表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/71

21、天女伝説

 信長さんがジッと見守る中、ボール状のドーナツを作った。ホットケーキの予定だったが、油屋さんから食用油を買っていると言って、秀吉さんが油を出してきてくれたので、急遽変更したのだ。


 高そうな壺に入っていた砂糖を最後にまぶす作業を、信長さんに依頼した。かなりガッツリつけてる。


「奈津、我は、民が砂糖をたっぷり食べられる世にしたい。だが、敵をつくり過ぎたな」


 信長さんは、寂しそうな顔でポツリと呟いた。



 この人は、冷徹なイメージだったけど、それは外面のことなのかもしれない。内面的には、民を思う良い領主なんじゃないかな。


 いま、信長さんの城は築城中で、秀吉さんの城に気軽に馬をとばしてくる距離……。ということは、ここは長浜城で、いま安土城を築城中。


 早ければ、あと五年くらいで、本能寺の変が起こるのか。



「信長様、でも貴女は、後世に語り継がれる偉人だと思いますよ」


「奈津、もしかして、おまえは越後に舞い降りた天女か?」


「へ? 天女って何ですか?」


 私が呆けた顔をしたためか、信長さんは、フンと鼻で笑った。彼女は、もう、いつもの表情に戻っている。


「天女伝説を知らぬのか? 謙信の城に現れた天女のお告げで、越後の民は一揆を起こさなくなったのだ。そして、それ以来、信玄との川中島の戦いも起こっていない」


「えっ……」


「天女は、民を鎮めるために、空を飛ぶ鳥に憧れるような不思議な歌を歌ったという。異国の宣教師の賛美歌でもないらしい。日の本の神の歌ではないかと語られている」


 ちょ、ちょっと待って。あれは、全体イベントで……この世界とは別世界なんじゃないの?


 もしかして、私はタイムトラベルをしたの?



「へぇ、そ、そうなんですか」


 私は明らかに動揺していたのか、変な声になった。だけど、天女を知らなかったためか、もう私を天女だとは思っていないようだ。


「もし、天女がいるなら、我の近くにも現れてほしい」


 彼女は、ポツリと呟いた。



「いや、なんでもない。奈津、今の言葉は忘れろ。それより、菓子は、もう食べられるのか」


「はい、冷めたので大丈夫ですよ」


 そう言うと、彼女は、ボール状のドーナツをパクリと食べた。まだ毒見をしていないのにいいのかな。


 いつの間にか戻ってきていた秀吉さんが、一瞬慌てた顔をした。やはり、ね。


「奈津!! これは、南蛮の菓子だぞ! どこで教わった?」


「えっと……」


「そうか、記憶が欠けているのだったな。だが、作り方がわかればそれでよい。見ていた者は、覚えているな?」


 信長さんが一番ジッと見ていたと思うけど。


 台所にいた人達は、ピリピリしながらも頷いた。この食用油は、天ぷらに使うそうだ。揚げ物ができる人なら、ドーナツも簡単に作れるはずだ。



「さぁ、皆、食え! 甘い菓子だ」


 私も一つ食べてみた。不味くはないけどイマイチな味だ。バニラエッセンスもないし、バターもないから、まぁ仕方ないか。


 台所の責任者っぽい女性は、ドーナツを一口かじって、目を見開いていた。お菓子を食べ慣れない人には甘すぎるかな。信長さんが、砂糖をつけすぎているからだ。


「信長様、外にまぶす砂糖は、なくてもよかったですね。生地にも砂糖を入れたから、甘くなりすぎました」


「奈津、まだ足りないくらいだ」


 いやいや、甘すぎるでしょ。


「お奈津ちゃん、この南蛮菓子、宣教師から献上されたものより圧倒的に美味しいよ。確かに少し甘いかな」


「アイツらが持ってきた菓子は、珍しいだけで臭かったしな。毒を盛られたのかと勘ぐる奴もいたほどだ」


 もしかして、作ってから何ヶ月も経った物なのかな。宣教師ってことは、ヨーロッパか……どれだけ時間がかかるかもわからないな。




 信長さんは、残ったドーナツを持って帰っていった。ほんと、嵐のような人だな。


「お奈津ちゃん、ありがとうね。助かったよ」


「いえ、私も楽しかったですし。秀吉さん、ちゃんと寝てくださいね」


「大丈夫だよ。慣れてるからね」


 悪戯っ子のように微笑むと、秀吉さんも台所から出ていった。


 私は、再び、ボール状のドーナツをたくさん作った。今度は、壺の砂糖はまぶさず、プレーンな感じに仕上げた。


「これは、あまり甘くないと思います。皆さんで、お夜食にどうぞ」


「姫様、ありがとうございます!」


 私は、やわらかく微笑み、ドーナツを少し持って自室へ戻った。




「モモ爺、ドーナツ食べる?」


「食べるのじゃ!」


 着物の袖から飛び出したモモンガ。あれ? 菓子作りは終わったのに、なぜ居るのかな。ミニイベントは終わったはず。


「ご連絡があるのじゃ」


「何?」


 ドーナツを頬張るモモンガ。なぜ、二個同時に食べているのだろう。


「お友達エンドの条件を満たした対象者がいるのじゃ」


「まだ、島左近に会ってないよ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