思い出した日
ゴツンッ
二人しかいない部屋でその淑女らしからぬ音とともに二人の幼い令嬢は額を押さえていた。
一人は姉のアン・コンサール
もう一人は妹のエル・コンサール
姉妹といっても二人は双子なので数十秒の差の姉妹なのだけれども。
その双子がどうやらなにかの拍子に正面衝突をしてしまいお互いの額を思い切りぶつけてしまったようなのだが、二人は痛みを感じるどころか驚きにつつまれていた。
「これは・・・どういったことかしら?あたし今とっても混乱していますわエル。」
そう言いながら額をさするのはふわふわの薄い墨色の髪に大きな黄色の目をした姉のアン。
「アン・・・もし、わたしと同じ事が貴女にも起きているとするならば、確かに混乱するわね。」
薄墨色の真っ直ぐな長髪と少しきつめの黄色い目をした妹のエルは、口に手を当てて少し考え込むそぶりをみせる。
「ああ、じゃあきっとこの記憶は夢ではないのね。」
「ええ、恐らくわたしたち前世の記憶が戻ったみたいね。」
二人で顔を見合わせてお互いを確認する
「しっかし今回も貴女と双子なんて笑っちゃいますわ。」
「あら、わたしと今度も双子で安心してらっしゃるのではないですか?」
混乱もほどほどに早速悪態をつき始める二人は確かに前世の記憶を思い出していた。二人は日本で双子の姉妹として生きていたのだ。
「・・・エル・・・これは困りましたわ。」
アンがしかめっ面で自分の小さな手越しにエルを見ながら言う。無理もない前世ではしっかりと天寿を全うした二人だが今はたったの8歳の少女だ。
「どの事を困っているのかしら?年齢の事?わたしたちが侯爵令嬢であること?それとも悪役令嬢のとりまきをしてしまっていることかしら?」
自嘲気味に目を伏せて笑うエルはもう8歳の少女の目をしていない気すらする。実際記憶が戻る前ならば双子がとりまきをしていた公爵令嬢のことを悪役令嬢などと言うことはなかったであろう。
「あー、確かにあのわがまま令嬢のとりまきをしていることはまずいと今なら分かりますけど…。」
「それではとりまきを辞めて、つかず離れずの距離感でこれからは彼女と接していきましょう。大丈夫ですわ、わたしたちはまだ幼い子供です。如何様にもやりようがあるでしょう。」
にこりと微笑むエルはすでに幼さの微塵も感じさせないのだが、あんな姿を見てアンは頭をがしがしと令嬢らしからぬ態度でかきながら話を遮る。
「たしかにっ、それもあるけど違うでしょう?本当の困ったことは。」
「やっぱり・・・困ったこと・・・ですわよねぇアレは。」
二人は目くばせをしてため息をつきながら頭を抱え込む。
「「今世には〔モサ〕い兄様がいるなんてどうすりゃいいのよー!」」
二人の叫びが部屋にこだまする。この緊急事態にお嬢様言葉なんてクソくらえだ。
そう前世では確かに二人っきりの姉妹だった、でも今世アンとエルには『兄』がいるのだった。それもとびきり困った兄が。