33、英霊たちの茶会
「ちょっ、乱暴なことをしないでください」
私は、部屋の中へ放り込まれ、畳の上に転がった。これまでの私なら、足をくじいていたかもしれない。
導きの社で無表情な女性が言っていた、身体能力の底上げをしてあるというのは、事実のようだ。
「へぇ、お奈津ちゃんなんだ。ボクが聞いていたイメージとは違う感じだな」
私が立ち上がると、すぐ近くに座っていた男性から、そんな声をかけられた。三十代に見えるのに、ボクっていうのか。
なんだか、まるでボクっ娘の秀吉さんみたいに……あれ? いま、ちゃん呼びされた?
「もしかして、秀吉さん?」
「そうだよ。ふぅん、あちらではボクのことをそんな風に呼んでいたんだね。親しかったのかな」
「はい、親切にしていただきました。あの、なぜそれを?」
そう尋ねると、秀吉さんは政さんの方を向いた。
「政、ボク達のことを何も話していなかったの?」
「えっ、あ、は、はい」
政さんは、目をパチクリさせている。こんな表情は初めて見た。いつも余裕があるのに。
「ふふ、お奈津ちゃんも政に話していなかったんだね。まだ出会ったばかりなのかな」
「おい、サル。おまえ、ちょっとポイントが高いからって偉そうにするなよ。奈津は、我を選んだのだぞ」
「ふふ、信長様は一番人気じゃないですか。減点されるようなことばかりしなければ、天下を取れるのではないですか」
ちょっと待って。ポイントとか減点とか、この人達は何を言っているの?
今度は私が目をパチクリする番だった。この人達って?
「おまえ達は黙りなさい。お奈津さん、私から説明するね」
やわらかな笑みの三十代後半に見える男性が近寄ってきた、これは誰?
「年寄りがでしゃばるな」
信長さんがそう言っても、彼はギロッと睨んで黙らせてしまった。一番の権力者なのかな。
「お奈津さん、お茶をどうぞ。皆も座りなさい」
そう誘われ、私は、畳に座った。信長さんでさえ、しぶしぶ従っている。
「お奈津さん、驚かせてしまったね。ここにいるのはすべて、英霊と呼ばれる存在なんだよ。あ、政は、ただのプレイヤーだけどね」
「英霊!? 幽霊じゃなくて、えっと」
「ふふっ、お奈津さん達のような人を、原始の世界からこちらの世界に招く者達のことだよ。パートナーという方がわかるかな?」
「あ、はい。原始の世界?」
「そう。英霊は、原始の世界から招かれたんだ。時の流れが三つあることは知っているよね? 最初の物語をクリアしたときに、担当した英霊が説明をしたはずだ」
「はい、聞いています。私の生まれた世界が科学の発展する世界で、クリアした男女逆転の世界が自然豊かな世界、そして今いる世界が、2000年には人間が絶滅するアンドロイドの世界になるって」
「ふふ、きちんと覚えているんだね。その科学の世界が原始の世界だ。だけど、科学の発展の弊害かな? 2500年あたりに星が滅びるような戦乱が起こってしまうそうだ。そこで、ある地点から時の流れを三つに分離して、戦乱で星が崩壊することを避けようとしたそうだよ」
「えっ!?」
「未来人ってすごいね。私も初めて聞いたときは信じられなかった。でも、新たに作り出した世界は、どちらも失敗のようでね。そこで英霊を招き、こんなゲームのようなことを始めることにしたそうだよ」
「そう、ですか。あの」
「ふふっ、ゲームの仕組みが知りたい?」
「えっ? あ、はぁ。あの、なぜ、別の世界のことを知っているのかって……」
「信長が言っていたことかな? 彼は思い出しただけだと思うよ。その知識をこの場で我々が共有した」
幽霊だから、共有できるのかな?
「思い出した?」
「お奈津さんがクリアした場面に、彼も居たんだよ。別のプレイヤーのパートナーとしてね。彼はいつも自分の近くにいる。家臣に裏切られた人は、疑心暗鬼なんだよね」
「モモンガ?」
「そうだね。あの物語は、新たに作られたから、パートナーは、モモンガのアバターだね」
「英霊とその場にいる自分は、同一人物ってことなんですね」
「あれ? その話も知らないのかい? お奈津さんについていた英霊は誰?」
「名前は教えてくれなかったです。ここに住んでいるからって。私がプレイヤーじゃなくなったら教えてくれるそうです」
「へぇ、律儀だね。信長とは大違いだ」
「えっと……」
「ふふっ、英霊は原始の世界から招かれた死者の魂だから、まずは2500年あたりに召喚され身体を与えられたんだ。そのときに、コピーを二つ取られたみたい。そのコピーから二つの世界に、それぞれ別の身体を与えて送り込まれたんだよ」
「じゃあ、クローンなんですね。あ、姿は違うけど」
「コピーは同じ感覚を持つ別人だよ。英霊には、二つのコピーに起こったことが伝わるんだけどね」




