9、反則ギリギリの不思議な色眼鏡
「薬草なんてわからないから」
「お奈津ちゃんなら、きっとわかるよ。三成、よろしくね」
ボクっ娘の秀吉さんって、強引な人なのかな。足も痛いから断ろうと思ったのに……。
「姫様、怖くはないですか?」
「ありがとう、大丈夫です」
なぜか、私は運ばれている。薪を運ぶ道具に座らされて、見知らぬ男性に背負われているのだ。
進行方向が見えないけど、高台を登っていくにつれ、海のようなものが見えてきた。絶景だけど、これは琵琶湖かな。
モモンガの姿は、そういえば見ていない。声は聞こえたけど、ログインしていないのかな。
しかし、この人達って……。
三成さんと二人で薬草を摘みにいくのかと思っていたら、たくさんのお供がいる。しかもすべて男性で、やたらと三成さんに話しかけて……まるで、三成さんを攻略しようとしているかのようね。
あっ、モモンガがいる。でもお爺さんではない雰囲気。初期アバターだと言っていたよね。それにこのストーリーは、男性プレイヤー向き。もしかして……。
「そうじゃ。この男達は全員、石田三成狙いのプレイヤーじゃ」
突然、お爺さんの声が聞こえだけど、姿は見えない。
「ワシは、戦略的に姿を消しておる。お奈津ちゃんのサポートは完璧じゃ」
どういうこと? 近くにはいないのかな。
「うむ、ワシのアバターは、今はその世界にログインしておらぬ。それだけのプレイヤーがいると、ワシのことがバレるからの」
私が考えたことは、ログインしていなくてもわかるの?
「ワシは、お奈津ちゃんのパートナーじゃからな。よいか、よく聞くのじゃ。その男達にもミニイベントが発生しておる。パートナーのおらぬ奴もいるし、手強い奴もいるのじゃ。じゃが、お奈津ちゃんがプレイヤーだとはバレておらぬ」
バレたらマズイの?
「うむ、マズイのじゃ。ワシは反則ギリギリの道具を使うのじゃ。色眼鏡でいいかのぅ」
お爺さんは、使う道具に迷っているのかな。色眼鏡って、偏見のこと? 突然、私の目がかすんだ。あれ? 景色がよく見えない。
「お奈津ちゃん、しばらく目を閉じるのじゃ」
私は、目を閉じた。お爺さんは、私に道具を使ったのかな。色眼鏡って、何?
「お奈津さん、着いたぞ。ん? 寝ているのか?」
美少女の三成さんの声がする。私は、目を開けた。あれ? なんだか、彼女がわずかに白く光っているように見える。まわりを見回すと、男性プレイヤーは、濃さは異なるけど、みんな紫色に光っている。
光はすぐに消えるけど、他に視線を移してから再び見ると、やはり光っている。日光の影響かな。
「お奈津さん、どうした? 目をこすって」
「ちょっと、光が目に入ってしまって」
「この辺りは、日差しが強いからな。少し休むか?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
三成さんは、ホッとしたように頷くと、皆に向かって命じた。
「では、薬草を集めてくれ」
男性プレイヤー達は、ハイと勢いよく返事をした。
「奈津さんも、これを。この付近にいろいろあるはずだ」
竹細工のカゴを渡された。かわいいカゴね。ここに薬草を摘んで集めろってことかな。
「うん、でも、私、わかる気がしないけど」
「忘れている記憶をなんとか思い出してくれ。いま、城は薬草が足りなくて困っているのだ」
そんな記憶なんてないのに。私は、あいまいな笑顔を向けた。困ったな。
男性プレイヤーは、我先にと薬草集めを始めた。仕方ない、見るだけみてみようか。
でも、さっきの光は、なんだったのかな。
「色眼鏡じゃ。敵か味方を見分ける道具なのじゃ。味方は白く、敵は紫色に光る。光が強いとより一層その度合いが強いのじゃ」
えっ? 敵味方を見極める眼鏡? 男性プレイヤー達は、紫色だったけど。
「うむ、敵じゃからな。お奈津ちゃんを邪魔だと思っておる」
三成さんを攻略したいから近くにいる私が邪魔なのね。でも、薬草集めに、なぜ敵味方の眼鏡? あっ、草が光ってる。
「味方の植物も白く光るのじゃ。いま、お奈津ちゃんは怪我をしておるからな。薬草は白く光る。そして、毒草は紫色に光るから気をつけるのじゃ!」
へぇ、じゃあ、薬草がわからなくても集められるね。お爺さん、その道具すごい!
「そうじゃろう、そうじゃろう」
きっと今頃、左右に揺れているわね。
私は、白く光る草の採取を始めた。すっごく楽ね。でも、たまに毒草も生えている。
しばらく時間が経って、カゴがいっぱいになった。
「お奈津さんも、わかっているじゃないか。やはり、道三先生の弟子だな」
「そんなんじゃないよ」
「いや、珍しい物も見つけているじゃないか」
カゴの中には、光の強い物がある。これのことかな? すると、やはり彼女は、それを手にとった。
「これは、万能な解毒薬になるんだ。見つけにくいのに、よくわかったな」