5、戦国武将!?
「お嬢さん、よかった、目が覚めて」
障子を開けて、はかま姿の二十代半ばに見える可愛い女性が入ってきた。人懐っこい笑顔に、私も自然と笑顔を返した。
「あの、ここはどこですか?」
「心配しなくて大丈夫だよ。ここは、ボクの城だからね」
この人、自分のことをボクって言ってる、ボクっ娘だ。戦国時代にも居るのね。でも誰? こんなに若いのに城主?
「あの……」
「あぁ、ごめんごめん。自己紹介してなかったよね。ボクは、羽柴秀吉だよ。ボクの主君からは、サルって呼ばれてるんだ。お嬢さんは、どこかの公家の姫様かな?」
「えっ、公家だなんて……」
「京のお嬢さんじゃないのかな。どこの国か聞いてもいい?」
「国は……」
これって、地域のことよね。この時代の呼び方なんて、急に出てこない。焦って必死になればなるほど、何も思い浮かばない。
すると、ボクっ娘の羽柴秀吉さんは……えっ、秀吉? 女性なのに?
「やっぱり頭を打ったよね。他の人達もそうだから、焦らなくても大丈夫だよ。そのうち思い出すと思うよ。お名前は覚えてるかな?」
「……奈津です」
「お奈津ちゃんね、かわいい名前だねー」
なんだか、人懐っこいを超えているような気もする。距離が近い。そうか、男女逆転の世界なんだ。乙女ゲームじゃなくて、乙男ゲーム? 見た目の年齢も、たぶん実年齢とは違うよね。
パァーン!
大きな音で、障子が開いた。
「コラ! 三成、彼女の怪我に響くでしょ。そーっと開けなさい」
「あ、あぁ、悪い。早馬が来た。厄介なお方がこちらに向かっているらしい」
慌てた様子で入ってきたのは、十代半ばくらいのクール系の美少女だ。三成って言ってたよね。この美少女が石田三成なんだ。
「ほぅ、厄介なお方というのは、誰のことを言っているのだ?」
今度は、派手な洋装の二十代後半に見える女性が現れた。なんだか馬術部の人みたいな感じで、ブーツを履いてる?
美少女は、慌てて畳の上にひれ伏した。
「信長様、履き物のままですが……」
「脱ぐと履くのが面倒なのだ。サル、すぐに来い。うん?」
やはり、織田信長だと思った。彼女は、私をジッと凝視している。目ヂカラが強い。
「お奈津さんです。先日の地震による事故の巻き添えになってしまわれて、記憶喪失のようです。左足の傷も、まだ出血が止まりません」
えっ? 地震が起こったの?
「そうか、奈津、不運だったな。初めて見る顔だが……その着物からして、武家ではなさそうだな」
「あ、えっと……」
「彼女は、今、目覚めたばかりで、国もわからないみたいです」
ボクっ娘の秀吉さんがフォローしてくれた。目が合うとパチンとウインクされた。なんだか小悪魔系な人かもしれない。
そっか、乙女ゲームみたいな世界観になっているから、無条件に、私に好意的なのかな。
お爺さんは、イベント3回が期限のように言ってたっけ。それが終わると、ガラリと変わるのかもしれない。私がどこかの姫様じゃないことがわかって、追い出されるのかな。
「奈津、おまえは何ができる?」
「えっと……」
「武術が無理なのは見てわかる。茶の嗜みはあるか?」
この時代って、抹茶よね? 煎茶しかわからないけど、煎茶は確か江戸時代だっけ。困ったな。
私が黙っていたためか、彼女はツカツカと近寄ってきて、私のあごをぐいっと掴んだ。ちょ、ちょっと、近い近い近い!
「ふむ、わからぬようだな。だが、我を真っ直ぐに見る眼は悪くない。気の強いヤツだ」
なんだか、やはり変な方向に話が進みそうだ。今にも唇を奪われそうな妖しい雰囲気……私は同性愛者じゃないのに。
私は、パッと彼女の手を払った。
「私は、同性愛者じゃないので、そんな行動はやめてください」
あっ、マズイ。織田信長って、短気な魔王。
「ふっ、ますます面白い。奈津、さっさと怪我を治せ。サル、行くぞ」
「はいはい。お奈津ちゃん、ごめんねー。ちょっと出かけてくるから、何か欲しいものがあったら三成に言ってね」
バタバタと信長さんの後を追って、秀吉さんが出ていった。三成さんが厄介な人と言っていた意味がわかった。
「包帯を換える頃合いだな。薬師を呼んでくる」
部屋に残された美少女が、部屋から出ていこうとするので、私は聞きたかったことを尋ねた。
「あの、三成さん、島左近さんはどこにいるんですか?」
「は? 島左近? あぁ、筒井順慶のとこのアイツか。さぁ、知らん」
えっ? 筒井順慶って誰?
「筒井順慶さんは、今は……」
「こないだの戦では、鉄砲隊を出していたか。みな、あの方に取り入ろうと必死だからな」
織田信長の家臣なのかな?
「島左近さんが、ここに来ることはあるんですか」
「さぁ? 知らん」
ちょ、ちょっと待って。会えない人を攻略しろってこと? そんなの無理すぎる。




