不穏
随分長い間、私は眠っていたようだ。今年、私は様々なものを失った。金と女と信念と自信と、それから信頼である。文章にすると簡潔で何もないことのように見えるが、私には今「****」という言葉が似合っている。悲哀の情も、虚無の情も、私には、ない。私は、無い。呼吸する物体。いや、今まで自分は呼吸すらしていたか。わからない。何もかも今、失いほっぽりだして、私に唯一残った事実は私がここに「在る」こと。生か死か。私はその両方を否定する。生きていながら死んでいるようなヒト。ああ!Nさん。我を救い給え。先日、Nさん、私によく言った。
「君は、まるで機械のようです。あなたから人間の特有の汚さ、臭さ。感じられないです。あなたは人間ですか。」
「君が、笑っているところ初めて見たよ。」
「君は随分不自然に笑うのですね。」
ああ!!私には人間の真似事ができない。Mさん、あなたに僕は勿体無い。私はあなたを守れる資格がない。無念、さようなら…。
…いや、最後に言わせてください。
「**********************(作曲家Sより)」
はい、大変申し訳ございません。最後にどうしても言わせていただきました。他人の言葉を借りても自分で言えます。君は、美しい。
彼女は、清楚な見た目で正直で少しお茶目なところもありました。私はその瞳に吸い込まれるように恋に落ちました。失礼。私のそれは恋ではなかった。独占欲。恋ではなく、あなたを手放したくなかった。あ。今わかってしまった。いや、分かっていたのだ。恋をした振りだったのだ。初めから何も感じていなかったのです。友人O氏、
「おい、Mは君を好いていたようだぞ。これは、君。勿体無いことをした。今もきっと君のことを思っているぞ。」
「ああ、そうかもな」
「なぜ君は冷淡で楽観的で自分本位なことしか言えないのか。君、やはり腐っている。恋い慕ってくれる女がいるなら、君もそれにこたえるのは男としての当然ではないのか。******,***********。(名言)僕は、この言葉を聞くと彼女を大事にしててよかったなと思う。」
「いや、悟ったのだ。私という精神世界には、私以外の人間が侵入すればそれらは、不幸になる。君もこの前私と出かけた際、財布を落としただろう。私は不幸の塊でできたに人間なのだ。」
「そんなことはない。僕は、君を信じている。君はできる男だ。そう、自身をなくさないでくれ。僕も悲しくなる。君はここ数年心の底から笑っていない。君は、いい奴だ。私の親友だ。どうか、不幸は僕にも分けてほしい。」
私は、泣いてしまった。O氏。有難う。僕は、君に感謝しなければならない。この会話から十年ほど前の春のことである。しかし、その3か月後。私は大学一期生だった。
私は激震が走ることを聞かされた。今考えてみれば、根も葉もないことであった。しかし、愚か者は馬鹿正直に信じていた。おそらく、それを言ったのは荻野央という、見た目のチャラい男である。
黒く穢れた声で私にこう言った。
「おい、お前Oとは親友か。」
私は正直に思っていることを答えた。
「ああ、そうだとも。それがどうかしたのか。」
私は少し、驚いて答えたのか少し怒りのにじんだ声で答えた。荻野は、顔色一つ変えずさっきの穢れた声色で私を驚愕させて、そして、それは一つの決意へと形を変えていく。その夜、私は真っ暗部屋の中で孤独とその日言われた荻野から聞いた恐ろしい言葉思い出しでいた。
今考えてみれば、何故私が荻野の言を信じたのか。分からない。
正常な判断ができなくなっていた。
荻野の戯言は、私の精神を狂わせた。十年も前の事なので、何を言われたかは覚えていない。いや、こういうことは覚えているのが当然だ、と思うのが自然であるが、脳が思い出すことを拒否するようにその頃のことが抜け落ちている。もしかすると、荻野が原因ではなく別の事が原因であったかもしれない。ふわーっと抜け落ちるような気分の悪さ。脱線するが、私はそのときから、小説に凝って特に**先生の狂気じみた散文のような美しい文が書きたくて、狂人になるにはどうすればよいかと考えていた。それが一番の原因であるような気がしてきた。もういいや。
私は明らかにおかしくなった。今思えば、深夜家に帰れば、夜な夜な泣き、喚き。一睡もせず次の朝また動き出す。眠らなくても何も感じなかった。それ以降荻野に会った記憶がないので、荻野は私の作り出した架空の人物だったのかもしれない。Oは相変わらず、私に構ってくれたが、教授や周りの学生の目が、人間の目が私を軽蔑していました。これも、私の妄想でしょう。
「***********、*****」
