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最後の聖女  作者: 樋口 真生
第一章 その聖女、力技で巡礼を終える者なり
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王都タルカ

ここからアンリ視点になります。

人生初の馬車の旅は思っていたよりも快適だった。

一応私は丁重に扱われているようだ。


1つ目の宿に近づいた時、同じ馬車に乗っている真面目そうな神官に道中宿泊する町を歩いてまわりたいと尋ねると、王都に着くまで我慢して欲しいと言われた。なんでも急ぎ作った迎えのチームらしく、警備が不安だというのだ。一般人より強いと思っているが、大人しく従うことにした。


旅の途中で神官に聖女のことや今後のスケジュールなどを聞いてみると、聖女については大体ダンが言っていることと同じだったので神官が嘘を言っているというのは無さそうだ。


王都に着いたらまず大聖堂に用意した私の部屋に通されて、聖女の礼服に着替える。それからすぐ王様に挨拶をしに行くらしい。

神官は長旅で疲れてるだろうから次の日ではだめだろうかと打診したが却下されたようだ。何かを急いでいるのか、それともただ単にすぐ会いたいのかわからないが、理由は聞かされていないようだった。


今日の昼間に王都に着き、直ぐに王様に謁見。

今までド田舎のシスターだった私には荷が重すぎて胃がキリキリする。神官に旅の中の短い時間で最低限のマナーを教わり、後は胸を張って堂々としていれば大丈夫と言われたが。本当に大丈夫なのだろうか?


そんなことを考えていると王都が見えてきた、やはり国の中心なだけあって賑わっていて煌びやかな感じがする。いつか許可が貰えれば見てまわりるつもりだ。



やっと到着した大聖堂は物凄く大きかった。お城は更に大きいと聞いて驚きである。大聖堂の中は入ってすぐの広間は大きなステンドグラスの窓からこぼれる光に照らされてとても綺麗だった。町の教会よりも大きな女神像が奥にあり、祭壇もある。

どこか神聖な空気の漂う場所だ。


「アンリ様の部屋はこちらになります。」


様を付けられ何だかむず痒い気持ちになる。単に慣れないのだ。名前の後に様と付けなくてもいいんですよとここに来るまでに何度か言ってみたが、これから嫌でも呼ばれるので我慢して下さいと返された。そして神官を様付けで呼んだら様は付けるなと説教された。解せぬと思いながらも頷いたのだった。

なんでも位的には聖女である私の方が上で、結構偉いポジションだからわかって欲しいとのこと。彼は真面目なのだ。


「ありがとうございます。」


そんなことを考えながら神官に礼を言い、自分の部屋のドアを開けてみると…。


「………これが私の部屋ですか?」


「はい、そうです。」


めちゃめちゃ広かった。


「無駄に広い様に思えます。」


「いえ、こんなもんですよ。」


そうですか…。自分にこんな広い部屋があてがわれたことに少し戸惑う。


「後はお付の者になんなりと申し付けください。ここでは彼女等が貴女のお世話をいたします。」


「あの、自分のことは自分で出来ますよ。」


「いえ、そういうものなのです。早速ですが礼服の方へお着替えください。後ほどお迎えに上がります。」


そう言って神官は去っていった。


その後はお付の女性達にあれよあれよと礼服に着替えさせられる。白地に銀の刺繍が入っており上品な感じだ。まずふわっとしたズボンを着る。その上からシスターの服っぽい形だが少しダボッとしていてスカートの部分が膝丈、両足の外もも側に大きくスリッドが入っているような上着を着て、頭にウィンプルを被る。このウィンプルはベールの部分にも刺繍がしてある。(※ウィンプル=シスターとかがよく被ってる頭巾みたいな帽子)


ちょうど着替え終わったところを見計らって神官が来た。しかも彼は、神官長だったらしい。てっきりおじいちゃんを想像していたため、お付きの人に言われて知った時は驚いた。なんだか迎えに来てもらって今更だけどそんなほいほい出歩いていい人なんだろうか。


そしてまたしても馬車に乗りお城へ向かった。大聖堂からそんなに離れていないと聞いたが馬車を使うようだ…。リッチだね。というかお城は大きいのですぐにその形が見えてきた。



「あぁ、聖女サマね。どうぞお通りください。」


そしてどこか失礼な感じがする門番に馬車を通してもらい、眼前に迫ったお城は圧巻だった。外壁ですでに凝った造りをしている。中は更に豪華ときたもんだ。案内されながらまっすぐ前を見て歩くふりをして、さりげなく城の中を見回す。


「ここが謁見の間にございます。」


案内してくれた文官っぽい人の声で前を見ると大きな扉の前に居た。文官っぽい人、神官長、私、騎士2人の順で謁見の間に入っていく。中央の豪華な椅子に座っているのが王様と王妃様だろう。他にも数名高貴な身分そうな人達がいた。


