【短編】魔性の恋物語
どうやったらこの想いを伝えられるのかしら?
告白──そんな勇気なんて私にあるわけないよ。
だから相手から告白されるのを待つのが一番なの。
それなのに……私に言いよってくるのはどうでもいい男ばかり。アナタたちなんて眼中にないんだからねっ。だって私が告白して欲しいのは──。
「麗しの舞星様、どうかこの花束をお受け取りください。そして、僕とお付き合いを……」
「悪いけど、アナタは顔がタイプでないのよ。二度と私の前に姿を現さないでくれるかしら?」
「あぁ、なんたるツンデレ。僕のハートは舞星様の虜となってしまう」
もう、朝からホントなんなのよ。
いいの、理由はわかってるもん。
生まれ持ったこの魔性の力がいけないのよ。この力のせいでどうでもいい男ばかりから告白されるんだからっ。
高校生になったら消えると思ってたこの力は、弱まるどころか逆に強さを増していった。別名──変人ホイホイ(自称)という忌まわしい力が憎くて仕方がないのよ。
「きゃーっ。舞星様ー、どうか私の愛を受け取ってくださーいっ」
「だから私は男の人が好きなんですっ。何度言えばわかるんですかっ!」
性別年齢問わず言い寄られる毎日にはうんざり。
本当に言い寄って欲しい人からは一度もないのに。
しかもね、下は五歳から上は八十歳と幅広く告白されるのよ。だいたい、ピチピチのJKに言い寄るおじいちゃんとかどうなのよ?
これは犯罪、お巡りさんに通報案件なんだからねっ。
だけど──この前通報したらさ、お巡りさんにまで口説かれるとか。ホント、この国のモラルはどうなってるのよっ!
「舞星さん──」
「いい加減しつこいと、私、本気で怒るからねっ」
「ご、ごめんなさい。その、ハンカチが落ちてたので声をかけたんですけど……」
「それならそうと──」
いやぁぁぁぁぁ、どうしてはる君がここにいるのよぉ。
私、なんて言ったかな? 嫌われるようなこと言ってな──くないじゃいのぉぉぉぉぉ。
もう最悪のタイミングだよぉ、よりにもよってはる君に強く当たっちゃうなんて。これは夢よ、そう、絶対夢に違いないもん。だから頬っぺたをつねれば──って、痛いよ、わかってたけど、これは現実だよぉ。
「舞星さん、大丈夫ですか? さっきから動きが変ですけど」
「ふえっ!? へ、変なわけないよ、私はいたって普通だからねっ。そ、それじゃ私は急ぐから──」
「あっ……」
うぅ……今日は学校サボりたい気分だよぉ。
なんで恐怖心に限ってはる君から話しかけてくるのよっ。
いつもは見向きもしてくれないのに……。
でも──ほんの少しだけ話せたのは嬉しかったかな。
「舞星君、僕は奥さんと別れることにしたよ。だから、結婚を前提に──」
「付き合えるわけないでしょ! この定年退職間際の校長先生のくせにっ」
「いいかい舞星君、愛に年齢なんて──」
「関係あるに決まってるからっ! 誰が還暦に近いおじいちゃんと結婚を前提に付き合うって言うのよっ」
「それなら僕が初めての──」
「もう、遅刻するから邪魔よ、大人しく校長室にでも引きこもってなさいよっ」
何が悲しくて、あんな魅力の欠片もない人と結婚するのよっ。昔はどうだったか知らないけど、今はただのおじいちゃん先生じゃないの。
だいたい、教育者が教え子に手を出すとか、ホントありえなさすぎだから。
「俺の瞳には舞星さんしか映らなくなった! 責任……取ってくれるんだよねっ?」
「言ってる意味がわからないわよっ! なんで友だちの親から告白されなくちゃいけないの」
「それはそこに舞星さんがいるから──」
「もうそれはいいから、とりあえず病院で検査してもらってね? そしたら、二度と私に近寄らないでください」
「わかった、近寄らないかわりに、影からずっと見守っているからね」
「そんなストーカー的なことしなくていいですっ! いい加減にしないと警察呼びますからね?」
どうして学校に友だちの親が来てるのよ。
会社は休みなのっ? それとも、このために休んだとでも言うのかしら?
