運動朝練
次の日の早朝、タズの部屋にアンの大きな声が響いた。
「兄様!おはようございます!!」
「うわぁ!」
タズが飛び起きると目の前にタズの布団をひっぺがしているアンとその後ろにため息をついているエルがいた。
「兄様!朝稽古のお迎えに参りました!さぁ、行きましょう!今すぐ行きましょう!」
ぐいぐいと迫るアンにやれやれといった風にエルが話し出す。
「アン、いきなりの事に兄様が驚いていらっしゃるでしょう?あなたはどうしてそう体が先に動いてしまうのかしらね?兄様、今日からアンの朝稽古に兄様と私も参加することになったようです。かくいうわたしも先ほど起こされてあれよあれよと連れてこられたのですが・・・」
タズが二人を見るとなるほど確かに二人は珍しいパンツスタイルで今から運動をするつもりであるのが見て取れる。
「えっと・・・僕はその、運動はいいかなって・・・」
「兄様、ではあたしは庭園で先にお待ちしています。」
やんわり断ろうとするタズに食い気味にアンが言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
「ああなったアンはもう止められませんわ。わたしも朝練をするはめになるのは不本意ですが、これもアンの兄様の運動不足を心配する心ゆえ・・・わかってあげてくださいな。わたしは部屋の前でお待ちしていますので、兄様お着替えをお願いします。」
にっこりとほほ笑むエルはタズの部屋から出て行った。
「えぇ・・・。」
押しの強い妹達にタズは逃げれないことを悟りもそもそと着替え始めるのであった。
着替えが済んだタズが部屋を出るとそこには宣言通りエルが待っていた。
「では、参りましょうか兄様。」
「うん・・・。」
「気が進まないのは一緒ですわ。わたしも運動はあまり得意ではないですもの。」
庭園に向かいながらも暗い顔をしていたタズに優しくエルが言う。
「アンも運動が苦手なんだ。」
同志を見つけてタズの顔が少しほころぶ。
「苦手というより、好きではないといったほうが正しいですわ。淑女が剣をふるったり、走り回りはしませんでしょう?」
「僕はアンみたいにうまくできないから・・・。」
「アンは特殊ですから・・・というか、兄様はアンみたいな脳筋にはならないで下さいね。」
大真面目な顔ではっきりというエルにおかしくなってタズはクスクスと笑った。
二人が話しながら庭園につくとすでにアンが走り込みをはじめていた。二人に気づいたアンが走って近づいきた。
「兄様、エル、二人とも今日は初日だから軽く庭園を5周くらい走るだけでいいですよ。いきなり無理してはいけませんからね。では」
言うだけ言ってアンはまた走り込みを始めた。あっという間にその姿は小さくなる。
「5周って・・・」
庭園とはいってもそこは侯爵家、そこそこの広さはある。一周走るだけでもタズには正直きついだろう。タズとエルが顔を見合わせてため息をつく。
「とりあえず走ろうか・・・。」
「あの脳筋後で覚えておきなさいよ。」
二人はしぶしぶゆっくりと庭園を走り始めたのだった。