王様の前に来て並び、膝を着いて頭を下げる。ここまで教えてもらった通りにできた。ここから王様が許さない限り表を上げる権利も口を開く権利も平民の私には無いらしい。


「聖女よ、よく来た。名はなんと申す?」


どうやら口は開いていい様だ。


「国王両陛下、お招きいただき心より感謝いたします。私の名はアンリと申します。」


あらかじめ練習していた挨拶と名前を言う。

すると、本当に平民なのね…。大丈夫なのか…。など周りからヒソヒソ聞こえてくる。

お偉いさんからしたら何者かも分からない者が聖女になったことが不安なのだろう。私自身だってまだ不安だというのに。


「静粛に。ではアンリ、表を上げなさい。」


そう言われてやっと顔を上げ、王様の姿が目に入る。

ダンディーなおじ様だった。


「では、聖女ということを何か証明してみせてくれ。」


ん?力を披露するというのは聞いていない。チラッと神官長の顔を確認すると彼も驚いているようだったが、アンリに向かって頷いてみせた。

何かしらやるしかないみたいだ。


「では、祈りで浄化の風を。」


やることはいつもと変わらないから大丈夫だろう。目を瞑り、祈りを捧げながら王都全体に風が広がるようにイメージした。


(どうかこれからお世話になるこの王都の人々が、平和でありますように。)


心の中で願いを唱える。


…フフッ、アナタって本当にお人好しね。


その時、私を聖女と言った女神様の声が聞こえた気がした。

驚き目を開くと周りは聞こえていないのか、それよりも私を中心にきらきらとした光が舞い、優しい風と共に広がっていくのに驚いている様子だ。


「なんだこの光は。」


「綺麗。見て、あそこの花瓶の花が元気になったわ。」


誰かが呟く。確かに豊穣の女神様だし、そういう事も起こるかもね。

光が静まると王様が私に尋ねてきた。


「今のは…花を綺麗にしただけかね?」


「いえ、浄化の風が成功していれば王都に魔物があまり近寄らなくなる筈です。魔物限定の効果だと聞きました。」


「そうか…、ではとりあえずそなたを聖女と認め、巡礼して回る許可を出そう。」


とりあえず(・・・・・)であるが聖女と認めてくれたようだ。

なんかあっさりしてるのね。というか面倒くさそう?


「ちょっと待ってください父上!」


謹んでお受け致します。と返そうとしていたら、いかにも王子様って感じの人に遮られた。


「何だミカエル。そなたに意見は聞いておらんぞ。」


「今ので何故聖女と言えるのです?!」


「アンリ殿の手の甲に聖女の印があり、力を使っていた間光っておったではないか。それに何人もの人間が女神の信託を聞いておる。」


そういえばあったなそんな印。

王族はある程度聖女に関する知識も学ぶようだ。そして王都には聖女に関する書物も多く残っている。いきなりキレ散らかす王子よりもそっちの方に興味が沸いた。聖女の事についてもっと知りたい。


「そんなのいくらでもでっちあげられます!私はナタリアが聖女だとっ…」

「もうおやめになって殿下!」


今度は王子の言葉を遮って美少女が現れた。

綺麗な銀髪にアメジストの瞳。まるでお姫様の様だ。


「私は違うと何度も言ったではありませんか。どうか視野をもっと広くお持ちください。」


「くっ…、私は、認められない。疑ってかかる人間も必要なはずだ!」


そう言って王子様らしき人は謁見の間を後にする。

聖女が本物かどうか疑う人はいて当然だし別にそれはいい、しかし彼は何と言うか私欲が混じっているように見える。

まぁ自分で言うのも何だがあっさり聖女だとみんなが認める方がちょっと怖いしどうでもいっか。

どうやら彼は私ではなくあのお姫様らしき人が聖女だと信じているってことね。もしかしたら彼女も聖女なのかもしれないし、別に聖女が何人いてもいいじゃないかって思う。


「どうかミカエル殿下の非礼をお許しください聖女様。わたくしはナタリア・ド・ロレーヌ。ロレーヌ公爵家の長女でございますわ。」


そんな事を考えていると、さっきのお姫様が近づいてきた。公爵家の方だったのか。本当にお姫様の様なもんだ。

習っていた高貴な身分の人に対する礼をし、自分も名乗った。


「ナタリア・ド・ロレーヌ様、お会い出来て光栄です。私はアンリと申します。今のを非礼だとは思っておりません。どうか謝らないでください。」


本当にそこまで気にしていない。

ナタリア様が謝る必要は全くないのだが律儀な人なのだろう。


「コホンッ…気を取り直して、巡礼して回る許可を出す。よろしく頼むぞアンリ殿。」


脱線した話を戻すように、さっきまで空気だった王様が仕切り直す。


「謹んでお受け致します。」


もう一度深々と頭を下げ、やっと王様への謁見が終わったのだった。


このまますんなりと巡礼に行くのかなーっと思っていたら。


更に一悶着起きることをこの時の私はまだ知らない。





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