31、打算的な男
「奈津はどこへ向かう? オラは、今浜城下へ行くが」
政さんは、手に入れたアイテムを使ったようだ。ガラス玉が割れて、淡い光が彼の身体にスーッと入っていった。
私が見ていることに気付くと、ちょっと頭をかいている。横取りした自覚はあるのかな。
「このアイテムは当たりだったぜ。好意をもたれているとわかるようだ。奈津には親切にしているのに、なぜか無反応なんだけどな」
「えっ?」
「いや、まぁ、オラが男色だと言ったせいかもしれねぇが……。オラはこう見えて、けっこう女に言い寄られるから、始めに言うことにしてるんだ」
「そ、そう」
モモ爺が私に使ってくれた色眼鏡? でも、あれは敵がわかるんだっけ。政さんは、わずかに白い光を放っている。白い光が味方で、紫の光が敵……政さんのアイテムは、味方しかわからないのかな。
「奈津は、どっちにしても、湖の外へ出るだろ? この小島に居ても、これ以上は、何も得るものはないぜ」
「じゃあ、私も、今浜に行こうかな。別の物語では、たぶんその城に居たから」
私がそう言うと、政さんは怪訝な顔をした。他の扉の行き先をすべて知っているのかな。私が男女逆転のストーリーに進んでいたことがわかったのかもしれない。
「今浜へは、舟で渡る。こっちだ」
私は、政さんの後ろをついて行った。
長浜じゃなくて、今浜というのか。うっかり長浜城と言いそうになった。政さんならいいのかもしれないけど、他の人には……あれ?
政さん以外の人達は、いつの間にか消えていた。なんていうか、ドライな感じだな。新人の手伝いの対価として、報酬を得るのではないのだろうか。
政さんは、小舟に近寄ると船頭らしき人に、銭を渡したようだ。あー、お金なんて持ってない。
「奈津、早く来い」
「政さん、私はお金を持ってないんですけど」
「わかってる。新人から銭を取る気なんてないから心配するな」
「ありがとうございます」
「政、女連れとは珍しいじゃないか。しかも、良い女だな」
船頭は、いやらしい目つきで私を見ている。この姿は、確かに、艶やかすぎるから仕方ないか。
「そんなんじゃねぇよ。オラは女には興味はない。たまたま拾っちまったから、ついでに今浜へ連れて行くだけだ」
「今浜じゃなくて、安土の方がお嬢さんも稼げるんじゃないか?」
「親父さん、彼女は忍びだぜ?」
政さんが声をおとしてそう話すと、船頭の表情からいやらしい笑みは消えた。
「それを先に言えよ、政。まだ死にたくねぇぞ」
そして、静かに舟は湖を走った。
忍びだというと、普通の民は怖れるのかな。天女には程遠い気がする。とりあえず、島左近捜しをしなければ。
岸に着くと、船頭は、さっさと戻っていった。
「政さん、私、忍びなのかな?」
「その能力を得たんじゃないのか? オラは、相手が自分より強いか弱いかがわかるアイテムも使っているが、奈津は、導きの社から出てきたら、格段に強くなっていたぜ」
「そうなんだ。実感はあまりないけど」
「だからこそ、オラは、奈津には親切にすることにしたんだ。他の奴らは、わかってねぇから、さっさと消えちまっただろ?」
「へぇ、政さんって、打算的なのね」
「じゃなきゃ、プレイヤーなんて、やってられねぇぜ? 基本、潰し合いだからな。潰されないように、強い奴には媚びるに限る」
そう言うと、彼は少年のように笑った。なるほど、女性に言い寄られるというのも、わかる気がした。
「ふぅん」
今浜の城下町は、かなり栄えているようだ。政さんの顔が広いのもあるだろうが、商売人からよく声をかけられる。
政さんは、何か目的があるようで、早足でスタスタと歩いていた。この地に詳しいプレイヤーは、一緒にいると心強い。
だが、彼は打算的だ。私を利用しようとしているような気がする。プレイヤーの中では、友好的な人なんだとは思うけど、ずっと一緒に行動するわけにもいかない。
「政さん、どこに向かっているの?」
「遠慮はいらねぇ。奈津も一緒に来ればいい」
「答えになってないけど」
「違ったか? いま、奈津がオラから離れていこうとしているかと思ったが」
「何か、変なアイテムを使っているの?」
「いや。クククッ、だいたいオラが目をつけた新人は、同じことを言うからな」
「いつも新人の手助けをしているの?」
「あぁ、それが一番、効率がいいんだ。特に、奈津みたいな女は、どこにでも入れるからな」
やはり、彼は私を利用しようとしている。遊郭にでも、売り飛ばそうとしているんじゃないでしょうね。あ、この時代に、遊郭はないかな。
「政さん、どこに向かっているの?」
「奈津は見かけとは違って、警戒心の塊だな。フフフ、安心しろ。大物をひっかけに行くぞ」




