52、京へ
「政さん、歴史が進んだって、どういうこと?」
「今までと違う何かが……たぶん、アレが起こりそうなんだ」
「何?」
「今夜になればわかるぜ」
「またそれ?」
政さんは、ニヤッと笑った。
「おい! おまえ達、すぐに京へ向かうぞ。馬には乗れるな?」
左近さんが戻ってきた。政さんは頷いたけど、私はどうしよう……。
「島様、奈津は馬の扱いを知らないみたいです。オラが乗せますよ。何があったんですか」
「まだわからん。ただ、周辺で妙な動きがあれば、大ごとになる前に少数で対応しろと、秀吉様から命じられている」
「石田様は?」
「あの小僧なら、いつものように町で遊んでいるだろう。アイツは、秀吉様が城に居ると思わせるために、普段どおりの行動しているはずだ」
えっ? 島左近が、石田三成のことを小僧と言ってる。政さんは、それを聞いて苦笑いね。政さんは、三成さんの英霊の使者になったんだっけ。
あのとき、三成さんをごはん屋で見かけたけど、二十代後半に見えた。左近さんから見れば、小僧なのかな?
こんな言い方をするということは、三成さんの家臣じゃないのか。そうか、史実ならまだ先のことだ。ということは、左近さんは、秀吉さんに仕えているのか。
なんだか、混乱する。
左近さんは、私達と、あと数人を連れて、京へと向かうことになった。ほんとに少数なんだな。
今朝通った湖岸沿いを戻るように、琵琶湖を左に見ながら進んでいった。かなり速い。政さんは、遅れないように必死なようだ。私がお荷物になっているような気もするけど。
京は、かなり遠い。
長浜から京都まで、現代なら電車で一時間くらいなのにな。ふと、懐かしく感じた。私は、米原で乗り換えて関ヶ原に向かったんだっけ。
琵琶湖の西の端あたりで、馬に水を飲ませるために休憩をとった。昨夜来た坂本の近くだ。
「これから、山を越えることになる。襲撃に備えよ」
左近さんは、私と政さんにそう話すと、他の人達の方へ行ってしまった。そして、小声で何か指示している。私達には聞かせないつもりのようだ。
「政さん、私達、信用されてないね」
「あぁ、あの人は、そういう人だ。気にするな」
比叡山を越えて、京へ向かうのか。山道には僧兵がいるのかもしれない。でも、馬で山を越えられるのだろうか。
左近さんと話していた人が、漁師っぽい人と話をしているのが見えた。そして、銭を渡している。
「政さん、あの人、お金を渡してるけれど」
「あぁ、馬を預けるんじゃねぇか。山を越えるなら、馬は邪魔だ。山賊に癇癪玉でも使われたら、制御できなくなるからな」
「僧兵はいない?」
「史実どおりなら一掃されてる頃だが、余裕で、わんさかいるぜ。だから普通は通らないけど、京に行くなら、比叡の山越えの方が早い」
「普通は通らないのに通るの?」
「あの人は、そういう人だ。最短でたどり着こうとしている」
島左近って、やはりすごい知将だな。
左近さんが先導し、山道を進んだ。政さんが言ったように、馬は山のふもとで預けられ、そこからは徒歩だ。
山道があるのに、左近さんは獣道のような道を進んだ。だが、そのおかげで、僧兵にも見つからずに京へと山を越えることができた。
身体能力を底上げされていなかったら、こんな山越えはできなかったな。他の人達は、平気な顔をしている。この時代の人はタフね。
そして、大きな川の近くで、左近さんは口を開いた。
「飯にする。余計な話はするな。情報を集める」
何を言っているのかわからなかったが、彼についていくと、川沿いの店に入っていった。ごはん屋というより、宿屋のような雰囲気だ。
もう営業は終わったのか、店内には酔っ払いが一人寝ているだけで、他に客はいない。
「おや、清さんじゃないか。こんな時間にどうしたの? 何かの使いかい?」
えっ? いま、清さんって言った?
左近さんに話しかけたのは、店の女将だろうか。四十代くらいに見えるが、上品な美人だ。
「まぁな。遅くに悪いが、コイツらに飯を食わせたいんだ」
「六人かい? 余り物しかないけど、すぐに用意するよ。急ぎかい?」
「できる限り、早く頼む」
そう言うと、左近さんはお金を渡したようだ。女将さんらしき人が奥へ引っ込むと、彼は寝ている酔っ払いに話しかけた。
「おい! 何か目新しい情報はないか?」
すると、酔っ払いは、のそっと身体を起こした。そして左近さんを見たが……突っ伏した。
左近さんは、酔っ払いの目の前に銭を置いたけど、チラッと見ただけで動かない。
すると、左近さんは私の方を見て、何かを目で合図してきた。もしかして……。
「奈津、なんとかしてくれってさ」
おそらく、酔っ払いは情報屋だ。そして、左近さんが置いた銭では話す気にならないのね。
「無茶ぶり……」




