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26、新たな扉の先へ

 無表情な受付嬢が姿を消し、私の目の前には、扉が現れた。さっきは、七つあったのに、今は三つだけだ。


 赤、黄、緑。


 信号機の色の三色ね。よかった、緑の扉があった。


 丸いテーブルの上には、私の名前が書かれたファイルがポツンと置いてある。ファイルの表紙の名前の横に、英霊志望という印が押されている。


 とっさに英霊志望だと言ってしまったけど、お爺さんと同じパートナーの仕事をする人のことよね? 


 でも、英霊って、英雄じゃなきゃなれないんじゃないのかな。英霊の霊って、幽霊の霊。私は死にたいって言ってしまったのかもしれない。


 それに、同じ奇跡を起こせばと言われても、何が奇跡なのかわからない。私は何をすればいいのかな。


 だけど、パートナーは付かなくても、私はプレイヤーなのよね。とりあえず、お爺さんのお願いを叶えてあげることが最優先だわ。



 私は、緑の扉に近づいた。



『王道イケメンストーリー編 〜青き湖のキラキラ恋物語〜』


 うん、これで間違いない。そういえば、あの時、お爺さんは、イケメンのアバターで待っていると言っていたっけ。さっきは何も言わなかったけど。



 私は、緑の扉を開いた。やはり、小部屋があり、その先にまた、緑の大きな扉がある。


「こちらで衣服を選択してください。いま着用されているものは持ち物ごとすべて、ロッカーにてお預かりします」


 無機質な声が聞こえてきた。以前とは比べ物にならないほど、たくさんの着物のマネキン人形が現れた。


 花魁おいらんのような派手な物や、十二単じゅうにひとえっぽい平安時代かのような物まである。


 だけど、戦国時代よね? 


 私は、一番動きやすそうな着物を選んだ。


「そちらで宜しいでしょうか」


「はい」


「念のため、確認させていただきます。選ばれた着物によって展開が異なります。高価な着物なら高貴な身分と判断されるかと存じますが」


「動きやすそうな物の方がいいので」


「かしこまりました」


 突然の強い光で、視界は真っ白になった。光がおさまると、私は選んだ着物を着ていた。うん、動きやすい。


「ロッカーの鍵は、身体に埋めてありますのでご安心ください。特殊技能を得られたら、ロッカーの利用が可能となります。それでは、いってらっしゃいませ」


 特殊技能? そっか、パートナーはいないからか。でも、現代の荷物はたぶん使わない。


 私は、緑色の大きな扉を開いた。




 そこは、やはり草原が広がっていた。ここは、戦国時代の関ヶ原なのよね?


「お奈津ちゃんか?」


 後ろから声がした。だけど、お爺さんの声ではない。若い男の人の声に聞こえた。振り返ってみると、木彫りのお面をつけた袴姿の男性がいた。


「えっと、奈津ですけど?」


「うおおおお……」


 この反応は、お爺さんね。


「お爺さん? なんだか声が若いし、イケメンのアバターじゃないの? お面をつけて……あ、ジャジャーンって言って、お面を外すのかな」


「お奈津ちゃん、また姿が変わっておるのじゃ。なぜじゃ? 粗末な着物を選んだからか? いや、それなら何かアイテムをくれるだけじゃ。うぬぬぬ……」


「私、また顔が変わったの?」


「うむ、いま姿見を出すのじゃ」


 目の前に鏡が現れた。えっ!? これまでとは全くタイプが違う。さっきまでは可愛らしい女の子だったのに、花魁が似合いそうな艶やかな顔になっている。


 例えるなら、さっきまではアイドル顔だったのに、今はクール系のモデルのような雰囲気。いや違うわね。妖精のような可愛らしい顔だったのに、サキュバスのような色っぽさのある、こずるい顔。


 お爺さんは、頭を抱えてブツブツと何かを呟いている。


「お奈津ちゃん、まさかとは思うが、受付嬢に騙されたのではないか? 何を言われたのじゃ。お奈津ちゃんは、なぜそんな姿になったのじゃ」


「変な顔なのかな?」


「そんな姿じゃと……うぬぬぬ、言えないのじゃ。先入観を持たせてはいけないのじゃ」


 お爺さんは、お面で顔が見えないけど、たぶんガッカリしているんだろうと思う。一緒に過ごした姿ではなくなってしまったからかな。


 でも、お爺さんもモモンガじゃない。



「お爺さんは、なぜお面をつけているの?」


「ワシは、お爺さんではないのじゃ。これがワシの姿じゃ。今は担当するプレイヤーがいないから、アバターは使えないのじゃ」


「お面を外してみせてよ」


「そ、それは、お奈津ちゃんがプレイヤーだから駄目なのじゃ。お奈津ちゃんが物語をクリアするか、失敗してこの世界の住人になったら、見せられるのじゃ」


「それって狐のお面?」


「うぬぬ……モモンガのお面は持っていないのじゃ」


「ふふ、ふふふっ」


「な、なんじゃ」


「なんだか、お爺さん、かわいい。私にはモモンガに見えているから大丈夫だよ」


「そ、それなら良いのじゃ。説明をするのじゃ!」



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