現状確認
アンとエルは思い悩んでいた。
前世の記憶が甦ったのはよかったものの、目下の悩みは今世の兄のことだった。
二人の兄であるタズ・コンサールは二人より二つ上の10歳なんというかパッとしないのである。いつも部屋にこもりきりでめったに顔もあわさない。最後の見た時には小さな声でぼそぼそと喋り、黒髪が無造作に伸びて瞳すら隠してしまっていた気がする。
「兄様は何故お部屋から出て来ないのでしょう?もっと小さかった頃はよく外で三人で遊んでいたと思うのですが?」
「それは、アンがかけっこでも乗馬でも剣術でもあっという間に兄様をぬいてしまって、運動できない貴族男子なんて恥ずかしいと言ってしまったからでしょう?」
「それを言うならエルだって兄様よりダンスやマナーの覚えが早くてティーパーティーでも他の貴族たちに褒められてて、兄様に社交ができない侯爵長男だって言ってたでしょう?」
二人は顔を少し青くさせる。
「で、でも実際兄様が引きこもってしまったから侯爵家の未来を案じてわたし達はあの悪役令嬢のとりまきをやってたわけですし。」
「そうそう、だからそんなモサ兄様には期待しませんわ~って・・・なぁエル」
「えぇアンこれは兄様がちょっとアレなのは・・・」
「「完璧に私達のせいですわ~!!」」
本日二度目の叫びの後にやっぱり頭を抱え込む二人だった。
「と、とりあえず何が何でも謝罪しましょう。」
「出て来ないのに?わたし達に会ってくれるといいのですけどね。」
ため息交じりにエルが言いながらふとアンを見るとなんだかもの言いたげな顔をこちらに向けていた。抱え込んでいたはずの頭は今は真っ直ぐとこちらを見ている。
「あのねエル、あたし今すっごく嬉しいのです。正直状況はよくないのですが・・・」
「あら?もしかしてアンも?そうですわね前世ではずっと憧れていましたおのね。」
「「私達に兄様がいる!!」」
三度目の叫びはうれしさを抑えきれない二人の魂の叫びだった。
この双子は前世では二人きりの姉妹だったのだが別にそれなりに幸せに過ごしていた。でも無茶だと分かっていても憧れていたのだ「兄」という存在に。
「早く兄様に謝ってアンと仲良くしてもらいたいですわ!!」
「兄様をたっぷり堪能してエルと遊んでいただきたいですわ!!」
二人は前世の想いを拗らせすぎて一瞬でブラコンの双子令嬢へと進化していた。この部屋にはアンとエル以外誰もいない、つまり誰もこの姉妹を止められるはずがなかったのだ。
「「兄様と仲直りして仲良くなって、兄様を堪能しますわよ~!!」」
えいえいおーと力強く拳を突き上げる二人は、満面の笑顔だった。