35、やっと島左近の英霊に会えたが……
彼らが慌てている様子からも、事実のようだ。
だから、無表情な女性は、私にあんなにいろいろなことを教えてくれたのかもしれない。私はとんでもないことを宣言してしまったのか。
彼ら……英霊たちは、光の強さに差はあるが、みな白い光を放っている。みんな、私の味方だということだ。慌てたのは、心配してくれているのね。
モモ爺の色眼鏡は、英霊にも有効なのか。すごいアイテムだな。あっ……考えると、覗かれるんだった。色眼鏡のことを考えると、数人がパッと私の方を向いた。
「お奈津さん、色眼鏡を使っているの?」
「えっ……あの」
謙信さんは、やわらかな笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「ほう、奈津のパートナーだった奴が使ったのだな。ますます誰だか知りたくなった」
「信長様、どういうことですか?」
「色眼鏡は、支給される道具ではない。自分のポイントを使って交換する道具だ。そう簡単には使えない。高いからな」
「そう、ですか」
モモ爺は、そんなことまでしてくれていたのか。私は、彼に何もお返しできていない。私がこの世界に出戻ったことで大幅に減点されたみたいだし、ほんと、私は迷惑ばかりかけている。
信長さんや数人の視線が突き刺さった。
あっ、ここで余計なことは考えてはいけないな。私の考えていることは覗かれてしまう。話題を変えなきゃ。
「あの、政さんは、なぜここに?」
「えっ、あ、あぁ、奈津、悪いな。オラ達がおまえをカモにしたことを、知っていたんだろ。クリア実績があるし、ましてや英霊候補者なら……」
「政さん、導きの社で少し説明は受けたけど、まだあまりわかってないですよ。それに、宿も案内してもらって助かりました」
「許してくれるのか」
すると信長さんが、話に割り込んできた。
「奈津は、天女伝説を築いた女だからな。キツイ奴だが、我も、教わることがあった。正確に言えば、我のコピーが、ということだがな」
「えっ、あちらの世界で突如現れた天女伝説?」
「あぁ、奈津のおかげで、あの世界の我は変わった。家臣の謀反もなくなったからな。こっちの世界は散々だが」
「本能寺の変を回避できたんですね。よかった〜」
「あぁ、だが、こっちの世界は、ずっと戦乱が終わらぬ。奈津はそのために来たのだろう?」
「えっ?」
ちょっと待って。戦乱が終わらないってことは、ずっと戦国時代? あ、だから、2000年には人間が滅びるの?
「信長、お奈津さんに無茶を言うな。それで、政は誰に用事だい?」
謙信さんに話を戻してもらって、政さんはホッとした顔をしている。私も、一瞬ホッとしたが、でも、奇跡を起こさないと消去されることに変わりはない。
「石田三成様にお願いしたかったのですが……」
「あぁ、彼は今日は来ていないよ。家康が来るときは家臣を代理にするからね」
「どなたが?」
「左近が来ているが」
えっ、左近?
島左近?
政さんは、渋い顔をした。だけど、謙信さんの視線が向いた先に進み、平伏した。
あの人が、島左近……やっと会えた。三十代半ばくらいに見える。でも、ここにいるのは英霊だから、攻略対象じゃないけど、コピーも似た雰囲気なはず。
「島左近様、初めてお目にかかります。英霊の使者希望の政と申します。石田三成様の使者の任をいただきたく……」
「ワシに言うな」
「でしたら、島左近様の使者でも……」
「いらん」
「ですよね……では石田様にお取り次ぎを……ひっ、し、失礼しました」
政さんは、島左近に睨まれて、小さくなっている。厳しい人みたいだな。
英霊の使者って何なのだろう?
「政、三成に会いに行ってみなさい。お奈津さん、使者というのは伝達役のことなんだ。我々は別の時代にいることになっているからね」
謙信さんは、政さんに優しい笑みを見せた後、私の方に向き直った。
「英霊とコピーの伝達役ですか?」
「そうだよ。ふふっ、政がなぜそんなことをやりたがるか不思議かい?」
「は、はい」
「政は、少し変わった子でね。このゲームに魅了されてしまったようなんだ。だから英霊と同じく、時の流れに逆らって生きている。使者になると、時の流れの支配を受けないからね」
「誰の使者でもいいんですか」
「あぁ、でも、使者には任期がある。それに再び同じ者の使者にはなれないからね。政は、しばらく使者をしていないから、扉をループする間に、少し歳をとってきたね」
謙信さんにそう言われて、政さんは頷いた。
「少年の姿に戻りたいので、力のある英霊の使者になりたいのです」
政さんは、男色だと言っていたっけ。若い方がいいのかな?
私は、島左近の方を見た。でも、彼は、こちらには関心がないようだ。私を見てもくれない。
はぁ、こんな人をどうやって攻略すればいいの?




