クマと学ぶ異世界食べ物事情〜ふわふわしてるものは大体罠〜
僕の事はクマさんって呼んで。
何故『クマさん』かって?見た目が熊なんだ。比喩じゃなくて本当に熊。
ある日僕の上に落ちてきた異世界人…色々あって今は僕のお姉ちゃんに「見た目二足歩行のグリズリー。迫力満点」って言われた事があるよ。
お姉ちゃん曰くここは剣と魔法のファンタジーの不思議な世界らしい。
僕はこの世界しか知らないからたまに話してくれる『地球』と言う名前の世界の方が不思議でいっぱいだ。魔法が使えないとか、魔物がいなくて城壁が無い街って未だに想像出来ないよ。
そして、一番不思議で僕にとってとても魅力的…いや、最早暴力的なのは………
「クマさん、今日のおやつは『ふわふわカステラ』だよ。カステラについてる下の紙は食べれないから気をつけてね」
「ありがとうお姉ちゃん」
お花が咲いてたり、器が食べれたり僕には何処まで食べていいかわからない謎の代物を出されて以来、あらかじめ食べていい部分を前もって説明して欲しいと言ったので、今日も教えてくれた…異世界の食べ物は不思議だね。
今日も言われなければ紙もお口に入れてしまっていた自信あるよ。
さて、目の前の不思議なおやつを早速観察する……お姉ちゃんが両手で抱える様にして運んで来た時にも思ったけど、ブルンブルンしててとても気になっていた巨大な『ふわふわカステラ』。
ほんのり湯気が出てる見た目黄色い…蒸しパン?厚みのあるパンケーキ?いや、四角いなぁ…何だろう?そーっと指で突いてみる。
ツン…
ぷるん
ツンツン
ぶるんぶるん
うん、食べ物か怪しい質感。
でもお姉ちゃんが食えると言うなら食べれるんだろうな。
そして、今日はいつもに比べればまだ難易度が低い。
前なんて、絵本に出てくる様な黄色いヒヨコの小さいパン(数匹)や、野菜でお庭の絵みたいにされたフォカッチャなる物を出され時は視覚の暴力だった。
あのピヨピヨした物体を「中身はカスタードだよ。食べてみて」と笑顔で差し出された時は食べるのに躊躇したよね。
つぶらな瞳を見ていると罪悪感半端なくて、ひとくちでパックンした時の僕の感想は「ヒヨコの内臓ウマイ」。
言い方が猟奇的だとお姉ちゃんにツッコミされた…ヒドイ。
ちなみに芸術的なお庭フォカッチャはどう頑張っても一口では食べれなかったので、泣きながら齧り付いた。美味しかった。異世界の食べ物拷問の時ある(精神的な意味で)。
それに比べればまだ今日はマシだ。
しかし、どうやって食べよう?ナイフもフォークも出されなかったので千切るか、齧るか、舐めるかの3択…熱そうなので端っこをフーフーしてから恐る恐る舐めた後に齧り付く。
舐める必要あるかって?
たまに溶けるブツ出してくるからお姉ちゃん。
ソフトクリームとか綿あめとか。口に入れた肉が溶けて無くなった時はちょっと理解が追いつかなかった。大体理解出来ない事の方が多いんだけどね…ははは。
ふわふわカステラは気がついたら貪り食って最終的に紙と皿しか残ってなかった。
何があったの?あんなにあった僕のふわふわはどこ?え?もう無いの………涙出ちゃう。
名残惜しくて目からポタポタ涙を流しながら空の皿を眺めていたら、お姉ちゃんが宝石と透明な液体が入ったガラスのコップを差し出して来た。ついでにスプーンも。
「気に入ったみたいでよかった。明日も作るから今日はそのソーダを飲んで我慢してね?」
「………うん」
この、下に沈んだ丸いガラス玉?宝石?はゼリーになってて食べられるらしい………嘘だろ。
ゼリーを宝石みたいにして食べるなんて斬新過ぎだよ異世界怖い。
お姉ちゃんに餌付けされるまでこの世で一番美味しい物は蜂蜜だ!と思っていた位甘い物なんて食べて来なかったので、普段から甘い物を食べてる職場の同期に聞いてみたんだ…甘い物って何があるのって?
