表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/71

51、この世界の島左近は狂っている?

「うわっ、奈津、なんとかしてくれ」


「えっと、見送りの合図って何ですか?」


 左近さんは、政さんを睨みつけていた。私の質問は無視するのね。


「おまえ、どこで何をしていた? 返答によっては……」


 そう言うと、左近さんは刀に手をかけている。


「オラは、湖の祭りに行っていただけだ」


 彼はなんだか、とてつもない殺気を放っている。何かあったのだろうか。でも、彼は、政さんにだけ殺気を向けているような気がする。私も一緒に行動していたのに。


 だけど、政さんも私もプレイヤーだ。攻略対象の左近さんには、無条件に好印象……じゃないんだね。彼は、狂っている、か。



「島様、その合図というのは、気付きませんでした。湖沿いを西の方へ行っていましたので」


 私がそう言うと、彼は刀を抜いた。ちょっと待って。なぜ、抜くのよ?


「おまえ、誰と会った? 松永の……」


 松永? 誰? あ、松永久秀かな。でも、時代が微妙にズレている。史実なら、もう死んでいるはずだ。


「違いますよ。オラ達は、坂本に行っていたんです」


「は? なぜだ?」


「オラ、嫌な予感がしたんで、町はずれで馬を借りて、見に行ってきたんです」


「それで、そこで何を見た?」


「なんか呪いにかかったらしい人達が、火矢を射まくっていましたけど、夜明け前には呪いが解けたのか、おとなしく帰っていきました。でも、かなり町が焼けたみたいです」


「将門の呪いか……」


 そう言うと、彼は刀を鞘におさめた。



「おまえら、寝てないのだろう。寝られるときに眠っておけ。昼までには起きろよ」


「は、はい。失礼します」


 政さんは、そう返事すると、私に目配せをして、広間の奥へと逃げるように離れていった。


「なんだ? おまえも行け」


 政さんの、さっきの目配せの意味はわからない。でも、たぶん左近さんは……。


「島様、ずっと起きて待ってくださっていたのですね。ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみません」


「あ? あ、あぁ」


「秀吉様が出陣されたのは、今朝ですか」


「夜明け前だ」


「では、島様も少しお休みください。秀吉様に雇われている身としては、島様に何かあっても困ります」


「ワシのことは気遣い無用!」


 そう言うと、左近さんは広間から出ていった。言葉とは裏腹に、ほんの一瞬だったが、少し穏やかな目をしたような気がした。


 頑固だね。それに不器用。彼のような、真面目すぎる人柄は、こんな乱世ではしんどいのではないだろうか。


 この世界の島左近は、狂っている……。


 そりゃそうなるよね。信用していた人に奥さんを殺されたら……。でも、人間不信になって苦しんでいるということは、人ときちんと関わりたいからだ。  


 それに、言い方が不器用なだけで、おかしなことは何も言っていない。だから、あんなにたくさんのプレイヤーが彼を攻略しようと狙っているのだ。


 私は、左近さんに対して特別な感情はないけど、理解はできる。お友達エンドならいけるかな。


 特別な感情は……ハッ! いやいや、変なことを考えていないで、もう寝よう。


 私は、広間の端に積んであった布団を広げて、中に入った。せんべい布団だね。畳の上だから、まぁいいか。





『お奈津ちゃん、島左近を救ってほしいのじゃ』


 えっ? 何? 夢?


 私は、緑が眩しい草原にいた。関ヶ原かな。あたりを見渡しても誰も居ない。


『このままでは、この世界の島左近は壊れてしまうのじゃ』


 この声は、モモ爺?


『コピーのひとつが正しい死を迎えずに壊れてしまうと、島左近の英霊は、英霊でいられなくなるのじゃ』


 モモ爺なの?


『英霊は、壊れたコピーの身代わりをすることになり、その死後は、英霊も消滅するのじゃ。そうなると、二つの世界から島左近が消えてしまう。お奈津ちゃん、島左近を救ってほしいのじゃ』





「おい! いつまで寝ている?」


 私は、怒鳴り声で目が覚めた。そっか、今のは夢か。眠る前に変なことを考えたせいかな。でも、妙にリアルだったような気もする。


「おい!」


「あ、はい。すみません」


「さっさと、飯を食え。妙な伝令が来た」


 私が起き上がると、目の前には左近さんがいた。彼も寝起きのようだ。さっきとは違って、目のくまが消えて、少し腫れぼったくなっている。


「何があったんですか?」


「いま、確認中だ。事実なら、すぐに京へ向かわねばならない」


「伝令です!!」


 話している途中で、一人の忍びっぽい人が駆け込んできた。左近さんは頷き、広間から出ていった。


 私は、布団をたたんで元の場所に戻した。




「奈津、こっちだ」


 政さんが手を……いや、箸を振っている。


 私は、政さんの方へ移動し、遅い朝食を食べることにした。玄米か……汁物に放り込んで、雑炊のようにして食べた。うん、この方が食べやすい。



「奈津、歴史が進んだみたいだぜ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