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16、お立ち台?

 広間で怪我人の包帯交換を手伝っていると、次第にプレイヤーらしき人達から、紫色の光が消えていった。よかった。


 手伝いをしながら話を聞いていると、最近、一揆が起こっているそうだ。ここにいる怪我人は、相手が百姓だと軽く考えていたせいで、怪我をしたらしい。


 川中島の戦いは、もう三年ほど起こっていないそうだ。まだ決着していないけど、尾張がゴタついているから、消耗するわけにはいかないと、鼻息荒く話す人もいた。


 大きな怪我をしているのは、川中島の戦いのイベントに参加した、私と同じくメイン会場に入れなかったプレイヤーばかりのような気がする。


 しかし、このイベントってどういう仕組みになっているのかな。過去にタイムスリップしたようにみえるけど。


 お爺さんが、袖の中で眠っているように見えるのは、ここにたくさんのプレイヤーがいるからか。


 みんな、メイン会場に入れないばかりか、一揆で怪我をして……きっとイラついている。私は、隠れキャラを演じていなきゃ。




 ドタドタドタ!


「大変だぁ〜! 謙信様は!?」


 門のところにいた見張りの人が、広間に駆け込んできた。


「どうした?」


「百姓達が、城門前に押し寄せてきて、城主を出せと、クワや棒を持って騒いでいるんです」


「なんと、身の程知らずな……。一歩でも立ち入ったら、斬り捨てよ!」


 さっきまでにこやかだった女性が豹変している。怪我人達にも、刀を持って立ち上がる人もいる。


「なめやがって! 返り討ちにしてやる」


 ちょっと、そんなのダメ!


「怪我人は、おとなしくしていなさい!」


 私は、思わず怒鳴っていた。自分でも驚くほど、キツイ言い方になった。プレイヤーらしき人達はちょっとひきつった顔をしている。


「お嬢さん、突然……」


「私、ちょっと説得してきます!」


「えっ……?」


 私は、気がつくと走り出していた。走ると左足が痛い。少し引きずりながらも、夢中で城門を目指した。




「お奈津ちゃん! どうする気じゃ? 城主に直談判をしに来た奴らは、皆、死ぬ気じゃ。話など聞かぬ。城主も、こんな無礼を許すわけにいかないのじゃ」


「城主と、会わなければいいでしょ。説得するから」


「飛び出していくと、お奈津ちゃんの命が危険なのじゃ」


「お爺さんには悪いけど、私、この時代の理不尽な感じって合わないの。どうせ死ぬつもりだったから、もういいよ。何もしなくても、いつ毒殺されるかもしれないじゃない」


 そう言うと、彼は黙った。キツイことを言ってしまった。お爺さんには、助けられていたのに……。ごめんなさい。



 城門が見えてきた。


 えっ? 謙信さんが鎧を着ている。兼続さんも。


「お二人、ちょっと待って!」


「お奈津さん? どうした? ここは危険だから奥に……」


「ダメだよ!! 謙信さんはここにいて。兼続さんもダメ!」


「いや、もうここまで来たら……」


「私が説得する。お百姓さんでしょ? 越後の大切な民でしょ」


 私の勢いに驚いたのか、城門に向かっていた二人は歩みを止めた。


「だが、城主を出せと言っている」


「兼続さん、それは戯言だよ。そのままの言葉じゃない。助けてって言ってるんだよ。もしくは、何者かにそそのかされてる。私が説得できなかったら、それからでもいいでしょ」


 私が必死になっていることが伝わったようだ。自分でも、なぜこんなに必死なのかはわからないけど。


「わかった、だが、一人で出ていくのは危険だ」


「一人の方が安全だよ。武装していない小娘に、いきなり襲いかかるほど、この国の民はおかしくなっているの?」


 私がそう言うと、謙信さんはフッと笑った。


「お奈津さん、好きにしなさい」


「ええ、ありがとう」


 私は、城門に向かって歩き始めた。左足が痛い。でも走らなかったら間に合わなかったかもしれない。




「お奈津ちゃん、お立ち台を使うのじゃ」


「えっ? お立ち台?」


「いま、用意した。城門の外に出たらすぐに現れるのじゃ。見えない強化ガラスで囲むから、投石くらいなら平気じゃ。拡声器もいるかのぅ?」


「うん、お願い。でもそんなことして大丈夫なの?」


「ワシに任せるのじゃ。ワシがお奈津ちゃんを守るのじゃ!」


 えっ……。なんだか、ちょっと、ジワっときた。



 城門の勝手口のような扉から外に出ると、見張りの兵と、農民とが、押し合いをしている状況だった。


 パッと、台が現れた。それに気づいた農民が、恐る恐る空を見上げている。空から落ちてきたように見えたのかな。


 私は数段を上り、台の上に立った。その瞬間、何かが発動する振動があった。強化ガラスかな。


 目の前に、メガホンのようなマイクも現れた。トントンと叩くと、何人かの視線がこちらを向いた。


 スゥハァと深呼吸をして、息を整えた。



 そして、私は、歌い始めた。



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