どっちでもいいけど、このままじゃ本当に遅刻しちゃうから。
「お迎えにあがりましたお姫様。どうか僕の国で結婚式を挙げましょう」
「それ以前にアナタは誰なんですかーっ!」
「僕はマショ国の王子、SNSでキミを見かけて追いかけてきたのさ」
「私はSNSなんて──って、まさか、あのときの写真かしら」
「お友だちがアップした写真で、僕の心はキミに夢中になったのさ」
「私は夢中にならないから、そのまま国にお帰りください」
つい勢いで載せてもいいよって言ったのが失敗よ。
魔性の力がこんなに強いとは思わなかったもの。
あれ? 待って、写真でもダメとか、私は履歴書すら書けなくなるじゃないのぉ。
これは就職するまでになんとかしないと……。
はっ、そうよ、はる君に養ってもらえばいいのよ。
だって私の心ははる君のものなんだからねっ。
告白すらしてないけど……。
「はぁ、はぁ、やっと教室についたよ。とりあえず顔を隠しながら──」
「やっと追いついたよ。いきなり走り出すんだもん、追いかけるのが大変だったんだよ?」
「走るに決まってるでしょっ! あのままじゃ遅刻──って、えっ、どうしてはる君がここに」
「僕のこと下の名前で呼んでくれるんだね」
うぅ、いきなりだからつい下の名前で呼んじゃったよぉ。
あまり話したことないのに、馴れ馴れしい人とか思われたりしたよね?
なんで『須賀君』って呼ばなかったのよぉ、私のばかぁぁぁぁぁ。
恥ずかしすぎて顔が真っ赤になったじゃない。
どうしよ……はる君の顔をまともに見られないよ。
ううん、ダメよ、弱気になったらダメなんだからねっ。きっとこれは神様がくれたチャンス。
だから、さっきの勢いで告白するしかないよ。うん、今日の私なら絶対にいける気がするもん。
「え、えっと、それは……。そ、そんなことより、私を追いかけてきたのはどうしてなのよっ。まさか、ストーカーだったりしないでしょうね?」
ちっがーーーーう。
言いたいことはそれじゃなーーーーい。
なんで? どうして思ってもないことが口から出てくるのよ。確かにどうでもいい人たちには普通に使ってたけどさ。
だからといって、はる君に言う言葉じゃないからぁぁぁぁぁ。
「舞星さんって機嫌が悪いのかな?」
「ち、違う、そんなことないよ。それよりも要件って何かな?」
「ほら、ハンカチ拾ったって言ったじゃない。それなのに、渡す前にいきなり走り出すんだもの。追いかけるの本当に大変だったんだからね」
「うぅ、あ、ありがと……」
「そういえば舞星さんって──」
何よ、はる君はいったい何を言うつもりなの。
待って、まさか本当に嫌われたりしてないよね?
二度と顔見せるなとか言われたら……私の心は闇堕ちしちゃうんだからっ。
落ち着きなさい、深呼吸で心を落ち着かせるのよ。
そうすればこのむねのたかなりも収まるはず──わけないじゃない。そんなすぐに収まるなら警察なんていらないわよっ。
と、とりあえず須賀君の話を聞かないとね。
まずはそれからよ……。
「私がどうしたっていうのよ。別に誰になんて思われてようと、私は気にしないんだからねっ」
「ふふふ、やっぱり舞星さんって、笑顔がステキだよね。最初に見かけたときからずっと思ってたんだ」
そんな不意打ちはずるいよ。
頭の中が真っ白になっちゃうじゃない。
もう、今の私はいったいどんな顔をしてるんだろ……。
「そんなこと言われたの初めてだから……」
「そっか、なんか得した気分だよ」
「きらら……私のことはきららって呼んでね。でないと、二度と口なんて聞かないんだからっ」
「わかったよ、きらら。あっ、そろそろ予鈴が鳴る頃だね。それじゃまたね」
「う、うん……」
『またね』か……。
そうよね、この学校にいるんだし、告白してくれるチャンスはあるんだからね。それに──今は『きらら』って呼んでくれたことだけで、私は大満足だよ。
告白する勇気なんてない、告白される気配もない。
だけど、私がはる君に抱く想いは決して変わらない。
いつの日か、自分の気持ちを知ってもらえれば……。