連続到来
「はぁはぁ、もう・・・無理・・・。」
「初日にしては兄様も私も頑張ったほうではないでしょうか?」
息切れをしながら座り込んでしまったタズの横でエルが汗をハンカチで拭きながら立っている。
「でも、エルはちゃんと5周走ったじゃないか、すごいよ。僕なんて2周半でへばちゃって・・・。」
「わたしもさすがにこれ以上は走れませんわ、それに比べてアンは・・・。」
エルの言葉に視線を移すとアンが剣の素振りをしている。その顔は真剣そのもので凛々しい顔つきが幼い中にも美しさを垣間見させる。
「あんなに打ち込めるなんてアンは、本当に体を動かすのが好きなんだね。」
タズが立ち上がって言うとエルは少し困った顔をして笑う。
「確かに好きは好きなんでしょうが・・・、アン!わたしと兄様は先に屋敷に戻っていますね。」
エルがアンに声をかけると、アンが素振りの手を止めてこちらを見る。
「わかりましたわ!私は今日のノルマをこなしてから終わるから!!」
それだけ言ってアンはまた素振りに戻る。
「それでは兄様、屋敷に戻りましょう。汗を拭いて着替えないと。」
「そうだね、一時間もたっていないのに汗だくだよ。」
まだ朝とはいえ普段全く運動しないタズにはだいぶこたえたようだ。二人で談笑をしながら屋敷に入りお互いの部屋への分かれ道に来たところでエルがタズに向き直る。
「それでは兄様、着替えが終わりましたらにお迎えに行きますわ。」
「え?」
「では後ほど。」
言うだけ言ってエルは自分の部屋のほうに歩きだしてしまった。訳が分からないままタズはとりあえず自分の部屋の戻ることにしたがそう遠くないうちにエルの言った意味がわかるのだった。
部屋で着替えを済ませ、ゆっくりとタズは本を読んでいた。綺麗になった部屋で読む本はなんだか新鮮でとても楽しかったのだ。リラックスしていると部屋のドアがノックされた。
「兄様、エルとアンです。お部屋に入ってもよろしいですか?」
「ああ、もちろん。」
そういえばエルが来ると言っていたのを思い出しタズが返事をするとドアがゆっくりと開かれる。
そこには家用のドレスを着た二人が立っていた。
「兄様、お迎えにあがりましたわ。」
「え?」
タズのそばにやってきてエルがにっこりと微笑む。
「これから私たちと一緒に紳士淑女になるためのレッスンを受けていただきます。」
「ええぇ?」
寝耳に水のタズがアンのほうを見るとものすごく嫌そうな顔をしながら首をふるふると振っている。
朝練のように拒否権はないようだ。
「さぁさぁ、参りましょう。」
タズの読んでた本をさっさと片付けてエルが扉に向かう。
タズは訳も分からずエルの後ろについていき扉で待っていたアンと合流する。
「アン・・・これって・・・。」
「エルのマナー講座はあたしだって嫌ですけど、仕方がないのですわ。これも兄様のため・・・でもやっぱり嫌ですわ・・・。」
ぶつぶつというアンにエルがにっこりと微笑む。そこには逃がさないぞという強い意志が見て取れた。仕方なくアンの後ろにエルが付いていく。
「僕、本が読みたいんだけど・・・」
「兄様?」
「・・・行きます。」
結局タズもエルの笑顔の圧力に負けってしまった。
微笑みを崩さないエルの後ろにアンとタズは項垂れながらついていった。