。太っているからといって、身体を動かさない怠け者ではないのだ、と」


 他にも心が弱ってしまい、食べることで弱った心をなんとかしようとしてたくさん食べ過ぎて太るということもあるということも話しました。


「つまり、身体を動かさない怠け者なのではなく、他にも要因がある、ということか」


 旦那様は驚いていますが、次第に深刻な表情を浮かべていきました。わたくしは頷いて肯定します。


「ありがとう、アニー。あなたが教えてくれなければ思い込みで成人もしていない子ども達を傷付けるようなことを言ったかもしれない。体型に関しては選考基準から外そう」


 体型で養子選定から外される可能性があったかもしれない子がいたわけです。でも旦那様はその考えが間違いだ、と考え直してくれました。

 公爵という立場ですし、わたくしより年上の方ですのに、わたくしの話を真剣に聞いて受け入れるだけでなく考えを変えて下さるなんて、旦那様は優しいだけでなく心の広いお方のようです。

 このような方が契約上とはいえ、わたくしの旦那様なんて、わたくしはとても恵まれているのではないでしょうか。

 わたくしの意見は失礼だ、と怒られても仕方ないですし、賢しら(さかしら)だ、と疎まれても仕方ないものでした。それこそ、男を立てられない女、と言われても反論も出来ないものでしたのに。


「旦那様は……わたくしの意見が男を立てられない女だ、とお叱りになるようなお方ではなくて、嬉しいです」


 わたくしはポツリと言葉を落としました。

 あの頃を思い出すと自然と視線が顔が下を向き背中も丸まってしまいます。


「アニー。あなたの噂は耳にしている。だが、あなたが来て二日目に私へ刺繍したハンカチを贈ってくれたことを覚えているかな」


 俯いていたわたくしの耳に旦那様の穏やかな声が届いて、顔を上げて旦那様を見ました。旦那様の穏やかな表情とマリンブルーがわたくしを見つめています。


「贈ったハンカチ……いえ、あれは手慰みに刺繍したもので旦那様のための物ではなく」


 直ぐに思い至ったわたくしの言葉を旦那様は途中で遮るように掌を見せてきました。そこで口を噤んだわたくし。


「そう。君にありがとうの礼状を書いたら、君は私のために心を込めて刺繍した物ではない、と言って、改めて刺繍したハンカチを贈ってくれた。男を立てられない女、と言われている君が、だ。本当に男を立てられない、いや相手を思いやれないのであれば、君は私のためにハンカチに刺繍などしないさ。手紙の字も綺麗。刺繍されたハンカチも綺麗。それは君が私を思って書いたり作ったりしてくれた証。男を立てられないというのは、延いては相手を思いやれないことを指すだろう。君が相手を思いやれないで、自分ばかりを尊重して出しゃばる人なら、改めて刺繍したハンカチを私に贈ってくれないさ」


 旦那様の優しい言葉にツッ……と頬を伝う暖かなもの。それがわたくしの涙だと理解出来て人差し指で拭い取ります。殿方を立てられない女性と悪評を立てられたわたくしに、このような言葉を掛けてもらえるなんて思ってもみませんでした。


「旦那様……ありがとうございます」


「いや。私もアニーに感謝をしているから」


 そう言って微笑む旦那様は、少しだけ幸せそうに笑って。トクンと胸が音を立てた。それが何か、考える間もなく旦那様が話を戻す。


「話を戻すけれど。体型は選考基準にしない。他にアニーが気にかかることは?」


 なんだろう、もう少しだけ旦那様の感謝をしている、という言葉に浸りたかった気持ちを押し隠すように、わたくしは意識を養子選定に向けてみます。


「そうですね……。香りに敏感な子は可哀想かもしれません」


「香り」


「薬草茶のためのカミツレを育てますし、他の種類も試してみたいのです。そのお茶を飲んでもらうこともあるかもしれないですし、飲まなくても香りはするでしょうから」


「ああ、確かに。私は君が伯爵家から持って来た薬草茶の香りは気にならないが、気にする人もいるな。それは子どもでも気になるかもしれない」


 旦那様はわたくしの懸念を理解したように頷き、少し考えてからわたくしに薬草茶を八人に少しずつあげてもよいか、と尋ねてきました。わたくしが了承すると、ハルトに八人の家へ薬草茶を届けて香りを確認するように告げます。


「それですと、日にちがかかって香りが飛んでしまうことがあるかもしれません」


 ハルトの懸念は、旦那様の提案を聞いていたわたくしの懸念と同じもの。また味も格段に下がります。ですので王都内でしか今のところ販売していないのが現状です。


「そうか。では、日程を調整して八人を公爵家に連れて来よう」


 旦那様はあっさりと提案を引き下げました。ハルトを信頼しているということもあるのでしょうが、強引さが必要な場合と引き下がった方が良い場合を、旦那様は見極めているようです。柔軟に物事を考えて対応が出来ることは、人の上に立つ方にとって必要なことなのかもしれません。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


短編(1万文字以上5万文字以内)のつもりでしたが短編では収まらなくてすみません。中編(5万文字以上10万文字以内)で終われる……と思います。

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