ほとんど、被害妄想に陥っていた。Oは、私に精神科に行くように勧めた。私はありがたくて泣いた。このころは涙が流せた。精神科の頭の赤く禿げた強面で、ひどく疲れていた顔の男は、診察後精神安定剤を処方した。
どっさり複数種類の薬をもらった。薬で自分の気違いを直すのは気が引ける。Oは私を心配していた。彼と別れ家に帰った。薬を飲んだ。少し、余裕ができた。部屋がゴミでいっぱいになっていた。一晩中片づけた。匂いが残った。
数か月経った。ぼくは、あれだ。思い出せない。
通院をやめた。薬に頼るのは嫌だ。直径数ミリの錠剤に自分をコントロールするのは嫌だ。私は元に戻った。大学には行かなくなっていた。一日中、何もしなかった。思い出がない。
私は、半狂乱の末ある組織から麻薬を買うようになった。自分がおかしくなっていくのが分かった。
やめたかった。でもヘロイン。見れば、食いついた。不快なにおいも。
何も忘れて、そして漬かっていった。
私は、少し、自信が出てきた。大学にも行けるようになった。Oもそれを歓迎した。
私が笑った。幸せだった。ヘロイン。ヘロイン。ヘロイン。ヘロイン。それだけだ。
ある夜、またいつものようにヘロイン。ふと、思った。
「この世には、スリルがない。君。そう思わんかね。」
「ええ、私は幸せだ。でも楽しくない。」
「やはりそうだろう。君は目が死んでいる、誰かに殺されたんだ。」
「僕は、人生に殺されたのか。でも今ここにいる。なあ、僕の目は誰に殺された?」
「知らん。自分で考えてみろ。」
「荻野央」
「え?」
「君は、覚えているか。例のチャラ男。」
「そんなのもいたな。」
「奴、この前違法薬物が見つかって豚箱にぶち込まれたよ。暴力団とのつながりがあったみたいだ」
「災難だなー。僕も気をつけよう。」
「君、他人事ではないぞ。」
「はっはっは。そうだな。」
「全く自覚のない。*******も鼻で笑っているぞ。」
「奴は、鬱病だろう。私には酒に溺れる理由が分からない。」
「君…。いい加減に…。」
「冗談だ。」
危ない。
「君は、恋をしたことがあるか。」
「ああ、僕は恋の多い男だ。今もMに恋している。たまに大学で見かける。」
続ける、
「彼女は、なんというかかわいいね。うまく言葉では表せられない。清楚だ。汚れを知らない。」
「彼女を好きなのか。」
「いや。恋をしている。恋と愛は違うもの。恋は、下心。愛は真心。」
「下心があると。いや。それ、どこかで聞いたことがある。」
「そうだ。受け売りだ。」
「正直だな。」
笑っていた。
「金の切れ目が、縁の切れ目。こう言うが、君に金はあるか。」
「そんなことはない。」
「君は、借金しているね。薬に溺れるために。なぜ、精神科に行くのをやめた。精神科に行っていれば、もっとうまくやれていただろうに。」
「僕は、はじめから狂人じゃない。ほら、体だって普通に動くだろう。ヘロインだって、自分の意志でやっているのさ。精神科になんか行かなくても、僕は正常だ。普通だ。なんだよお前。よく考えてみれば、僕を狂人だなんて。可笑しなこと言うんじゃないよ。阿呆が。俺はな、恋もするし、飯も食うし、夜はぐっすり寝れるし、今君と話すことだってできる。狂人というのは、人間の三大欲求。当たり前のことができない人間、右足だせば左足が出てこない人間のことを言うんだよ。何度も言う、僕は正常だ。なんとでもいいたまえ。僕には自信がある、たった一人の親友から信頼されている。思い人がいる。ああ!気分が悪い。こんなこと思ってやしないのに。口走ってしまった。いや、違う。そうなのだ。ほら。ああ!支離滅裂だ。僕は、何を言っている。誰か教えてくれ。そうだ、信頼や自信なんて、言葉にすることじゃない。つまりは、自信もなくて、だれからも信頼されていない。口に出して自慢する人間は決まって虚勢を張ってわざと大声で言うものだ。本当に自信があり信頼されている人間は、わざわざ群衆の前に立って大声で演説しなくても静かに後ろでほほ笑むんでいるだけで、他人から背中押されるされるものだ。つまり僕には何もないんだ。分かった。すべてわかった。そうか。そういうことだったんだ。僕は、強者を強者というための弱者だ。強者はヘロインに頼らない。他人から依存されているからだ。人間には依存が大切だ。女は男と結婚して男に依存して生活している。男は魅力的な女に依存されられる。男女はお互いに依存の関係にあるんだ。僕は、初めてヘロインに依存していることが分かった。ヘロインは女だ。僕は、麻薬に恋している。恋の相手を手に入れるために、金に恋している。金と麻薬。」
この世には、スリルが足りない。何かこの世にスリルが欲しい。
