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62、城主扱い

「奈津様、おはようございます。導きの社から、使いの方が来られています」


「わかりました、すぐに着替えま……えっ?」


 障子がスッと開き、冷たい風が吹き込んできた。それと同時に、見慣れない女性が二人、失礼しますと言って入ってきた。手には着物を持っている。


 二人が部屋に入ると、小姓の少年はスッと障子を閉めた。まるで、ドアボーイのようね。


「奈津様、着替えのお手伝いをいたします」


「これは、殿様が取り急ぎ選ばれたものですので、お時間のあるときにでも、呉服屋を呼ぶようにとのことです。とりあえずは、こちらの小袖でよろしいでしょうか。」


「そ、そう。ありがとう」


 私が返事をすると、着ていた浴衣を脱がされ、彼女達が持ってきた着物に着替えさせられていった。着物の帯とかは全然わからないから、着せてくれるのはありがたいけど、ちょっと恥ずかしい。


 生成り色の着物だったから、シンプルでいいかもと思ったのも束の間、仕上げに派手な赤系の打掛を羽織らされた。これは、ズシリと重い。


「まぁっ、奈津様の美しさが際立ちますわ!」


「ありがとう」


 私の顔は、かなり派手だから、きっと派手な着物じゃないと合わないのかもしれない。別ルートの私なら、こんな打掛は絶対に似合わないだろうけど。


 おそらく、かなり高価な着物ね。城主らしくしろということかな。打掛は動きにくい……肩が凝りそうだ。




「では、ご案内いたします」


 重い打掛は、冷たい風が吹いても通さない。コートのようなものかな。でも裾を引きずっているから、外には着ていけないか。


 着替えが終わった私は、二人の女性に連れられて、いつもの広間へと移動した。


 広間の入り口には、やはりドアボーイのように座っている小姓風の少年がいた。私の姿を見ると、慌てて平伏している。なんだか、こういうのって苦手だな。


 部屋の中に入ると、秀吉さんが何かの打ち合わせをしているようだった。大勢の人達が座っている。そして、私の姿を見つけると、皆、一斉に頭を下げた。


 ちょっ……どんな顔をすればいいのだろう?



「お奈津ちゃん、すごく似合ってるね。どこの姫にも負けないよ」


 秀吉さんは、ニコニコしながら褒めてくれた。


「秀吉様、こんな高価な物をご用意いただいて、ありがとうございます。ちょっと慣れないというか、汚してしまわないか心配ですけど」


「ふふ、大丈夫だよ。誰かが付いているはずだから、汚れたらすぐに対処してくれる。それに、お奈津ちゃんは、城主だからね。あ、ボクは新しい城ができるまでは、ここに居るけど」


「えっと、はぁ」


 その城主というのも、あまりにも唐突すぎて、どう反応すれば良いかわからない。私の戸惑いが伝わっているのか、秀吉さんはクスクスと笑った。


「お奈津ちゃん、朝ごはんは、あっちに用意されてるよ」


 秀吉さんは、屏風の方を指差した。確かに、味噌汁のような香りがしていると思っていた。


「はい、ありがとうございます。あの、左近さんは?」


「左近は、いま、導きの社の使者と話してるみたい。お奈津ちゃんの食事が終わったら、案内させるね」


「わかりました」


 使者を待たせているんだった。妙な使者だと言っていたから、左近さんが見張りを兼ねて相手をしているのかもしれない。




 屏風の奥には、お膳が用意されている。


 これも、城主扱いなのか、特別仕様に見える。秀吉さんが大坂城を築城して引っ越したら、別ルートのように、この広間で、みんなで同じように食事ができればいいな。


 私は、急いで、用意された朝ごはんを食べた。


 あれ? ご飯だ。白米だ。貴重なんじゃないの? 味噌汁も初めてかもしれない。味噌は高価なものじゃないのかな。


 当然のように、側には常に二人以上の女中さんが居る。特別扱いされていることに居心地の悪さを感じるが、でも、断ると彼女達の仕事を奪うことになるのか。


 私が城主なら、普通な感じに変えられるかな。というか、城主って何をすればいいのだろう。


 食事が終わると、お膳はサッと片付けられた。



「お奈津様、使いの者をこちらへ案内してもよろしいでしょうか?」


「えっ? あ、はい、お願いします」


 私が移動しないでいいように、周りが動いてくれる。やはり、居心地の悪さを感じる。でも、この時代の常識では、これが当たり前なのだろうか。



 奥のふすまが開き、左近さんが一人の男性と共に、広間に入ってきた。


 妖怪のような使者だと言っていたけど、確かに不思議なミノのような物に身を包んでいる。そして、顔には能面を付けていた。


「お奈津さん、こちらの方は、京の導きの社から来られたらしい。食事の後すぐで悪いが、出立の準備をしてくれ。留守中は、ワシが城主代理を務めるから安心せよ」


 私は、コクリと頷いた。



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