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37、ピリピリとした雰囲気

 私達は、広間に案内された。ここは、別のルートでは、みんなでご飯を食べていた部屋だ。なんだか、懐かしい。


 左近さんは、ずっと無言だった。私達をチラッと見て歩き始めたから、慌てて追いかけただけなので、案内されたという感じでもないか。


「使者を希望する者だ」


 彼はそれだけを言うと、部屋から出ていった。何というか、人嫌いなのだろうか。




 広い部屋で、何かの作業をしていた男女数人がこちらを向いた。うわっ、強い紫色の光を放っている。


「秀吉様から、使者の方々が来ていると教えていただいた。石田様の使者を希望しているんだが……」


 政さんがそう言うと、彼らの敵視は消えた。秀吉さんの使者希望だと思ったから、強い殺意を向けられたのか。


「俺達に、伝言かい? 確かに石田様は使者に欠員があるね。でも、二人は無理だと思うけど」


「使者希望なのは、オラだけだ。彼女は、ただのプレイヤーだよ。新人なので、世話をしているんだ。それに、オラは以前、秀吉様の使者をしていたからね。あんた達に睨まれる立場じゃないんだけど」


 ここにいる人達は、プレイヤーなんだ。政さんは、ほんとに、コロコロと態度を変える。彼らに対しては、威圧的に話している。これも処世術なのか。


「先輩でしたか。失礼しました」


 彼らは、チラッと私の方を見た。若干、紫色の光を放っている。邪魔なのかな。


「奈津、悪いけど、ちょっと外してくれ」


「あ、はい、わかりました。適当に散歩してるよ」


「あぁ、斬られんように気をつけろよ」


 私は軽く頷き、部屋の外へ出た。




 ここは、完全に同じ造りになっているけど、雰囲気は随分と違う。別のルートでは、穏やかな感じだったのに、どこかピリピリとしている。


 それに、別のルートでは、この城に島左近は居なかった。時代が少しズレているのかもしれないけど、私が知る史実とは、大きく異なっているのかもしれない。


 あの屋敷で、英霊の信長さんは、こちらの世界では戦乱ばかりだと言っていたっけ。だから、島左近も、あんなにピリピリ……。


「おい! 女! 何をしている」


 背後に殺気を感じた。


 振り向くと、やはり思った通り、島左近が居た。彼は腰の刀に手をかけている。そして、紫色の光を放っている。


 攻略対象の彼らは、ゲームのような状況を知らない。ただの日常生活を送っているだけだ。頭を切り替えなければ。


「島様、あの、ちょっと彼が外せと言うので……」


「ふん、おまえは、例の件を知らぬのか。抜け目ない雰囲気だから、アイツと同類かと思ったが」


「この見た目から、よくそのように言われます」


 そう答えると、彼は表情を和らげた。


「そうか、ワシも見た目で判断しているか」


「えっ? あ、いえ、非難したわけではありません」


 政さんが、彼を苦手そうにしていたのがよくわかる。この人、どうしてこんなに近寄りがたいのだろう。


「それで、おまえは、どこに行くつもりだ?」


「特には……」


 まさか、自分が使っていた部屋を見に行こうとしていたとは言えない。


「あちこち動き回られても困る。履き物を持って、ついて参れ」


「えっ?」


「おまえのような奴は、道場の方が居心地が良いだろう」


 そう言うと、彼はスタスタと歩き始めた。道場と言われても、私はどうすればいいかわからない。だが、ついていかないと、斬られそうな気もする。



 立ち入ったことのない廊下を通り、さらに外に出て進んだ。長浜城って、こんなに広かったんだ。


 しかし、やたらと見られる。


 彼の後を追って歩いていると、彼を狙っているプレイヤーらしき女性がたくさんいることがわかった。


「おい、おまえ、何を立ち止まっている」


「あ、すみません」


 彼に声をかけられた途端、私には痛いほどの視線が突き刺さった。みんな紫色、しかも強い紫色の光を放っている。


 もしかして、島左近って、すごくモテている?


 彼が、チラッと視線を向けると、私を睨んでいた女性達は、一気に色めき立っている。


「おまえ達、何をしている。さっさと仕事に戻れ」


「はい!!」


 怒鳴られたのに、彼女達は幸せそうな笑みを浮かべて、どこかへ去って行った。だが、視界から外れた場所で立ち止まって、こちらの様子を窺っている。


 彼もそれに気付いているようだが、無視しているらしい。これと同じことが道場に着くまでに、二度あった。


 道場のまわりにも、中にも、私を敵視する女性達がいる。



 彼が道場に入ると、皆、彼に頭を下げた。でも、彼はそれさえ無視している。


 そして、私に木刀を放り投げた。


「手合わせをしてやる。刀は使えるな?」


「いえ……」


「嘘をついても、ワシの目は誤魔化せん」


 そう言うと、彼も木刀を持ち、そしてスッと構えた。


 ちょ、ちょっと待って。私は剣道なんて、見たことしかないのに。




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