話を聞いて、お姉ちゃんが作る物が普通で無い事が判明しただけだった。
もぐもぐ…宝石つるんとしてて美味しい。ソーダは甘くてシュワシュワしててちょっと刺激的。
あー…でもあのふわふわカステラ食べたい……明日はもっと味わって食べよう。
ー次の日ー
「今日は特別だよ。召し上がれクマさん」
「………………うん」
昨日のふわふわカステラが熊の顔になって出て来た。
ヒヨコ(パン)やらウサギ(餅)やらウシ(飲み物)じゃ飽き足らず、共食いをススメてくるお姉ちゃんが鬼畜。
複雑なクマゴコロに蓋をして、美味しいの知ってるから食べるよ。
今日は耳から千切って大事に食べた…うまうま。この世で一番美味しい食べ物はコレだね!
昨日までは『たい焼き』って食べ物だったよ。あの魚の中身(粒あん)も美味しかったな…また食べたい。
と、思っていたら直ぐに食べる機会に恵まれた。5分後に。
「ジャジャーン!クマさん専用特大パフェだよ。アイスが溶けない内に召し上がれ」
「うーわー」
何でも、さっきのふわふわカステラの切れ端が余ったので勢いで作ったらしい。
特別ってこのクマさん専用特大パフェの事だったみたい。
あれだ、たい焼きが生クリームにぶっ刺さってるね…顔から。僕も生クリームは大好きだから顔から行きたい気持ちわかるよ、うん。
さっきから店の前と言わず道行く人の視線が痛い。
ここはお姉ちゃんの食べ物屋さんの前に設けてある僕専用の席だ。
一応名目上は異世界人であるお姉ちゃんの護衛だが「クマさんおやつ食べる?」のひとことから始まって、最近では宣伝を兼ねて本日の販売商品をお客さん達の目の前で食べている。
昨日のふわふわカステラはいつにも増して売れたらしい。
「ん?ん???もぐもぐ…んー?」
白っぽいアイスを口に入れたけれどなんか不思議な味だ…甘塩っぱい。食べた事あるんだけどなー?ダメだクマには分からないよ。ピンク色のアイスは甘酸っぱい苺味だった。
ちなみに僕に嫌いな食べ物は無いので、食べる物はお姉ちゃんセレクトだ。
たまに説明受けても分かんない食材とかあるけど、今のところ味が不味いとか思った物は無い…見た目がヤバいよと思った事は何回もあるけどね。
ヒヨコパンとかレースとか模様のついたクッキーとか…
あのクッキーも食べる時勇気必要だった。芸術とかよく分からないけど、アレは食べ物の領域を越えてた。
一番ヒドイのはスライムそっくりの『水まんじゅう』って食べ物だったかな。水まんじゅうは流石に販売はして無いけど個人的に作ってもらった時は正気かいお姉ちゃん?と尋ねてしまった。
作った本人もスライムなのか水まんじゅうなのか見分けつかない食べ物は売れないよね(遠い目)。
うん、たい焼き生クリームつけて食べるとまた美味しい。
一口食べて追加で尻尾にもつけてムシャムシャしてやった。後悔している…もう1匹欲しい。下からカスタードクリーム出て来ちゃったこれにもつけて食べたかった…
あ、果物もある。ふわふわカステラ美味しい。
何だろうこの、カリカリ?無限に食べれそう。
あれ???
色んな果物やらソースやらクリームやら訳わかんない美味しくて摩訶不思議なクマさん専用特大パフェは消えた。誰か嘘だと言って欲しい…
お行儀が悪いとわかっていても、細長いガラスの容器に鼻面をつっこんで底の方にある果物のソースを舌で舐めとっていたらテーブルに温かい紅茶が差し出された。
「美味しかった?」
「うん…ペロペロ…」(涙目)
この世で一番美味しい物はクマさん専用特大パフェに更新された。
ちなみに1週間に何回も順位が変わるのはお姉ちゃんの作る物が美味しいのがいけない気がする。
軍属の護衛任務中だが職務怠慢だよね…もう退役してお姉ちゃんの店の味見係になりたいよ。
魔女に英雄、伝説の鍛治師やら又は何処ぞの王族(複数)までお姉ちゃんの作ったご飯とかお菓子を買いに来るので、この店に手出しする人いないと思う。って前に隊長に言ったら…
「見た目は大事だ。軍の獣化したお前が店の前に居るだけで威圧感があり、不要なトラブルも少なく済むんだ」
「確かに見た目のインパクトも大事ですよね………」
見た目が大事だと言われてはじめに思い浮かんだのが水まんじゅうだったのは僕だけの秘密だ。味は美味しかったよ、味は。
まぁ、一番精神的ダメージを食らったのはレース模様のクッキーだったけどね。
「それ力作で模様描くのに1枚1時間かかったんだー。楽しかったからまた作るね」
「ふぁっ!!?」
作るのは結構な時間だが、食べたのはひとくちだった。
異世界人の食べ物のデコレーション技術は凄いと思うけど、僕には精神的に暴力が過ぎる。でも美味しいからクッキー全部食べちゃったよね。
「今日は早めにお店閉めて皆んなで試食会するけど、クマさんも参加する?」
「いいの?」
「うん、クマさんが居てくれると試食の品数増やせるから助かる」
「いつも誘ってくれてありがとお姉ちゃん。参加する」
「こちらこそありがとう」
煮込み料理が出て来てホッとしていたら、作るのに3日かかったとか言われた。油断も隙も無いね!
料理に対しての手間ひまが病的だと思う。でも美味しいからお代わりして食べちゃうんだよね。
異世界料理は罠だと分かっていてもかわせない。
もう開き直って楽しむしか無いけど、たまに中毒性のある物が出て来るからタチが悪い。
「クマさん、りんごジャムの改良版もどうぞ」
「ありがとうお姉ちゃん」
何でりんごジャムなのに赤い物体なんだろう?皮を一緒に煮る?もうわけわからないよお姉ちゃん。
味見したけどいつものジャムの美味しさには届かない。
「ブレないねクマさん」
「安定の蜂蜜りんごジャム中毒者」
「お子ちゃま舌ですね」
「『マヨラー』と『アルチュー』とか言う人には言われたく無いよ」
試食会に参加していた従業員2人に失礼な事言われたけれど、蜂蜜りんごジャムは大好きなので否定はしない。
ちなみに同期の事は『肉食女子』とお姉ちゃんは言っていたかな?
1週間は7日しか無いのに「週に8回以上お店の唐揚げ食べないと調子悪い」とか訳の分からない事言っていたけど「僕は蜂蜜りんごジャム無いと生きて行けない」と即座に返したのでお互い罠にズプズプはまってる感が否めない。
おかず系は日替わりで変わる時あるから、毎日唐揚げ店に置いて無いんだけどな…あいつ1日3回唐揚げ食べてる日ありそう。
「クマさんちょっとお部屋行こうか?」
「うん」
試食会が終わって片付けは従業員2人に任せてお姉ちゃんの生活スペースにお邪魔する。
人型に戻りお風呂に入って、体をタオルで拭いて髪を乾かしたらまた獣化して熊に戻る。
そしてリビングにうつ伏せに寝そべるとすかさずお姉ちゃんにブラッシングされる。
「うふふ…もふもふ…」
「………」
お姉ちゃんはもふもふした毛が大好きな少し?かなり変わった人だ。
あんなに料理とかお菓子とか作れるのにお姉ちゃん本人は雑食でなんでもまんべんなく食べるのは解せない。中毒症状がもふもふに全振りしたに違いないね。
お姉ちゃんは毎日でもブラッシングしたいらしいが、週1日で勘弁してもらっている。
まぁ、ブラッシング自体は気持ち良いからいいんだけど流石に毎日となると禿げそう。
「もふもふ…もふもふ…」
「怪しい呪文唱えてるみたい」
「え?声に出てた?あ、クマさんお腹側もするからゴロンして」
「はーい」
無意識で「もふもふ」言ってるお姉ちゃんちょっとヤバい人だよね。
でも蜂蜜りんごジャムを手渡された時の僕の顔は、お姉ちゃん曰く「『猛獣注意』の看板」って言われた。
獣化してる時の満面の笑みはとても凶悪らしい。それに比べればまだマシだよね…たぶん。
「お姉ちゃん、今日の白いアイスって何入れたの?」
「チーズ」
「あー…なるほど、通りで食べた事ある味だと思った」
塩っぱいチーズをわざわざ甘くしちゃう発想なんて脳が拒否して出てこなかったんだなきっと。
この国は『地球』と言う異世界より食に対して大雑把みたいだ。美味しい物を食べると言うより栄養補給に近い人が結構いる。
特に僕みたいな獣人族は食べる量が多いので、調理に時間かけたり、単価の高い甘い食べ物なんて金銭的に食べられなかったからな…甘い物と言えば果物やパンケーキと後は蒸しパン。
蜂蜜は両親も好きだったので、ご褒美とかの時によく食べてた。
はじめてお姉ちゃんにもらった蜂蜜りんごジャムを食べた時の衝撃は凄まじかったな。
「クマさん、よだれよだれ。後、顔凄い怖いよ」
「ごめんお姉ちゃん…じゅるり」
あの魅惑のジャムの味を思い出していたら微笑んでしまったらしい。ヨダレはご愛嬌。
ブラッシングが終わったので僕は家と言う名の寝床に帰る。
「おやすみクマさん、また明日ね」
「おやすみお姉ちゃん」
「明日クマさんの好きなジャム煮るね」