いや、スリルはあった。麻薬というスリル。しかし、人間つまらないもので、「慣れ」という概念があり、もうそれには、何も感じなくなっていた。ああなにかないものか。強盗、強姦、器物損壊、業務執行妨害、公然猥褻、殺人。さつじん?殺人?殺人!?殺人!!ひとごろしのことである。
え。殺したら人間はどうなるのか。そんなこと…。欲求を超えたものが沸き上がってきた。ひとごろし。この5文字が頭にこびりついて離れなくなった。殺す。殺す。気を抜いたら口ずさんでしまいそうなほど脳みそは、支配されていった。
―人を殺したい。そう思うようになった。
とにかく、人が殺したい。鋭利なナイフとグローブを購入してしまった。自分でも、この思想がまずいことはわかっていた。
気づけば、ヘロインに手を染めて3年。まだ、大学にいる。
僕は、偶然大学の食堂でMさんと近かった。これを機に、ライン交換して恋愛特有の駆け引きを用いて、
大分いい雰囲気を作ったところで彼氏いないことを確認したら、速攻で告白。了承してくれた。
彼女ができた。実は、彼女も僕の事が気になっていたらしく実は両思いでしたっていうオチ。
彼女は就職したが、僕はもう一年。彼女は優しかった。
僕は、殺人犯。のまえに、とにかく街を行く人全員に対して殺意を抱くようになった。
彼女と一緒にいるときにも、「殺したらどうなるんだろう」という欲望に陥った時。
自分が嫌いになった。ほんとに僕って勝手で、自分のことに対しても我儘で、どうしようもないやつだね。
やな奴だ。
でも、僕は彼女ができて留年しちゃったけど幸せだった。楽しかった。でも、******。(べたなセリフ、いいたくないです。)
O氏と僕は一人で僕の家にいた。ある冬の寒い日。
また散らかっている僕の部屋を片付けるといってくれた。ほんとうにいいやつだ。ありがとう。
ヘロインだけは、しっかり片づけておいた。見つかることもないだろう。
僕はゴミを集めて捨て、O氏は、風呂場と洗面場の掃除をしてくれていた。やはり、ナイフは持っていた。
「ちょっとゴミ捨てにいってくるわ」
「おう。でも今日何の日か分かるか?」
「あ、そうか。えっと…燃えるゴミの日。よし。行ってくるわ。」
外に出た。肌寒かった。長袖Tシャツ一枚で、外に出たのは失策。ジャージを羽織りたいが、早くいけばその分外にいる時間も減る。よし、ゴミ捨てて。ネット掛けて。っと。
発作のように殺意がわいてくる。自分の頭の中でナイフ突き刺して殺す。という妄想。何度してきたことか。
ああ、怖い。自分が怖い。どうして俺はこんなことになってしまったんだ。怖い。怯んでいる。歩け。家に帰ろう。しかし、そこで僕は終わった。
家に帰ると、Oは神妙というか、形容し難い顔で何かを持っていた。心がすっと爽やかに錘が圧し掛かる。
・・・・・・自分でも驚くほどに簡単にできた。心にのしかかっていたものが軽くなる。
やつは、ドラマみたいに、膝をついて倒れた。少しゾッとした。少しだけね。
気持ちの抑制の南京錠が外れて、僕の本心が僕を動かした。刺す。刺す。僕の腕は、止まらない。
血がびちゃびちゃとそれからあふれる。上半身。刺す。何かにあたって刺さらない。
ああ、昨日TVでいってたなあー。肋骨のところは横から刺す。入った。新たな血が出る。
ああ、これは犯罪だ。もう戻れない。だめだ。ヘロインで捕まらないで、殺人で逮捕。
気づいた。これは犯罪だ。僕は、豚箱に入るために生まれてきたんだ。母さん、、ごめん。
ふと、窓の外。明るくなっている。落ち着いた。床に、何か転がっている。ああ、俺こいつを殺したんだ。
僕に、死ぬ権利はない。生きる権利はない。僕がとなえる、僕だけの「****」。
スマホ。ライン。
「M。話がある」
「なーにー?」
「別れてほしい。」
「え」
「どうして」
「僕は君に迷惑をかける。」
「僕のことは忘れて」
「ほしい」
「意味わかんないよ!!!」
「明日、ニュース見てごらん。分かるはずだ」
「は?なんで?私の事嫌いなの?」
「私は好きだよ。君の事好きだよ。」
これ以上見たくない。
ブロックしよう。自分勝手で、ごめん。
そういえば、叫び声も上げずに死んでいったな。俺の為かな。ほんとにいいやつだ。ありがとう。
最後、ヘロイン。注入。
ああ、ああ、足が地につかなくなった。楽しい。浮足立つ。まるで、恋してる。
何もかも最後だ。ああM。会いに来てくれたのか。来るなよ。
見てくれよ。人、殺したんだぜ。そうだ、Oだ。親友殺しちゃったんだぜ。意味わかんねえだろ。
僕もよくわかんねえんだ。ああ?ああ。よく聞こえねえや。ごめん。うん。ごめん。
あれ?M?いなくなった。なんでだろう。ああよくわかんねえけど悲しい。
お別れかな?次はどこで会えるんだろう。おやすみ。明日から豚箱生活です。神様。
おわり。
下手くそですね。