29、導きの社
「奈津、おまえがこの扉を開け。オラ達は、ここで待つ」
いま私は、導きの社という神社のような場所の、古い木の扉の前にいる。
宿からついて来た二人の男性と三人の女性は、板の間の部屋へと入っていった。本殿なのだろうか。
「政さん、この扉の先には何があるのですか?」
「奈津に必要なものがあるはずだ。物語の各所には、導きの社があるんだ。それを見つけ、中に初めて入ったときに、技能やアイテムを得られる」
「そう、なんですか」
なんだかゲームのような設定だ。もう一つの男女逆転の世界にも、同じようなものがあったのだろうか。
パートナーがいないプレイヤー特典のようなものらしいけど……。
「オラ達は、奈津の同行者の手続きができた。奈津は、扉の中で困ったことがあれば、これを鳴らせ。オラ達全員が、奈津の応援に駆けつけることができる」
そう言って、政さんは、紐を通した鈴を私の首にかけた。派手な首飾りね。鈴が六つ付いている。
「あの……」
「まぁ、心配しなくても大丈夫だ。鈴が六つ、つまり六人の同行者がいることを表しているんだ。襲われることもない」
「そ、そう」
そして、政さんに見送られ、私は木の扉を開けた。
中はとても暗い。首にかけた鈴がわずかに光っている。発光塗料でも塗ってあるのだろうか。
だんだん目が暗闇に慣れてくると、そこは、洞窟のような場所だった。少しひんやりとしている。あたりを見渡しても、人の姿はないようだ。
道の先に、火のようなものが見えた。たき火というよりはもっと高さがある、キャンプファイヤーのようにも見える。誰かいるのだろうか。
私は、足元に気をつけながら進んでいった。身軽な着物は、やはり正解だったと思う。
火に近寄っていくと、突然、無表情な女性が現れた。あの扉の間の受付嬢に似ている。
あっ、そうか、彼女はアンドロイドなのかもしれない。この世界の未来は、2000年には人間は絶滅するって、モモ爺が言っていたもんね。
「お嬢さん、こんにちは。説明は必要ですか?」
やはり、扉の間と同じことを言っている。
「はい、お願いします」
「導きの社のご利用は、初めてですか?」
「はい」
「同行者が六名いるようですが、お仲間ですか」
「昨日、たどり着いたばかりで……仲間というか、宿を紹介してくれた人と、その宿の人や宿泊者です」
「なるほど。カモにされましたね」
「えっと、よくなかったのでしょうか」
「はじまりの地の導きの社については、翌朝に、直接プレイヤーにお知らせが届きます。単独でこの場所を探し出す個人イベントなのです。この個人イベント報酬は、案内されてやって来たお嬢さんには渡せません。同行者に分配されます」
「個人イベントが発生しなくなったということですか」
「発生しましたが、お嬢さんはその権利を放棄したことになります」
それでカモなのね。親切じゃなくて、報酬を横取りされたということか。私も何かを得られると言っていたけど、嘘なんだ。なぜそんなことを……。
「同行者は、なぜ、こんなすぐにバレるような横取りを……」
「バレるとは考えていなかったのでしょう。お嬢さんが、別の物語のクリア実績があることを知らないのではないですか? クリア実績のない方には、このような事情説明は行いません」
「あ、はい。話していないです」
「それは賢明な判断です。この世界は常に、プレイヤーでいる限り、足の引っ張り合いから逃れることはできません」
「プレイヤーでなくなれば、環境は変わるのですか」
すると、彼女は少し沈黙した。何? 聞いてはいけないこと?
「失礼いたしました。情報を入手しておりました。由利 奈津さん、貴女は英霊希望なのですね」
「えっ、あ、はい」
「貴女は、別の世界では奇跡を起こされました。素晴らしい成果です。この世界でも同じ種類の奇跡を起こせば、条件達成となります」
「その奇跡というのは、越後の民を説得したことでしょうか」
「ええ、天女伝説を残されました」
「でも、あれは、お爺さん……じゃなくて、パートナーの協力があったから、天女に見える演出ができたのです。同じことはできないです」
「可能ですよ。導きの社を発見すれば、個人イベントが発生します。その報酬の中には、様々なアイテムがありますからね」
「なるほど……ゲームみたいですね」
「ええ、我々は、新たな英霊を待ち望んでおります。しかも、由利 奈津さんの場合は、かなり影響力の強い奇跡を起こされました。期待しています」
「は、はぁ」
「それと、先程のご質問ですが、プレイヤーでなく、この世界の住人となれば、プレイヤーの敵ではなく攻略対象となります。立場が逆転しますよ。さて、そろそろ始めましょうか」
えっ? 何を始めるの?




