49、未来のアンドロイドの仕業かもしれない
「明智様、オラは味方ですよ。落ち着いてください」
政さんは、彼の刀を受け止め、穏やかな声でそう言った。
「政でしたか。妙なことに巻き込まれてしまいましたよ。この数では、さすがに……」
二人が話している間にも、次々と火矢がこちらに飛んできた。火矢は、すぐ後ろの小屋に突き刺さり、ボォっと勢いよく燃えた。
背水の陣ならぬ、背火の陣か。
「朝まで持ち堪えることができれば……」
光秀さんは、あたりを見回してあぶら汗を流していた。たくさんの襲撃者に囲まれている。
この世界の住人は、襲撃者は、平将門の呪いでおかしくなった者達だと考えているのだったか。だから、朝になれば元に戻ると思っているのかな。
しかし、この状況では……。
吉さんは、あまり戦えないようだ。あまり体調が良くないのだろうか。政さんが、吉さんを襲撃者から守るように、立ち位置を変えている。
ヒュン!
火矢が柵にも突き刺さった。
襲撃者は、光秀さんだけを狙っている。何も動かなければ、私が襲われることはなさそうだ。だけど、風にあおられ、火が一気に広がっていく。
政さんは、アイテムを投げ、柵の火を消した。
すると、襲撃者は、私達も敵だと認識したらしい。一気に紫色の強い光に染まった。
ヒュンヒュン!
まずい、熱い、どうしよう、どうしたらいいのかわからない。私は頭の中が真っ白になった。
「奈津! おい、奈津、避けろ」
政さんが焦った顔をしている。
すぐそばに、人の気配を感じた。たくさんの矢がこちらに向けられている。
「すまない……巻き添えに……」
すぐ横にいるのは、光秀さんだ。
私は、無意識に左手を前に向けた。
こんなこと、間違っている。偽イベントに踊らされて、主要人物をなんの戸惑いもなく、殺そうとするなんて。
ヒュンヒュン!
「奈津〜っ!!」
政さんは叫んだ。声がした方を見ると、こちらに手を伸ばして駆け寄ろうとする政さんを、吉さんが制していた。
カンカンカン
カンカン
だけど、火矢は私には届かなかった。左手からぶわっと何かの波動が出て、目に見えない結界を作ったのだ。
もちろん、近くにいた光秀さんにも火矢は届かない。
彼は、目を見開いていた。死を覚悟していたのだろう。
でも、明智光秀がこんなところで、しかも住人でもないプレイヤーに殺されていいはずがない。
こんな偽イベントをでっちあげて、プレイヤーを惑わす未来人に怒りを感じた。いや、未来のアンドロイドか。
そうか、わかったかもしれない。
私が生まれ育った科学の世界の未来人が、この二つの時の流れを作った。そんなことができるのだから、アンドロイドも普通に存在しているはずだ。
この戦国時代の未来は、2000年には人間が絶滅してアンドロイドだけの世界になるらしい。
未来人は、それを回避するために、こんなゲームのような仕組みを作った……だから、それを阻止しようするアンドロイドがいるのか。
私が生きた時代のさらに500年先なら、複雑な感情を持つアンドロイドがいても不思議ではない。人間の知恵や知識を超える個体も当然、たくさんいるだろう。
私は、頭に血がのぼるのを感じた。
このままだと、アンドロイドに乗っ取られる。科学の世界も、2500年頃に大きな戦乱があると聞いた。そこで人間は絶滅し、科学の世界が消える。そうなれば男女逆転の……もう一つの世界も、簡単にアンドロイドに支配される。
「明智様、大丈夫です。お守りしますから」
「そなたは、いったい……」
私は光秀さんを結界で囲んだ。
火矢が彼に届かないことがわかり、プレイヤー達は、刀を抜いて斬りかかってきた。
私は、結界をあちこちに出して、近寄らせないようにした。プレイヤー達は、見えない壁に激突して転んでいる。
見えないことが恐ろしいらしい。夜だということもあるのだろう。何かの呪いだとか妖怪だと騒ぎ、徐々に逃げ出す者が増えてきた。
そして、夜が明けた。
「奈津、イベント終了の声が聞こえたぜ。火も消えたな」
「そう」
吉さんは、険しい顔をして近寄ってきた。
「奈津さん、その考えは私達の想像を越えている。私達は、一体どうすれば……」
英霊の吉さんには、人間の考えが見えてしまうのだったか。政さんは、首を傾げているけど。
簡単なことだ。人間が絶滅しなければいいだけだ。
皮肉なものね。私の予想が正しいなら、未来人は、二つの時の流れを作り出したことで、安心したのか。キチンと管理しないから、アンドロイドに絶滅させられる。管理するために必要な、人間の絶対数が足りなくなったのかもしれないけど。
「吉さん、大丈夫です。明智様は生きています」
「あぁ、そうだな。着実に進んでいる。明日、いや、もう今夜か。アレは、起こるかもしれん」
何? アレって。




