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謝罪決行

思い立ったが二人は部屋を出て真っ直ぐに兄の部屋へと向かう。今までは決して近寄ろうともしなかった場所だ。つかつかと速足で歩く長い廊下の先そこには兄の部屋があった。長男だからという理由で割と大きな部屋だった気がする、アンとエルは双子という理由だけで二人で一つの部屋だったのでとても羨ましかった記憶がある。兄の部屋の扉を前に二人は緊張した面持ちで手をつなぎ、アンがノックをした。

「兄様、アンとエルです。お話したいことがあって参りました。」

アンのよく通る声が響くが返事はない。

「兄様、少しだけお部屋に入れてくださらない?」

エルは伺うように声をかけるがやはり返事はない。

「どうしましょう?もうあたし達

とはお話もしたくない、いいえ、会っても下さらないのかしら?」

「わたくし達の今までしてきた事を考えたらそれがあたりまえかもしれませんわね。」

謝る以前の段階で躓いた二人は返事のない扉を見ながら絶望を感じていた。自分たちがお兄様を馬鹿にして避けていた事実は覆らないのだと思うと涙が溢れてきた。後悔なんて自分勝手なものだったのかもしれない、謝罪なんて相手はいらないしそもそも自分たちとは会いたくないのだと、前世の記憶を取り戻して反省して兄様と仲良くなりたいなんて自己都合もいいとこではないか、兄様にはなんの関係もないのだ・・・現実はそんなにゆるくできていない。

「にぃさまぁ・・・。」

アンが泣きながら呼びかける。

「にぃさまぁ・・・。」

エルは流れる涙も拭かずに声を絞り出す。

拒絶されることがこんなにつらかっただなんて、存在を否定されることがこんなに苦しかっただなんて、本当の意味では今の今まで気づかなかった自分たちを恥じるとともに罪悪感に押しつぶされそうになる。

「「にいさまぁ、ごめんなさいー、」」

つらくても泣きながらでも伝えなくてはいけなかった言葉。

「「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぁい!!」」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔もそのままにアンとエルは謝り続けた。つないだ手にはお互いを奮い立たせるように力が入る。

「「アンとエルのこと嫌いにならないで兄様、ごめんなざぁーい。」」

二人はそう言って大きな声で泣き出した。いつもの令嬢の姿ではなく、ただの八歳の幼い女の子が嗚咽交じりに大声で泣いていた。

そうすると静かに扉のドアノブが回ってゆっくりと開き、泣きじゃくる双子の前にもっさりとした伸びっぱなしの瞳すら見えない黒髪で埃だらけでよれよれの服を着た少年が顔をだした。驚きながらも泣くことを止められない二人に俯いて近づい来て止まった。

そして双子がつないだ手にそっと両手を乗せた。

「嫌いになんかならないよ、絶対。」

少年も泣いていたのだろうか、ずずっと鼻をすすりぼそぼそとした小さな声をだした。その声は双子にしか聞こえないようなものだったけれども確かに、そしてとても力強い声だった。

「「にぃさまぁっ!!」」

双子は泣きながら囲むように兄に抱き着きそのあとは三人で泣いた。いっぱいいっぱい泣いた。

泣き止んだころには三人とも服も顔もぐちゃぐちゃでそれを見て本当に久しぶりに三人で心から笑ったのだった。


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