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3、二つの誤解

「あの、お爺さん?」


 私は不安が限界突破してしまって、自分から話しかけた。


「おぉ……おろろんなのじゃ」


 声が聞こえてホッとした。


「お爺さんはどこに居るんですか? 姿が見えないんですけど」


「お爺さんではないのじゃ。今は、初期アバターだから見せたくないのじゃ」


「ここは、ゲームの世界なんですか? こんなアトラクションは、知らなかったです」


「ワシにとってはゲームじゃが、お奈津ちゃんにとっては現実世界じゃ。姿も変わっておるじゃろ?」


 突然、目の前に大きな鏡が現れた。


 そこに映る姿は、私ではない。若くなっているし、何より、私はこんなに可愛らしくない。


「これは、お奈津ちゃんじゃぞ?」


「アバターですか?」


「違うのじゃ。島左近の陣跡で会ったお奈津ちゃんは、消えたのじゃ。よく言う転生というやつじゃよ。過去に遡り、新たに生まれ変わったのじゃ」


「えっ? なぜ?」


「詳しい説明は、今はできないのじゃ。プレイヤーに先入観を持たせてしまうと、ルール違反になるのでな。今のお奈津ちゃんは、18歳なのじゃよ」


 転生? 18歳? そんなのありえない。



「お奈津ちゃん、今後のためにも、ちと確認したいのじゃが、よいか?」


「何ですか」


「この草原の草の色は何色じゃ?」


「はい? 緑ですが?」


 いきなり何を当たり前のことを聞くの? 唐突すぎて、ついていけない。


「ぬぅぅ……お奈津ちゃんの街の道にあった三色団子のような機械は、赤、黄ともう一つは何色じゃ?」


「信号機? 赤、黄、青」


「ぬぅおお〜、そうそう、青色じゃろ? なぜ、草の色を緑色と言うのじゃ」


 あー、確かに信号機って、緑色なのに青信号という。どうしてかは知らないけど。もしかして、色の呼び方で……あっ!


 そういえば、扉には、藍よりなんちゃらって書いてあった。緑色の方は、青い湖がどうのって……。


 もしかして、私が間違えて選んだってこと?


「うぐぐぐぐぅ……。プレイヤーは同時進行できないから、お奈津ちゃんがクリアしてくれるまで、ワシは次に進めないのじゃ。百合でないなら、ポイントは少ないが、お友達エンドを狙うしかないのぉ」


「由利ですけど?」


「違うのじゃ、名前のことではないのじゃ」


「じゃあ、何ですか?」


「百合は、女の子の同性愛じゃ。確か、お奈津ちゃんは、彼に裏切られて消えようと考えたから、百合ではないのじゃ」


 同性愛のこと? 知らなかった。


 お爺さんは、なぜ私が話していないことを知っているんだろう? ほんとに一体、何者? ますます怖い。


「ワシは、悪いお兄さんではないのじゃ。今は素性は話せないが、お奈津ちゃんがクリアすれば、話せるのじゃ」


「いっそのこと、私はやめて、他の人をプレイヤーにすればいいんじゃないのですか」


「途中で、やめられないのじゃ」


「私は、もう居なくなりますから大丈夫ですよ。もともと旅の途中で消えるつもりだったから」


「そ、それはダメじゃ! プレイヤーを死なせてしまったら、ワシはめちゃくちゃ減点されるのじゃ。お奈津ちゃんは、絶対に死んではいけないのじゃ!」


 そんなの……私はもう消えたいのに。



 ふと、左右に揺れ動く何かが、鏡越しの草の中に見えた。ん? ねずみ? ハムスター?


 そう考えたとたん、その何かは姿を消した。振り返ってみても、何もいない。ちょっとかわいかったのにな。


「むむ? かわいいのか?」


「えっと……なぜ、私が考えたことがわかるんですか」


「ワシがお奈津ちゃんのパートナーだからじゃよ。そんなことより、かわいいのか?」


「小さなハムスターがいたと思っただけです。あの、そもそも、ここはどこですか?」


「関ヶ原じゃ。500年近く時間は遡っておるがの」


「えっ!? タイムスリップ?」


「いや、お奈津ちゃんは、時間を遡って転生したのじゃ。そんなことより、かわいいのか?」


 なんだか、やたらとしつこいなー。


 そう考えたとき、目の前に、ソーッと、さっきのハムスターが現れた。怖がってる? ふふっ、かわいい〜。


「かわいいのか。そうか、それなら良いのじゃ!」


 えっ? ハムスターが喋った!?


「ワシじゃ。ハムスターではないぞ? モモンガじゃ」


「モモンガ?」


「そうじゃ。モモンガは、かよわいのじゃ。弱すぎて全然お役に立たないのじゃ」


「そう」


「つ、冷たいのじゃ。お奈津ちゃん、怒るのは良くないのじゃ。サポートしたくても、ワシはこのストーリーは初めてだから、わからんのじゃよ」


 別に、怒ってない。いや、怒ってるのかな。勝手に死んではいけないなんて決められて……。


「結局、これってゲームなんですよね」


「いや、お奈津ちゃんにとっては、現実世界じゃよ。お奈津ちゃんは、これから一生、ここで暮らすことになるかもしれないのじゃ」



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