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57、本能寺の変

「奈津、ちょっと待てよ」


 政さんの声を振り切るように、私は走り出した。今回は、左近さんは追ってこない。あくまで、静観するつもりのようだ。



 本能寺を取り囲む武装した人達の中、光秀さんの姿を捜した。刀がぶつかり合うような音は聞こえるが、光秀さんの姿は見つけられない。


「あっ、さっきのお嬢さん、危険だから」


「明智様は、どこですか」


「えっ、いや。危険だから、関係ない人は近寄らないで」


「そういうわけにはいかないんです」


「ちょっと、待て」


 私は、彼らを振り切った。やはり、私、身体能力は高い。スッと避け、簡単に突破できた。



 プレイヤーらしき人達が次々と現れた。二人一組の人は新規プレイヤーだっけ。一方が指示しているように見える。宝探しをするのね。


 政さんも、いつの間にか、どこかに消えてしまった。報酬の隠されている場所を通ったのかもしれない。


 一人の方が動きやすいから、まぁ、いいか。



 ボゥオッ!



 寺に火矢が打ち込まれ、木造の建物には一気に火が広がった。とんでもない火事だ。


 私は、結界術を使った。自分のまわりを取り囲むようにイメージをすると、透明な箱の中に入ったような感じになった。


 だが、崩れた何かが当たると、その部分の結界も崩れて、熱風が吹き込む。結界の強度はあまり高くない。矢や爆発を防いだときのアクリル板のようなものに比べて薄い印象を受けた。身体のまわりにまとわせると薄くなるのか。


 まぁ、これでも十分だ。何かが当たらないように避ければいいだけなのだから。



 私は走った。光秀さんは外にはいない。建物の中か。


 紫色の光があちこちで見える。まるで探査器のようね。どこに敵意を持つ人がいるかがわかる。紫色の光は、プレイヤーらしき人からは放たれていない。私がプレイヤーだと思っていないのか。


 光をたよりに奥へ奥へと進んでいく。


 光秀さんの近くを守っていた人達が数人いる場所を見つけた。きっと、彼の逃げ道を確保しようとしているのだ。


「あっ、あんた……」


 私を見つけて刀を抜いた。でも構っていられない。彼らをかわし、私は奥の部屋へのふすまを開けた。


 だが、誰もいない。


 まだ、先か。


「ちょっと、待ちなさい!」


 光秀さんの家臣が慌てていることからも、この先にいるのは確かだ。でも、扉がない。隠し扉か。


 キン!


 刃がぶつかり合う音が聞こえる。この奥だ。


 私は、壁を蹴った。



「あっ……貴女は」


 そこには、刀を持つ二人の男性がいた。一人は光秀さんね。ということは、目ヂカラの強いこの人が織田信長。確かに、英霊の信長さんに似ている。でも、英霊の彼よりは年齢を重ねているように見えるが。


「やっと見つけました。明智様、おやめください。そして、貴方が織田信長様ですね?」


「どういうことです? 貴女は二度も私を助けてくれたのに、信長様の味方だと?」


「ふっ、我の天命は尽きていなかったということか」


 信長さんは不敵に笑った。なるほど、この世界の彼は、まさしく魔王ね。嫌な印象を受けた。


「私は、明智様を助けに来ました。魔王に堕ちた織田様は、火事で焼け死んだとしても自業自得でしょう」


 私がそう言うと、信長さんは怒りに満ちた目で睨んだ。この人は、狂っている。そう直感した。私はプレイヤーなのに、そんな目を向けるなんて。


 きっと彼は殺されるべきなんだ。でもそうなると、いつまでも戦乱が続く。どこかでまた、未来のアンドロイドが介入する。


 だが、戦乱が終結すれば、きっとこの世界の人間が絶滅することはない。


「お嬢さんはいったい……」


 光秀さんは戸惑っているようだ。だけど、ゆっくり話している暇はない。火の勢いは強い。建物はそう長くはもたない。


「私は、貴方達から見れば未来人です。約五百年先の未来から時間を遡ってきました。この乱世を終わらせるために!」


 私がそう言うと、二人の表情は驚きに染まった。


「女、そなたは、英霊か?」


 信長さんは、さっきとは全く違う表情を見せた。明らかに動揺している。英霊のコピーである彼らにとって、英霊はどんな存在なのかはわからない。だが、彼が放つ強い紫色の光は弱まった。


 コピーは、英霊を知っているんだ。使者がいるんだから当たり前か。ゲームのような世界になっていることや、英霊が近くにいることを知らないんだっけ。


「英霊を目指す者です。だから、変えてみせる。信長様、もう一つの世界の貴女は、私のことを友と呼んでくれました」


「な、何? 我の……ハッ! 別の時の流れの我か」


「ええ、キツイ女性ですよ。でも、気高く素敵な女性です。なぜ、この時の流れの貴方は、そんなにも怒りにまみれているのですか。元は、同じ人物だったはずなのに」


 彼は、目を見開いている。


 メキメキと、燃える音だけが響いた。



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