表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/71

14、越後へ

 山道を下っていくと、馬が何頭かいるのが見えた。


「お奈津さん、馬は乗れるかな?」


 凛とした美人が、そんなとんでもないことを言い出した。まさか、乗れるわけがない。実物を見たことさえ、ほとんどないのだから。


「いえ、触れたこともないです」


「じゃあ、乗せてあげよう。馬を待たせてあるんだよ」


「お待ちください。素性のわからない娘を……」


 同行していた女性が、彼女を制した。名前を呼ばないのは、私が警戒されているということかな。


「素性ならわかるよ。お奈津さんは、誰かに命を狙われている。そうだな、薬師か祈祷師、かな?」


「えっ?」


 なぜ、そんなことがわかるのだろう。確かに男性プレイヤーに毒殺されそうになったし、医術を学んでいると誤解されている。


「ふふっ、お奈津さんが驚いてしまったね。当たっているみたいだよ」


 彼女は、悪戯が成功した子供のような、無邪気な笑みを浮かべた。凛とした姿とのギャップに、私は少し混乱した。この人、何者?



「あの……」


「さぁ、おいで」


 いつの間にか、馬の背にまたがった彼女に、私は腕をつかまれていた。い、いや、そんな、待って待って!


「お嬢さんは、本当に馬に触れたことがないようですね。袖が重そうですが、中の物が出てしまわないか?」


 私を馬上に押し上げてくれた女性が、私の着物の袖を触った。モモンガは、うにゃっと変な声をあげている。


「おや、旅のお友達かな?」


 凛とした女性は、モモンガに気付いたようだが、特別な反応はない。他の女性も気にしていないらしい。プレイヤーではないのね。


「あ、はい」


「ふふっ、あとで見せておくれ。とりあえず、私の城でいいね? 越後に着く頃には日が暮れる」


「えっ? お城?」


 そう聞き返したが、彼女はクスッと笑って、馬の腹を蹴った。わっ! 急に馬が走り出した。落ちそうになった私を、彼女が後ろから支えてくれた。


「お奈津さん、怖がらないで。馬に伝わるからね。前を向いて、景色を楽しんでおくれ」


 そんなことを言われても、高いし、揺れるし、ちょっと気持ち悪くなってきた。だんだん慣れてきた頃には、目的地に到着したようだ。




「さぁ、着いたよ。お腹空いたね」


 彼女は、私をひょいと抱きかかえて、馬からひらりと飛び降りた。わわっと……。まだ、左足の怪我が完治していないから、ズキッと痛んだ。


「うん? 怪我をしているのかな」


「あ、はい。もう、治りかけですが」


 彼女は、私の着物をめくった。一応、まだ包帯を巻いてあるが、あー、ちょっと血がにじんでいるか。かさぶたが衝撃ではがれたのかもしれない。


「ちょうどいい、たくさん薬草を摘んできたんだよ」


 彼女は私の手を引いて、城門をくぐり、ずんずんと歩き出した。越後だから、ここは上杉謙信の城? この女性は、偉い人よね? 



「どこへ行っていたのですか!!」


 突然、大きな声が聞こえた。スラリと背の高い三十歳前後の女性が、鬼の形相で仁王立ちしている。


「ご、ごめんね。ちょっと野暮用で……」


 凛とした女性は、大きな声の女性の登場にギクリとしている。あの人が、上杉謙信なのかな。隙のない雰囲気は、確かに軍神ね。


「蔵から大量の塩を持ち出して、どんな野暮用なんですか! 謙信様!!」


「怒らないでおくれよ。アイツが困っていただろう? 持って行ったらどんな顔をするかなぁって考えたら、楽しくなってしまったんだよ」


 あれ? 叱られているこの女性が上杉謙信? 大きな声の人って、上杉謙信より上の立場の人? そんな人、いたっけ?


「その手を引いている娘は、どうしたんですか」


「お奈津さんだよ。迷子の子猫ちゃんなんだ。危ないから連れて来たよ」


「謙信様! こないだも迷子の子猫ちゃんを連れて来ましたよね? 確か、子猫ちゃんではなく、化け猫でしたか」


「あー、あれは失敗だったな。でも兼続がうるさいから、お奈津さんには、私の素性は明かしていないよ」


「私がなんですって?」


 声の大きな人は、兼続? 直江兼続!? こんなにコワイ人なの?


「もう、兼続がキャンキャン騒ぐから、お奈津さんが怯えているじゃないか。それより、お腹が空いてるんだ」


 兼続さんは、大きなため息をつくと、どうぞお通りくださいと道を譲ってくれた。謙信さんは、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、私の手を引いて歩き出した。


「お奈津さんがいてくれてよかったよ。うるさいんだよね、兼続は」


「あ、あの……。上杉謙信様でしたか」


「ふふっ、私の素性は秘密だよ」


 いや、もう、わかってしまったんだけど……。


「さっき運んでいたのは、塩なんですね。甲斐へ?」


「そう、アイツが塩を止められているからね」


 アイツって、武田信玄かな。あれ? このイベントって、川中島の戦いじゃないの?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