「…じゅるり」
僕の顔面と口元が再び凄い事になたのは仕方ないと思う。あのジャムのおいしさには抗えないよ。あー…早く明日になぁれ。
ちなみに、ジャムの売り上げナンバーワンは『紅い苺ジャム』。
某エルフ族が「……これが無いと国を滅ぼしたくなる」レベルの中毒者で定期購入してるとか。
僕よりヤバいヤツいるんだな、と思ってちょっと安心したけど、何となく言いたい事はわかるよ。僕もジャム切らしたら暴れてしまいそうだからね。
お姉ちゃんにはなるべく長くお店をやってもらって、世界平和に貢献してもらいたいなって本人に話したら………
「内緒で旅行したいから私は長期休暇に入るけど、ダメかな?クマさんも一緒にいく?」
「行く」
従業員2人にお店を任せて旅に出たけど、1週間しないで結局お店に戻るハメになった。
本当は1ヶ月の予定だったんだけどな。
何故店にトンボ帰りしたかと言うと、世界が滅びそうになったから。意味分かんないよね。
「ごめんね?ちょっとイラっとしたから吹っ飛ばしちゃった」
店の総合売り上げナンバーワンは『日替わり弁当』。
日持ちする物は1ヶ月分まとめて作ったが、お弁当は流石にストックは作れなかった。
山を吹っ飛ばした人は、3日位はいつもと味が違くても我慢したが、4日目に耐えられなくてとうとうご乱心。
5日目にはお姉ちゃんの旅先に来て「君が(店に)居ないと世界を壊してしまいたくなるよ?こんな風に…」と言って山2つ分を消し炭にした。
脅し方がイカれてるけど、何となく気持ちがわかる僕はドン引きしてるお姉ちゃんを担いで急いで帰宅した。
日替わり弁当の中身が当分、山を消し炭にした人の好物ばかりだったのはお姉ちゃんの無意識での謝罪だったと思う。
「お姉ちゃん長生きしてね」
「どうしたの急に?クマさんも長生きしてね。はい、今日のお昼ごはんはサーモン丼だよ」
そう言って手渡されたのはピンク?オレンジ?のお花畑。あ、白いお花もアクセントになってて綺麗だね。
「器以外全部食べて大丈夫だからね」
「…うん」
「こっちのグラタンは下皿以外全部食べれるからね」
「わかった」
パンを器にしちゃうなんてよくわからないことするよね異世界人。
この前はシチューで出て来たけど、今日は『グラタン』って食べ物みたい。熱々のグラタンをハフハフしながら食べ終わり、先送りにしていたお花畑と向き直る………
生クリームのお花は慣れたけど、これはどうしたらいいの?
僕の好物でもあるサーモンもお花に変えちゃうのか…こんな綺麗な物を崩さなきゃいけないなんて、なんて拷問。
唐揚を買いに来た同期の方を見て『援軍求ム』と合図を送ったが、哀れみの目で見られた後に首を横に振られた。見捨てられたクマに助けは来ない。
結局なるべくお花を崩さない様にスプーンで食べようとしたが、好物の前には僕の理性なんて木っ端微塵にされ、最終的に泣きながら「おいしいおいしいおいしい」と食べていたらしい。
僕は記憶が曖昧だから後からお姉ちゃんに聞いた話しだけどね。
「熊の捕食シーンワイルド」
と言われたけどなんか解せない。
ちなみにオヤツは『シフォンケーキ』なるフワッフワの物を出されて気がついたら空のお皿を眺めて涙を流したのはいつものお約束だ。
おかわりのシフォンケーキに蜂蜜りんごジャムをかけた物が出て来た時は「コレは甘い罠だ」とわかっていたが、自ら捕獲されに行った。
もうクマ思い残すこと無い。おなかいっぱい今日も幸せ。
世界一美味しい物ランキングの1位がシフォンケーキの蜂蜜りんごジャム添えになったのは、言うまでも無い。
クマの食事と言う名の捕食が激しい時あるので、安全の為に飲み物は後から与えるスタイルに落ち着きました。