42、モモ爺は私の……何?
私が口を出すべきことではないとは思う。だが、私は黙っていられなかった。
「美樹さんでしたっけ」
「ええ、それが何か?」
「美樹さん、あまりにも彼への態度がひどくないですか。彼は、貴女を必死で守ってくれていたじゃない」
私がそう言うと、彼女は、蔑むような目で、私を見た。
「パートナーなら、私を守るのは当然でしょ。そもそも、こんな危険な場所に連れてくる方がどうかしているわ」
ちょっと待って。英霊は、自殺志願者を救うために、この世界へ誘っている。もうすっかり立ち直ったということ?
新規プレイヤーの彼女は、この世界の仕組みを知らない。だから、変なことを尋ねるわけにもいかないか。
モモ爺が苦笑いしている。早くクリアさせたいのだろうけど、この女性は、京で遊びたがっているような気がする。
ずっとこの女性に振り回されるなんて、モモ爺がかわいそうすぎる。というか、彼女に独占されることが面白くない。モモ爺は私の……えっ? 何?
私のモモンガでいて欲しかった? いや、違う。
彼は、いつも元気で、なんだか可愛くて、癒し系で、ちょっとしつこいけど一生懸命で、自分のポイントを大幅に犠牲にしてでも私の意思を尊重してくれて……。
あれ?
嘘……。
私、モモ爺のこと……。
私は頭をふるふると振って、雑念を振り払った。
彼の方を見ると、彼はハッとした顔をして、私から目をそらした。うわっ、頭の中の考えが見られてしまったのか。モモ爺は、しらじらしく、明後日の方を向いている。
モモンガの姿じゃなくても、なんだかかわいい。
あれ?
私は一体、どうしたのだろう。おじさんなのに、かわいいだなんて。
「ねぇ、あと何分我慢すれば、京に戻れるの?」
彼女は、モモ爺に、また無茶なことを言っている。祭りはまだ始まっていない。彼は、祭りが終われば戻れると言っていたじゃない。
「祭りは、もうすぐ始まるのじゃ」
「まだ始まっていないわけ? やってらんない」
「お美樹ちゃん、祭りを楽しむのじゃ」
「興味なーい」
モモ爺は、苦笑いしている。ずっと、こんな調子なのかな。でも、彼に甘えているのかもしれない。だから、彼は、彼女を見捨てることなく、サポートをしているのかな。
「おーい、奈津、大丈夫か?」
遠くから、政さんの声がした。振り返ると、政さんは、鉄砲隊の人達と一緒だった。左近さんもいる。襲撃してきた忍びの残党は、もう片付いたのかな。
「お、お奈津ちゃん、ワシらはもう行くのじゃ。助かったのじゃ。ささ、お美樹ちゃん、行くぞ」
「えっ、何よ。どこに行くのよ」
「この祭りの、とっておきの屋台じゃ。腹が空いては、イライラするだけなのじゃ」
モモ爺は、急に、いそいそと離れていった。
どうしたのかな? あっ、もしかして、あの鉄砲隊の中に、モモ爺のコピーがいたりして?
そういえば、モモ爺の声は、モモンガの時と同じだ。狐のお面をつけていたときは、もう少し若い声だった。アバターだと、お爺さん声になるのかな。
「奈津、怪我してないか?」
「政さんも大丈夫? たくさんの忍びがいるところに飛び込んで行ったから、驚いたよ」
「雑魚ばかりだったぜ。それより、さっき、話していた男は何者だ?」
私達の近くには、鉄砲隊の人達がいる。まだ残党が隠れていないか、探っているようだ。
私は、彼らの声に耳を傾けてみたが、狐のお面をつけていたモモ爺の声に近い人は見つけられない。お面のせいで、声がこもった感じになっていたし、正直、あまり覚えていない。
「おーい、奈津、聞いてるのかな?」
「えっ? あ、えっと、ごめん、なんだっけ?」
「おまえ、鉄砲隊に興味があるのか」
「いえ、別に。火縄銃なんて、実際に使っているところは見たことないから」
「あはは、それを興味があるって言うんだぜ」
「あー、まぁ、そうね」
私が鉄砲隊を見ていたからか、政さんはモモ爺のことをそれ以上尋ねることはなかった。気を遣ってくれたのか、それとも単に忘れたのかは不明だが。
「さぁ、祭りだ。オラ達は、もうサポートをしたから自由だぜ」
「ん? 自由? もしかして、まだ続いているの?」
「あぁ、終わったら終了の声が聞こえる。まだ、何も聞こえてないから、継続中だ」
「襲撃は終わったのに?」
「いや、まだ、終わってないぜ。オラ達は気にしなくていい」
「そう」
「じゃあ、祭りを案内してやる。来いよ」
「また、私を盾にする気でしょ。視線が痛いのよね」
「でも、顔が知られる方がいいだろ。どこに奇跡を起こすきっかけが転がっているかわからないしな」
「政さん、心配してくれてるんだ」
「まぁな、奈津が無事に生き抜けるように力を貸すぜ。だから、英霊になったら、オラを使者にしてくれよな」
「ふふっ、ちゃっかりしてるわね」




