41、モモ爺と再会
キィン!
「モモ爺、大丈夫?」
「なっ!? なぜ、わかったのじゃ」
「聞き覚えのある声が聞こえてきたから。助太刀するよ」
「お奈津ちゃん、かたじけないのじゃ」
こっちにも、黒頭巾の忍びがたくさんいた。私が援護に入ると、一気に形勢が逆転した。モモ爺は、かなり強い。
モモ爺は、他のプレイヤーも守っていたようだ。いや、知り合いのパートナーを助けていたと言う方が正確かな。
私はモモ爺の補佐に徹した。彼が守っていた人達を、襲う敵から守るように立ち回った。
自由になった彼は、黒頭巾の忍びに怯むことなく、ガンガン攻めている。逆に数が多い忍びの方が怯んでいるようだ。
ピュイィ〜
甲高い笛の音のようなものが聞こえた。すると、黒頭巾の忍びは、一気に引いていった。
いや、違う。攻撃対象が変わったのか。
奴らが向かった先には、秀吉さんの姿が見えた。彼は、鎧を身にまとっている。その近くには、左近さんもいる。彼も鎧を着ている。
「お奈津ちゃん、もう大丈夫じゃ。助かったのじゃ」
「でも、秀吉さんや左近さんが……」
そのとき、バァンと爆発するような音が聞こえた。ドカドカと黒頭巾の忍びが倒れている。別の離れた場所から、たくさんの兵が現れた。火薬の臭いがする。
「まさか、鉄砲?」
「そうじゃ。島左近の鉄砲隊じゃな。大将がおとりとなって、死角から狙わせたのじゃろ」
鉄砲隊が出てきたことで、黒頭巾の忍び達は撤退した。その後を追うかのように、別の忍び達も走り去った。
「襲撃者って、二つの勢力だったよね?」
「ほう、お奈津ちゃん、すごいのじゃ。黒頭巾は、伊賀のどこかの里の襲撃じゃ。追っていったのは、越後の忍びじゃ」
「軒猿?」
「そうじゃ。上杉の使者が、今、安土に来ておるからな。黒頭巾は、騒ぎを起こして同盟交渉を決裂させたい者に雇われたのじゃろ」
「そっか、だから戦乱の時代が終わらないのね」
私がそう言うと、モモ爺は少し慌てた顔をした。
あっ、そうだ、いま、モモ爺は、新規プレイヤーのパートナーをしている。新規プレイヤーには先入観を持たせないために、この世界の仕組みは教えてはいけないんだっけ。
「あの、貴女は何者?」
モモ爺がかばっていた女性が、話しかけてきた。私はどう説明すれば良いのかわからず、モモ爺の顔を見た。
「お美樹ちゃん、彼女は、お奈津ちゃんじゃ。ワシの友達なのじゃ」
「へぇ、こんな妖しい友達がいるのね」
彼女は、さっきまでとは態度が違う。腰を抜かしていたのに、いまは上から目線だ。モモ爺に助けられたという感謝の気持ちもないのかな。
「うむ、お奈津ちゃんは、確かに艶やかじゃな」
なんだろう、腹が立ってきた。この女性の態度は、あまりにも、モモ爺を馬鹿にしている。彼が必死に守ってくれたのに。
「こんなイベント、やってられないわね」
「お美樹ちゃん、イベントだとは住人は知らないから、そんなことを大声で言ってはいけないのじゃ」
「私には、こんな田舎は似合わないでしょ。さっさと戻りたいんだけど」
「祭りが終われば、京に戻れるのじゃ」
「はぁ、もう、虫だらけだし不衛生だし、一秒も居たくないわね。と言っても、京も変わらないかも」
「頑張って、クリアするのじゃ」
「だから、やってられないって言ってるのよ!」
モモ爺は、困った顔をしている。私も困らせたけど、でも、彼を馬鹿にしたりはしていない。むしろ、癒されていた。モモ爺が居たから、死の呪縛から抜け出すことができた。
あれ?
私、いま、彼女に嫉妬しているのかな。モモ爺を振り回して、彼はそんな彼女を励まして……。
そういえば、モモ爺は、この世界では、かっこいいアバターに身を包むと言っていたけど、どう見ても、三十代の気の良さそうなおじさんね。
もしかして、私のせい?
「モモ爺、その姿が、前に言っていたアバター?」
「うぬぬ……えーっと、うーむ」
「イケメンアバターは、どうしたのよ。イケメンと都に旅に行こうと言っていたくせに、ただのおじさんじゃない」
彼女は、なぜそんなに偉そうなの?
「あのアバターは、ちょっと使えなくなったのじゃ。じゃが、あと少ししたら、ドーンと……」
「別に、いらないわよ」
バッサリと切り捨てるような言い方に、モモ爺は、ショックを受けているように見えた。彼女には、島左近を攻略してくれとは言っていないのかな。
「モモ爺、もしかして、私のせいで使えなくなった?」
「そ、そんなことはないのじゃ」
そう言いつつも、彼の身体は左右に揺れている。この癖は、楽しいときだけじゃなくて不安なときも出るよね。
私がそう考えると、彼はピタリと動きを止めた。私の考えも覗いているのね。
「そんなことより、あと何分で祭りは終わるの?」
この女性、やはり腹が立つ。




