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わたしと一緒に滅びませんか?  作者: かたる
第一章 常夜の世界
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第一話 夜明け前の大決闘


 地鳴りがする。 空気がビリビリと震える。

 数多の兵が強固な鎧を纏い、小銃、弓を携え、刀を腰に下げて突撃する。


 

 二つの大地に住む人類の存命を懸けた大戦争――


 ――否。これは戦争ではない。 数多の兵が向かうその先は、少年の立つ場所ただ一点。


 「"赤雷(せきらい)”」


 少年の叫びに呼応して、全身から赤い稲妻が轟音と共に四方八方へと駆け、兵の胴体を突き抜ける。


 「お前は……なぜ……いったいどれ程の……恨みを抱えて今日まで生きて……きた……」


 呼吸は荒く、満身創痍の少年から出た、必死の言葉だった。

 手足は血で赤く染まり、足元がおぼつかない。



 兵は道を開け、その先に少女が立っていた。

 柚子色の髪が風に揺れ、紅い瞳が鈍く光り、豪奢なドレスを身にまとっていた。

 少女はまるで園児に向けて挨拶するかのように、優しく、優しく微笑んだ。


「ううん、なんにも恨んでない。 魔力も尽きてきたでしょ? もう痛くしないから、大人しくしててよ」


 その姿、表情から全く想像できないことを言い終え、再び一斉に兵が駆け出す。


 小銃を構え、連射する者。

 後方で大砲や狙撃銃で狙いを定める者。

 前方で抜刀し、突撃する者。

 上空で手掌又は五指から魔法を放つ者。


 怒号と銃声と共に大地が砕け散る。

 兵達が向かう先はやはり、少年のただ一点。

 少年の頬に銃弾或いは刃を掠め、わずかな魔力で多くの兵を散らす。


 「"羅血鉄鎖(らけつてっさ)"!」

 両手掌から出た漆黒の鎖がうなり、兵をまとめて串刺しにする。


「あちこち壊してんじゃねぇよ……ここは俺たちが手にする大地だ」


 少年の右眼から涙が溢れ、青藍の瞳が赤く充血し、瞳孔が猫のように鋭く形を変える。





――これは戦争ではない。 二つの大地に住む人類の存命を懸けた大決闘。



『天空界アキレア』に住まう少女が『アリス』と、『地底界アキレア』に住まう少年『レイス』との大決闘。


 アリスの()()()()から始まった、大決闘。



 真っ赤な蒸気を身に纏い、バリバリと轟音と呼応し、地鳴りが大地を揺らす。


 「っ……これで……最後だ。 "豪血・赤雷(ごうけつせきらい)"!」


 息も切れ、今にも倒れそうなレイスが必死に魔力を練り上げ、繰り出す最後の魔法だった。



 周辺一帯を埋め尽くすような無数の赤い稲妻が駆け巡り、そのうちの一つがアリスに向けられた。


 アリスは自身に向けられたにも関わらず、微笑んだまま、ただレイスの立つ方向を向いていた。



 「待ってろ。 お前は……必ず……俺が救ってみせ……る……から」


 赤い稲妻はかき消え、ドサっと前のめりに倒れたレイスを目の前に、アリスはそっと耳元で囁いた。


 




 「ありがとう。 おやすみ」



 アリスの手から伸びた刀剣が確実にレイスの胸を突き抜け、アリスの声はレイスには届かなかった。


 

 レイスから浴びた返り血がツーっと頬を伝う。

 アリスから溢れたものが優しくそれを洗い流す。





 「私はね―――――――」



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