68、大社の武家屋敷で期限切れを知る
「ん? モモ爺が理解できないこと?」
私の考えが聞こえていた彼は、とても驚いていた。船着き場で小舟をおりるときにも、よろけていたほどだ。
「ここは、大社の外苑なのじゃ。ここにいると、どこへでも転移ができる不思議な場所なのじゃ。大社は城で、ここは城下町だと、幕末の奴らが言っておった」
「うん、そうね。神様がいる場所を城だと考えれば、ここは城下町というか武家の町ね」
「ふむ、じゃが、なぜここにいれば、どこへでもポイントを消費せずに転移ができるのかは、誰も説明はできないのじゃ」
「ここは異空間だから、出口を自由に選べるんじゃない? でも、たぶん片道だけだよね? 二つの世界からここへは転移できないはず。それができるなら、セキュリティが甘すぎるもの」
モモ爺は、目を見開いていた。当たっているみたい。ここへは、さっきの小舟を呼んで戻ってくるのね。ポイントを消費してアイテムを使えば、転移することもできるのか。
ポイントって、ゲームのポイントのことよね。お金のような扱いなのかな。
あれ? なぜか知らない人達も集まってきている。
「ほう、新入りか」
集まった人の一人から、声をかけられた。
「ワシの友だ。ワシは彼女の教育者でもある」
「あぁ、わかったぞ。慎重な清さんに、初の大失敗をさせた噂のプレイヤーか。確か、天女伝説を築いて英霊候補者となっていたな。ここにいるということは、晴れて英霊となったか。清さん、教育を失敗すると、また大減点だぜ? ここにいられなくなるんじゃないか」
どうしよう。神様から言われた英霊同士はライバルだという言葉を思い出した。下手なことは言えないな。モモ爺も、彼のことは良く思ってはいないようだけど。
私は、あいまいな笑みを浮かべた。
「天女伝説のお嬢さん、さっきの話だが、異空間についての理解があるように聞こえたが、いつの生まれだ? 俺は、明治の時代だぜ」
「私の曾祖父が、明治の終わりの生まれだわ」
「えっ、まさか昭和か? 清さんは、そんな先にまで行く力があるのか」
えっと、これはまずいのかな。私はモモ爺の顔を見た。モモ爺は、面倒な奴に絡まれたと、うんざりしている。
「彼女は、昭和の次、平成の生まれじゃ。ワシは、2020年で彼女を見つけた。言っておくが、今、ワシがスカウトランキング首位じゃぞ」
「は? スカウト首位は、もう何十年もずっと島左近じゃないのか? 清さんは……ん? そういえば名前を知らんな」
「ワシは、島清興、通称は島左近じゃ。新たな英霊となるプレイヤーをスカウトしたから、何もせんでも首位は不動じゃ」
「それで、教育者なんて割に合わないことをするのか。へぇ、その油断がどういう結果になるかな」
話しかけてきた男は、そう言って立ち去っていった。
「さっ、ワシの屋敷へ案内するのじゃ」
「うん」
私は、まだ取り囲んでいる人達に軽く頭を下げ、モモ爺の後を追った。英霊達は、モモ爺の話をしている。その中で、大社の神主という言葉が引っかかった。
モモ爺は、他の英霊とは関わりたくないようだ。無言で歩いている。こういう所は、左近さんと同じね。あ、そっか、左近さんはモモ爺のコピーなんだから、当たり前か。
武家屋敷の一つに入ると、やっとモモ爺の表情がやわらかくなった。
「旦那様、おかえりなさいませ」
たくさんの女性がいる。奥からは男性もたくさん現れた。だけど、不思議と頭の中で考えていることが見える。モモ爺の関係者だから見えるのかな。あっ、余計なことを考えないようにしなきゃ。
「お奈津ちゃん、ここにいるのは、すべて二つの世界の住人じゃ。英霊ではないから気遣いは無用じゃ」
「そう、なんだ」
「皆の者、由利 奈津さんじゃ。彼女は、新たな英霊となった。ワシは神から、彼女の教育者の任をいただいた。よろしくなのじゃ」
モモ爺がそう言うと、皆、私に頭を下げた。私も慌ててお辞儀をした。
「お奈津ちゃん、ここにいる者は、ワシの家族とその縁者ばかりじゃ。いや、ワシがパートナーをしてこの世界に住み着いた者もいたかの」
「モモ爺、家族がいるのね」
何よ。あ、そっか、戦国時代は一夫多妻制なのか。
「ち、違うのじゃ! 今はワシに妻はおらん。もう何十年もおらんのじゃ」
モモ爺が焦ってる。その様子に、女性達がクスッと笑った。
「ふぅん、そう。あっ、私、プレイヤーだよね? えっと」
「お奈津ちゃんは、プレイヤーとしては失敗したのじゃ。お奈津ちゃんが眠っていた期間に、イベント3回の期限が切れたからの」
「えっ? そ、そっか。じゃあ、定住が決定したのね」
「うむ。じゃが、英霊となったから、もう関係ないのじゃ。お奈津ちゃんは、これまでに過ごした地に行けるのじゃ。だが、長浜城主の立場からは、逃れられぬな」




